ロボウロスの種
じっちゃんが人質になるなんて。
俺は大魔導士イルハートを前に、激しい怒りをなんとか抑えていた。
フィオだけじゃなく、じっちゃんにまで手を出しやがったんだな!
じっちゃんを守り、イルハートを取り込ませない方法なんてあるのか?
パキッ。
!!
妙な音がして、イルハートの片腕から棘が何本も槍のように突き出てくる。
「く!」
大魔導士イルハートは、目を赤く光らせて、もう片方の手で肩を掴むと、棘を魔力で抑え込んだ。
魔導士ティトがそれを見て、目を細める。
「身体が変異し始めたのか」
「……」
「いつからじゃ」
「……最近。強く出だしたのは、ゾンビダラボッチが倒れたあたりからねぇ」
「だからお前、必死でアーチロビンを誘惑して味方につけようとしたのか」
「ふん」
「魔王の魂の欠片も、あと一つになったからのう。しかし、アーチロビンはお前に靡かなかった。だから、アーサーを攫ったのか」
「魔王の魔力供給機関として、変異させられた上に取り込まれるなんて嫌よ。この美しい容姿が醜くなってしまうのよぉ!?」
「ネプォンは、知っとるのか?」
「は! あの馬鹿は私の変化には気づいてない。あいつは落ち目よ」
「……イルハート」
「今の私を守れるのは、ぼうやだけぇ」
「それならなぜ、普通に頼まぬ!?」
「常に私が有利でいたいから、に決まってるじゃなぁい。見下せる立場を変えたくないの」
「どこまでも、捻くれとるな」
「褒め言葉ね」
大魔導士イルハートはそう言うと、俺に近づいてくる。
プライドはまだ捨てていない。
その分、取り繕うのに必死な感じだ。
「なんとかしなさい、ぼうや。大事な身内を守りたいでしょお」
「どこまでも、命令なんだな」
「お願いなんて、聞く気ないでしょお?」
パキパキ!!
今度は彼女の背中から、ウネウネしたミミズのような器官が飛び出してきた。
「ふ……!!」
大魔導士イルハートは、さっきと同じようにして、魔力で元に戻していく。
「皮肉な……話よね。あの時、雑用係欲しさに……加入させたあんたが……今や、私の、そして世界の命運を握るなんてぇ」
「……」
「なんとかして……なんとかしなさい!! あ……!」
叫ぶ彼女の口の中から、別の顔が口を裂いて出てこようとする。
「が……ぐ!!」
彼女は強引に口を閉じて、魔力で元の顔に戻した。
ここまでの変異を抑え込めるところは、流石は大魔導士、といったところか。
けれど体を震わせる彼女は、余裕をなくし始めている。
追い詰めすぎると、じっちゃんが危ない。
どうしたらいい? どうしたら……。
ふと、聖騎士ギルバートがいつも鏡を見ていたことを思い出す。
鏡……もう一人の自分。
コピーを作り出したら、どうだろう!
「ティト」
「なんじゃ、アーチロビン」
「魔法は、分身を作れるか?つまり、もう一人の自分」
「できることはできるが……コピーはどうしてもオリジナルに劣る。お前、イルハートのコピーを作れというのか?」
「そうだ。魔王を倒すまでもてばいい」
「そんなことでなんとかできるなら、このイルハートが自分でやっとるはずじゃぞ?」
「無駄よ……」
すかさず、大魔導士イルハートが口を挟んだ。
「オリジナルより魔力の低いものは、すぐ淘汰されてしまう」
消滅するのも、早いということか。
「何か方法はないか? 本物と同等の分身。彼女が知らないような何か」
「ううむ……」
魔導士ティトは、しばらく考え込んだ。ケルヴィン殿下や、聖騎士ギルバートも首を捻って考えている。
「罪深きロボウロスの種……」
不意に、フィオが隣で呟いた。
ロボウロスの種?
「フィオ、それは何?」
「あ、ごめんね、アーチロビン。いきなり」
「いや、いいんだ。ロボウロスなんて聞いたことない」
「神殿の講義で聞いたことがあるの。はるか昔、擬態樹ロボウロスという植物があったと」
擬態樹? 何かにそっくりになれる樹木?
それを聞いたティトが、パッと顔を上げた。
「それじゃ!!」
「わ! ティト?」
「それじゃよ、アーチロビン。擬態樹ロボウロスは、その種子が特殊なのじゃ」
「種子が特殊?」
「擬態樹ロボウロスは、繁殖時期に、己の種子を動物に擬態させ、目的地に移動するという特性を持つのじゃ」
「!!」
「種を運ぶ使命以外は、意志を持たぬ完全なコピーを作れるといわれていての。魔法で作る分身よりも、オリジナルそのものに近いと聞く」
そ、そんなにすごいのか。
横で聞いていたフィオも、うんうんと頷く。
「昔の人は、それを悪いことに使う人もいて、様々な悲劇を生んだんだって。それでも、乱獲は止まらず、擬態樹ロボウロスは絶滅したそうなの」
「絶滅!?」
「欲のままに、種を取りすぎたせいだって」
そんな……それじゃ、結局だめ、てことか。
……ん?
タインシュタ・フランに話を聞いてはどうだろうか。秘術ではないにしろ、彼の興味を惹きそうだ。
「フィオ」
「何? アーチロビン」
「ヘイムニルブにいる、タインシュタ・フランと話す方法はないか? フェイルノの口を借りて」
「……待って。フェイルノ、体を貸してね」
「リョーカイ、ドウゾ」
フェイルノが応える。
フィオは目を閉じ、白く照る光の帯を、サッと飛ばした。
「孤族の技ね……」
大魔導士イルハートが、目を細めて様子を見ている。
やがて、戻ってきた光の帯が、俺の肩にとまるフェイルノに入ってきた。
フェイルノは目を光らせて、俺たちを見回す。
「話は聞いた。またまた、面白いことになっているな」
タインシュタ・フランの声だ。
この人にとっては、興味をそそる事態だろう。
「ありがとう、フィオ。タインシュタ・フラン、力を貸してくれ」
俺がいうと、フェイルノの体を借りたタインシュタ・フランは笑い声をあげる。
「ふふふ、擬態樹ロボウロスとはな。なかなかいい目のつけどころだ」
「絶滅したそうだけど、古代秘術研究者であるあなたならあてが……」
「一つだけ、遺跡から発掘した種がある」
「!!」
「化石化しているが、擬態の機能は残っているようだ」
「そ、それじゃ!!」
「欲しいならやろう。ただし、あくまでも時間稼ぎにしかならぬ」
「コピーが魔王に取り込まれている間に、魔王を倒せばいい、と?」
「そうだ」
短い時間でも、じっちゃんを助けるためだ。
どのみちレディオークを倒せば、魔王の最後の魂の欠片は抜けだし、本来の魂と融合を果たすだろう。
そうなったら、大魔導士イルハートの全身は、一気に変異する可能性が高い。
「タインシュタ・フラン。その種が欲しい。ヘイムニルブに取りに行けばいいか?」
「心配せんでも、そこに転送してやる。オリジナルを匿う、結界の鏡も合わせて送ろう」
……妙だな。いくらリリーを助けた貸しがあるとはいえ、要求が何もないなんて。
「見返りは? タインシュタ・フラン」
「特にない」
「彼女が死ねば、俺の大事なじっちゃんが危なくなるんだよ。もしあるなら、ちゃんと言ってくれ」
「ふふ、それなら。お前は異世界に行くのだろう?」
「ああ」
「その龍王のヒゲを一本」
「……わかった」
「オリジナルの大魔導士を絶対に、結界の鏡から出すなよ。出てしまえば……あとは知らんからな」
フェイルノの口を借りた、タインシュタ・フランは話を終えると、ふふふ、と意味深な含み笑いをした。
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