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人質

珍しく暗黒騎士ヴォルディバに脅されて、ネプォンの方も睨み返している。


「どうする気だ? あ? 今の地位は、俺のおかげだってことを忘れるな、ヴォルディバ」


「ち!」


「いい酒を奢ってやる。それを飲んで寝てろ」


「ふん……一番高い酒だぜ」


「よし、店主! 一番いい酒を!」


「へい、毎度あり!」


二人は高価なお酒を買って、店を出て来る。

なんだか、微妙に空気が険悪だな。


俺たちは、隠れながら様子を伺った。


「俺は月の神殿に戻るぞ、ヴォルディバ」


「あぁ……て、あれ?」


「なんだよ」


「お前なんで、袖が焦げてるんだ?」


「!? あ、いや……」


「左手の平が、ヤケドしてんじゃん」


「いや……これはぁ」


「よく見たら、唇までヤケドの痕があるぞ?」


「見るなよ!!」


「月の神殿で、寝ぼけて蝋燭の火でも握ったか?」


「あぁ、くそ! 回復薬の効き目が悪いなぁ!!」


「ははぁ、ネプォンよぉ。あの巫女さんにイタズラしたな?」


「ち……あの女! 遥か昔からよく言うだろ? 嫌よ嫌よも好きのうち、てなぁ?」


「わかるぜ。女は嫌と言いながら、本当は迫られて喜んでるもんな」


「だろう!? それなのに……あの女、嫌なものは本当に嫌だと言うんだぜ?」


「それで、ヤケドさせられたか」


「まったく、こんなに焦らされたことはないぜ。この前も、白狐の女の子に鼻を折られたしたな」


「はは! お前、マジでラック値落ちてきたんじゃね?」


「うるさい、さっさと戻れ!!」


「へいへい」


二人は店の前で、別れていく。


それを見て、魔導士ティトがふん! と鼻を鳴らした。


「アホな連中じゃな。『嫌』は『嫌』に決まっとる。焦らしの『イヤ』とは、意味が違うわい」


ヤケドさせられるほど嫌がられても、焦らしととるあいつの考え方は俺にもわからない。


「テデュッセア、うまく撃退したみたいでよかったですね、ケルヴィン殿下」


フィオが、ケルヴィン殿下の方を見て、微笑んだ。


「あいつ、絶対許さん」


ケルヴィン殿下は、怒りを込めた声で凄む。

やっぱりこの人、テデュッセアに本気になったみたいだな。


俺たちはネプォン達が去った店に入ると、高価なお酒を購入する。


神龍酒には及ばなくても、きっと満足してもらえるはずだ。


これでいよいよ、日の本へと行ける。


俺たちは太陽の神殿へと、戻りだした。


その時だ。


「止まれ」


魔導士ティトが、俺たちを止めた。

なんだ?


「どうした? ティト」


「イルハートじゃ」


「!!」


太陽の神殿へと続く隠し通路の前に、大魔導士イルハートが立っていた。


顔は綺麗に戻っている。


「ぼうや達ねぇ」


大魔導士イルハートは、黒いローブを纏って近づいて来た。


変装しているのに、よくわかるな。


「よくも、俺の目の前に出てこれたな」


俺が言うと、彼女は澄ました顔で首を傾けた。


「私がネプォンをここに呼べば、あなたたちは捕縛される。何より……あなたの大事なおじいさんも、危なくなるわよぉ?」


なんだと!? じっちゃんに何かする気か!?


カッとなって前に出ようとする俺より先に、魔導士ティトがロッドの先を彼女の喉元に突きつけた。


「アーサーに手を出してみろ。お前が魔王に取り込まれる前に、粉々にしてやる」


「ふふ、あらぁ。やっぱりあんたの想いびとだったのぉ。クスクス、一生の愛をあんたに捧げた馬鹿な男は、あのおじいさんなのねぇ」


「今の言葉は、遺言と思っていいか?」


「やだ、こわーい」


相変わらずのらりくらりとかわして、真意を見せない。


うんざりする。


「何しに来たんですか?」


フィオも、祈りの書を構えて大魔導士イルハートを睨みつける。


「取引よ、お嬢ちゃん」


彼女はそう言うと、記録魔法の水晶玉を取り出して、中身を見せる。


ぼんやりと水晶玉は、じっちゃんの姿を映しだした。


「じっちゃん!!」


「アーサー!!」


俺と魔導士ティトは、前のめりになってその水晶玉を見つめた。


じっちゃんは、どこか知らない部屋に閉じ込められているようだ。


不安そうに、ウロウロと歩き回っている。


「何しやがった!?」


俺が彼女に詰め寄ると、大魔導士イルハートは、水晶玉を近づけて来る。


「私を守ってもらうわ。さもなければ、ほら、よく見てぇ」


水晶玉に映るじっちゃんと同じ部屋に、石化されたシャーリーがいた。


パキッ、ピシッと音がして、石化しているはずの彼女の顔にヒビが入る。


まさか……!


「今の私は、大聖女オベリア様の霊力を上回れる。石化を解いて、あなたのおじいさんを襲わせることもできるぅ」


「貴様!!」


「私が死ねば、直ぐに石化が解けるの。ティト、あんたならわかるわねぇ?」


彼女に言われた魔導士ティトは、悔しそうにロッドを降ろした。


「この、外道が! 堕ちたものじゃな!!」


「命の危機に、正道も外道もないわよぉ」


「師匠のメアリーは……ワシの親友は、お前の魔法の才能ばかり伸ばして、人の道を教えなんだか!!」


「……は! 師匠はずっとあんたが、邪魔だったのよぉ?」


「何!?」


「不器用なくせに、大魔導士の才能だけは持っていたあんたに、師匠は嫉妬していたの。恋人と別れるよう仕向けたのは、師匠よぉ?」


「な……!」


「狙い通り、あんたはガタガタになって、大魔導士から落選。でも、師匠は大魔導士にはなれなかったわぁ」


「メアリーが……?」


「だから、腹いせにあることないこと、あんたの師匠に吹き込んだの。そうやってあんたをあちこちに派遣して、恋人に長年会わせないようにしちゃったのよぉ?」


「なんと!!」


「うふふ、そんな師匠は私を大魔導士に育て上げることで、果たせなかった夢の代償にしたの。人の道? そんなもの……教えないわよぉ」


「師匠が師匠なら、弟子も弟子か!!」


「クスクス、哀れよね。企みにも気づかず利用されて、今また、その弟子にいいようにされる。同じ男を使ってぇ」


「イルハート!!」


「彼氏はおそらく噛まれたら、ゾンビ化に耐えられないわよ? 高齢だから。ぼうやも、わかるわねぇ?」


大魔導士イルハートは、勝気な瞳で見つめてくる。こいつ……もう許さない!!


「お前を守るといっても、方法がないぞ、イルハート」


ケルヴィン殿下が、俺たちの前に出てきた。

そう、もはや魔王を一度復活させ、倒すという計画は走り出してる。


大魔導士イルハートが、魔王に取り込まれるのは避けられない。


「そこをなんとかするのよ、ぼうやがねぇ」


彼女は記録魔法の水晶玉を、クルクル回して俺に見せつけてくる。


「なんともできるか! じっちゃんを解放しろ!」


「これは、お願いしてるんじゃないの。取引だと言ったでしょお?」


「じっちゃんが死んだら、お前も魔王ごと葬り去ってやるぞ!!」


「彼を殺すのはあなたの選択よ。そうでしょお?」


「く……!」


「あなたには、手を焼くわ。私の裸を見ても、靡かないんだもの。なら、最後のカードを切るまでよぉ」


バキ!!


大魔導士イルハートの立っている地面に、ヒビが入った。


俺の怒りに呼応したか。


「よせ! アーチロビン」


魔導士ティトが、俺の肩に手を置く。


「奴が死ねば、シャーリーの石化が一気に解ける。そういう呪術なのじゃ」


「く……なら、どうする!? 魔王の復活を、回避するのか!? レディオークを倒さなければ、俺は力を削がれてしまうのに!」


「考えよう。ワシもアーサーを死なせたくない」


俺たちは、大魔導士イルハートと対峙したまま、お互い睨み合うしかなかった。


読んでくださってありがとうございます。

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