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魔王の受胎

「わぁー! ……とぉ!」


俺はフィオを抱き抱えたまま、床に転がり落ちた。元の世界に戻れたんだ。


「ムギュウ」


オウムのフェイルノが、俺とフィオに挟まれて、苦しそうに喘ぐ。


「ごめんな、フェイルノ。」


「ごめんね、フェイルノ」


俺とフィオは、慌てて離れた。

フィオはそのまま、人の姿に戻る。


「おかえり!!」


そこへ聖騎士ギルバートが、真っ先にやってきて、ハグしてくれた。


「おかえり、その様子だとうまくやったな」


続いてケルヴィン殿下が、嬉しそうに微笑む。


「待ちくたびれたぞい。このうるさい女の相手ばかりしていては、身がもたん」


魔導士ティトも、結界の鏡を振りながら近づいてきた。


よかった。

何事もなかったみたいだな。


「みんな、ただいま」


「ただいま、かえりました」


「タダイマ、イイコニ、シテタ?」


と、俺たちが言うと、祈祷していたテレクサンドラも立ち上がった。


「ふぅ、よかった、ご無事で……」


「ありがとう、テレクサンドラ。あなたのおかげだ」


「いいえ、アーチロビン」


「疲れたでしょう? テレクサンドラ。すぐ休んで───」


「私は大丈夫です。それより、見てください」


そう言って彼女は、祭壇のそばにある天体を表すモニュメントを見せる。


月食は、終わっていた。


そして───。


「何だ……禍々しい色の太陽?」


モニュメントの太陽の色が、異様な色になっていった。この兆し……まさか!


「見て、みなさん。外を」


テレクサンドラの言葉に窓の外を見ると、今モニュメントで見た色と同じ光が、窓から差し込んでくる。


「夜明けです……」


異様な色の太陽の光が、ゆっくり俺たちを照らしていく。ついに魔王が復活するのか。


ガタガタ! ガッシャーン!!


大魔導士イルハートのコピーが、一気に全身を変異させて、窓の外に向かって飛び出していった。


「魔王が、『魔の泉』に受胎したんだわぁ」


結界の鏡の中から、大魔導士イルハートがのんびりした声で説明する。


「魔の泉?」


俺が尋ねると、魔導士ティトが、窓の外を睨んで教えてくれた。


「伝説の泉じゃ。魔王はそこからしか産まれない。イルハートのコピーは、そこに呼ばれたのじゃよ」


「追うか?」


「そこは人の目には見えぬと聞く。産まれいでるまで、手出しは出来ぬ」


「そうか……どれくらいで産まれてくるんだ?」


「先の魔王は、兆しが出てから七日で産まれたそうじゃが、今回は異例の誕生じゃから三日以内じゃろう」


「三日か」


俺が呟くと、テレクサンドラはマントを羽織って俺たちを見た。


「皆さん、これから魔王復活となり、世界は脅威に晒されます。私はテデュッセアと入れ代わり、本来の月の神殿に戻ります」


「テレクサンドラ、月の結界を張るのか?」


「えぇ、ケルヴィン殿下。よくご存知で」


「テデュッセアが、そんなことを言っていたから」


「はい。彼女もここへ戻さないと。私たち二人の力で、朝と夜にそれぞれ結界を張り、魔族の侵攻を止めるのです」


俺は拳に力を入れた。

俺たちも、備えないとな。


「もう、ネプォンも去るだろう」


俺が言うと、大魔導士イルハートは、大きなあくびをした。


「あいつ、今頃怯えて逃げ回ってるわよぉ」


まぁ……ついに目の前に兆しが出たからな。


「世界は、ネプォンに期待する。だって前に倒してるからねぇ。クスクス、神剣すらない丸腰の勇者。ウケるわぁ」


大魔導士イルハートは、笑いだした。こいつ、本当にあいつにもこんなに薄情なんだな。


ケルヴィン殿下は、前に立つと俺たちを見回した。


「確かに世界が注目するのは、ネプォン義兄上と、その時のパーティメンバーだ。現存する有名な英雄として。ただ……」


「そうじゃ、ケルヴィン殿下。シャーリーといイルハートは欠けて、ネプォンとヴォルディバの2人だけじゃ」


「世間は、彼らを捕まえてでも行かせようとするだろうね。ヴォルディバ先輩は楽天的だから、魔法使いを補充すりゃ勝てるとかいいそうだな」


「ギルバート。シャーリーとイルハートに匹敵する者は、そういない。ここにいる、ティトとフィオくらいなものだ」


「ア、アーチロビン! わ、私はシャーリー様の代わりなんて、まだまだ……!」


「いいや、フィオはシャーリーを超えてるよ。おそらく、オベリア様も」


「!!」


フィオは、耳と尻尾をピン! と立てて固まる。


彼女は、攻撃力を最大限に上げた、レディオークの渾身の一撃をシールドで防いだ。


現存する神官の中でも、唯一無二の霊力を持つだろう。


「彼女はともかく、私を超えるのがこの婆さんだなんて言わせないわよぉ?」


大魔導士イルハートが、結界の鏡の中からティトを睨んでいる。


「どうだかな。ティトは、かつての大魔導士候補の一人だ。白薙様も、ティトの力を認めていたしな」


ケルヴィン殿下が、魔導士ティトを見て、腕を胸の前で組んだ。


確かに。大魔導士なれなかったことに、疑問を持っていたからな。


「ふふふ、この餓鬼に負ける気はせんわい」


魔導士ティトは、結界の鏡の中の大魔導士イルハートを覗き込んだ。


この二人が勝負したら、どっちが勝つんだろう。イルハートの方が優勢かもしれないけど、ティトの力も侮れないからな。


当の大魔導士イルハートは、口を尖らせている。

不満なんだろうな。

自分が、なんでも一番だと思っている節があるから。


「はーあ? あんたまで、私と張り合う気ぃ?」


「生き残るものが、強い。結果は自ずとわかるはずじゃ。全てが終わるまで待てるな? お嬢ちゃん」


「……誰が、あんたの元カレの命を握ってるか、忘れてないわよねぇ?」


「イルハートよ。誰がお前の安全を守っているか、忘れておらんだろうな? 醜くなりたくないのじゃろ?」


言い返された大魔導士イルハートが、目を細めて魔導士ティトを睨む。


険悪な雰囲気の中、ケルヴィン殿下が軽く咳払いをした。


「ゴホン、まあ、これから魔王及び、その眷属たちとの戦いになる」


その場のみんなが、シーンと静まり返る。


俺はふと、ネプォンたちについて回って旅をしていた時のことを思い出した。


魔族たちが、我が物顔で荒らし回ってたよな……。


魔王を完全に倒すために、復活の肩入れをした以上、責任を持って倒さないといけない。


今回は、英雄と同等の力を身につけた魔王。

一番手強いはずだ。


でも、これで倒せれば、今後何百年後かに生まれる新しい魔王はこの秘術を使わないだろう。


そのためには、準備をしないと。


「魔王は、あらゆるスキルを身につけた筈だ。攻撃力、防御力も相当なものだ」


俺の話を聞いていた聖騎士ギルバートが、うーんと唸った。


「スキルも、たくさん持ってるしね」


ここで、魔導士ティトも参加してきた。

彼女も、険しい表情で考え込む。


「あれもこれもと、スキルを発動されたら面倒じゃの、アーチロビン」


「まったくだ。スキルという生き物を相手にするみたいだ」


絶対魔法防御や絶対武器防御、永久スピードアップに永久回復……あげていけばきりがない。


「ふん、ねぇ、ぼうやぁ?」


大魔導士イルハートが、小馬鹿にしたような目で俺の話を聞いていた。


「まさか逃げるなんて、言わないわよねぇ?」


「俺が?」


「怖いから、て、投げださないでよぉ? 神器を持たないのは、ぼうやも同じ。責任持って今の力で、魔王の魂まで砕かないとねぇ。」


「そのつもりだ。いざという時は……」


そう言いかけて、フィオが俺を訝しむように見上げる。


「……アーチロビン?」


「いや、なんでもない、フィオ」


そう答えた瞬間、神殿の外から大声が聞こえてきた。


「ネプォン王が逃げたぞぉぉ!!」


「捕まえろぉ!!」


読んでくださってありがとうございます。

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