爽やかな朝
目を覚ますと、朝になっていた。
昨日あまり寝てないから、その分ぐっすり寝たんだな。
幸先がいい。
夢の中で、また龍王に会えたし、神龍酒の目処もついた。
あとは、日の本へと行くだけだな。
ん?
なんだろう……とても柔らかくて温かいものがある。
それに、甘くていい香りまでするぞ。
次第にはっきりしていく意識の中で、正体を確かめようと手を動かして触れてみた。
わ、すごく気持ちがいい。
絶妙な大きさと、弾力と柔らかさ。
この寝袋、こんなオプションついてたっけ……?
うっすらと、目を開けることにする。
「ん……」
目の前で、白い耳がピクピク揺れて、俺の顔をぴちぴち叩いている。
ホワホワして、気持ちいいな……て、ええ!?
俺は目が一気に覚めた。
俺の寝袋の中にフィオがいて、ピッタリくっついて眠っている。
俺の腰には、しっかり彼女の尻尾が巻きつき、身動きできない。
な……なな!?
え! じゃ、俺が触っていたのは……まさか!
思わず手元を確認して、顔から火が出そうになる。
どおりで柔らかいわけだ。
ご、ごめんなさい!!
慌てて手を離して、寝袋を出ようとした。
───けれど。
「ふぁーあ」
隣の寝袋から、魔導士ティトが背伸びをして目を擦りながら、顔を出してくる。
ケルヴィン殿下も、あくびをしながら起き上がろうとしていた。
やばい!!
俺は慌てて寝袋に潜って、フィオを隠す。
「フィオが、おらんのう」
魔導士ティトが、呑気な声をあげた。
気づかないで、そのままトイレにでも行ってくれ!!
「あれ、本当だ。寝袋にフェイルノだけ残ってるな。お手洗いかもな」
ケルヴィン殿下も、ゴソゴソと俺の寝袋の前を通って魔導士ティトと話している。
こんなところを見られたら、完全に勘違いされる……!!
大体、フィオ、いつ来たんだよ!?
変な汗までダラダラ出てくる。
アワワ……。
「ん、アーチロビン……」
フィオが、モゾモゾと動き出した。待て! 待ってくれ!!
俺は慌てて彼女を抱きしめて、動きを封じる。
「あれ? なあ、ティト。アーチロビンの寝袋、やたらと膨らんでないか?」
「おや、そうじゃのう。ケルヴィン殿下」
ギク!!
「ガー、フィオ、イナイ」
「お、フェイルノ、フィオを知らないか?」
「フィオ、ネボケテタ。アーチロビンノ、ナマエ、ヨンデタ」
「ほーぉ?」
視線が……視線が刺さる。
ど、どうすれば?
「こりゃ!」
バシ! と魔導士ティトが、寝袋を叩いてくる。
さすがにフィオも目を覚まして、驚いていた。
「きゃ!!」
「しー!!」
今更隠しても仕方ないけど、お、俺がやったんじゃないぞ!?
「まったく、アーチロビンも隅におけん奴じゃ!」
俺はその声を聞いて、慌てて顔を出した。
「お、俺は何もしてない!」
「ふ、下手な言い訳を」
「ティト、本当だってば!!」
「よいよい。ワシが昨夜焚き付けたからな。これでフィオも堂々と、大聖女にならんで済むな。貞操の掟を破ったのだから」
「!!」
フィオもそれを聞いて、顔を出す。
「私……覚えてない」
そりゃそうだ。何もしてないんだから!!
俺はキョトンとしたフィオに、なんとか釈明しようと腕を解いた。
「な、な、何もしてないから、フィオ。俺たちは……」
そこへ、オウムのフェイルノがトントンとやって来て、寝袋の中を覗き込んでくる。
「チュウシタ?」
だー! お前はもう、それしか言えねーのかよ!!
「ふふ、そりゃもう、あちこちにしたよな? アーチロビン」
「やめてください! ケルヴィン殿下。俺は本当に……!」
「あちこち?」
「わー! フィオ! ここで確認するな!」
「いやはや。朝から若いモノは、元気じゃのう」
「ティトも揶揄うなよ!」
あああー、誰か助けてくれ!!
俺が一番混乱してる。
「おはようございます」
ちょうど運良く、テレクサンドラと聖騎士ギルバートが入って来た。
みんなの気が逸れて、テレクサンドラに挨拶を返す。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます、テレクサンドラ」
あれ? そういや、ギルバートの奴、どこで寝たんだろう。
「お前、テレクサンドラと一緒に過ごしたのか?」
ケルヴィン殿下が、聖騎士ギルバートを細目で見つめる。
「警護しておりました!」
彼も負けない。警護ねぇ……。
「一晩中、寝室の外で警護されていらっしゃって。何度もお休みするようお伝えしたんですが……」
テレクサンドラも、少し困ったような顔で笑う。
ま、話題が逸れてよかった。
俺がフィオの方を見ると、フィオは恥ずかしそうにモジモジしている。
可愛い……。
やばい……抱きしめたくなる。
早く起きて離れないと、本当に既成事実をつくっちまう。
「お、起きよう、フィオ」
「え? え、ええ……」
俺はフィオが尻尾を解くのと同時に、寝袋を出た。
他のことをしてないと、おかしくなりそうだ!
と、とりあえずお手洗いを済ませよう……。
それから身支度を整え、もう一度変装して街に繰り出すと、みんなで朝食を取る。
俺は、そこで夢の中の龍王の話をした。
「良かった! 神龍酒のあてがあったなんて」
聖騎士ギルバートは、ニコニコしてパンを頬張る。
「なんとか、運には見放されなかったみたいだな」
ケルヴィン殿下は、紅茶を飲んでソーサーに置いた。
「しかし、いい酒をこちらも持って行かねばな。隣に酒屋があったぞ。覗いてみるか」
魔導士ティトが、デザートを食べ終える。
俺たちは、食事を済ませて隣の店に寄った。
さてと……と!?
俺は慌ててみんなを、店の外に押し出した。
「な、なんだ?」
ケルヴィン殿下が、戸惑っているので、俺は店内を指差す。
ネプォンと、暗黒騎士ヴォルディバがいたのだ。
「迎え酒とはなぁ、ヴォルディバ。悪酔いしたか?」
「ネプォン……俺は昨夜のことよく思い出せねーのよ。あー、頭がいてぇ」
「ふん! それで? あの馬鹿弓使いに、昨日会った奴が、似てたって?」
ギク! 今まで俺の存在を、ネプォンに勘付かれたことはない。
奴に気づかれると、この先やりにくくなる。
暗黒騎士ヴォルディバは、二日酔いの頭を抱えながら思い出すように声を絞り出した。
「おぉ、体格が似てやがった。それだけは思い出せる」
「あいつは、大帝神龍王と一緒に封印されたはずだ」
「おうよ、だから、俺も思い違いかと思ったんだがよ。万が一があるだろ?」
「……確かにな。いくら魔導士ティトや、聖騎士ギルバート・ベルアンナがいたとしても、見習い神官の小娘と王子だけで、ここまで来られるわけがない」
核心に迫ってきやがったな、こいつら。
俺の存在が知れると、じっちゃんが危なくなる。
最初の旅の時に、俺の家に来てるから、じっちゃんのことも知ってるしな。
暗黒騎士ヴォルディバが、気だるそうに頷きながら、何かを思い出したようにネプォンを見た。
「神官といや、シャーリーのことだけどよ、ネプォン」
「……あぁ」
「大聖女オベリア様が、連れ帰ってきたらしいぜ?」
「!?」
「全然会えねぇけど、お前何か知ってるか?」
「いや」
「トゥンカル・ミズ国に送迎したのは、イルハートだったな。あいつも、何も教えねぇんだ」
「そうか」
「シャーリーが、ゾンビ化してるなんて噂もあるんだぜ?」
「へぇ」
「もしもよ、ネプォン」
「ん?」
「シャーリーがゾンビ化していたのが本当で、お前らが見捨てたせいだったとしたら」
「……」
「ただじゃすまねぇからな」
暗黒騎士ヴォルディバと、ネプォンが静かに睨み合う。
いよいよ、二人の間に亀裂が入ったのか?
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