表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/88

ロボウロスの種

じっちゃんが人質になるなんて。


俺は大魔導士イルハートを前に、激しい怒りをなんとか抑えていた。


フィオだけじゃなく、じっちゃんにまで手を出しやがったんだな!


じっちゃんを守り、イルハートを取り込ませない方法なんてあるのか?


パキッ。


!!


妙な音がして、イルハートの片腕から棘が何本も槍のように突き出てくる。


「く!」


大魔導士イルハートは、目を赤く光らせて、もう片方の手で肩を掴むと、棘を魔力で抑え込んだ。


魔導士ティトがそれを見て、目を細める。


「身体が変異し始めたのか」


「……」


「いつからじゃ」


「……最近。強く出だしたのは、ゾンビダラボッチが倒れたあたりからねぇ」


「だからお前、必死でアーチロビンを誘惑して味方につけようとしたのか」


「ふん」


「魔王の魂の欠片も、あと一つになったからのう。しかし、アーチロビンはお前に(なび)かなかった。だから、アーサーを攫ったのか」


「魔王の魔力供給機関として、変異させられた上に取り込まれるなんて嫌よ。この美しい容姿が醜くなってしまうのよぉ!?」


「ネプォンは、知っとるのか?」


「は! あの馬鹿は私の変化には気づいてない。あいつは落ち目よ」


「……イルハート」


「今の私を守れるのは、ぼうやだけぇ」


「それならなぜ、普通に頼まぬ!?」


「常に私が有利でいたいから、に決まってるじゃなぁい。見下せる立場を変えたくないの」


「どこまでも、捻くれとるな」


「褒め言葉ね」


大魔導士イルハートはそう言うと、俺に近づいてくる。


プライドはまだ捨てていない。

その分、取り繕うのに必死な感じだ。


「なんとかしなさい、ぼうや。大事な身内を守りたいでしょお」


「どこまでも、命令なんだな」


「お願いなんて、聞く気ないでしょお?」


パキパキ!!


今度は彼女の背中から、ウネウネしたミミズのような器官が飛び出してきた。


「ふ……!!」


大魔導士イルハートは、さっきと同じようにして、魔力で元に戻していく。


「皮肉な……話よね。あの時、雑用係欲しさに……加入させたあんたが……今や、私の、そして世界の命運を握るなんてぇ」


「……」


「なんとかして……なんとかしなさい!! あ……!」


叫ぶ彼女の口の中から、別の顔が口を裂いて出てこようとする。


「が……ぐ!!」


彼女は強引に口を閉じて、魔力で元の顔に戻した。


ここまでの変異を抑え込めるところは、流石は大魔導士、といったところか。


けれど体を震わせる彼女は、余裕をなくし始めている。


追い詰めすぎると、じっちゃんが危ない。


どうしたらいい? どうしたら……。


ふと、聖騎士ギルバートがいつも鏡を見ていたことを思い出す。


鏡……もう一人の自分。

コピーを作り出したら、どうだろう!


「ティト」


「なんじゃ、アーチロビン」


「魔法は、分身を作れるか?つまり、もう一人の自分」


「できることはできるが……コピーはどうしてもオリジナルに劣る。お前、イルハートのコピーを作れというのか?」


「そうだ。魔王を倒すまでもてばいい」


「そんなことでなんとかできるなら、このイルハートが自分でやっとるはずじゃぞ?」


「無駄よ……」


すかさず、大魔導士イルハートが口を挟んだ。


「オリジナルより魔力の低いものは、すぐ淘汰されてしまう」


消滅するのも、早いということか。


「何か方法はないか? 本物と同等の分身。彼女が知らないような何か」


「ううむ……」


魔導士ティトは、しばらく考え込んだ。ケルヴィン殿下や、聖騎士ギルバートも首を捻って考えている。


「罪深きロボウロスの種……」


不意に、フィオが隣で呟いた。

ロボウロスの種?


「フィオ、それは何?」


「あ、ごめんね、アーチロビン。いきなり」


「いや、いいんだ。ロボウロスなんて聞いたことない」


「神殿の講義で聞いたことがあるの。はるか昔、擬態樹ロボウロスという植物があったと」


擬態樹? 何かにそっくりになれる樹木?

それを聞いたティトが、パッと顔を上げた。


「それじゃ!!」


「わ! ティト?」


「それじゃよ、アーチロビン。擬態樹ロボウロスは、その種子が特殊なのじゃ」


「種子が特殊?」


「擬態樹ロボウロスは、繁殖時期に、己の種子を動物に擬態させ、目的地に移動するという特性を持つのじゃ」


「!!」


「種を運ぶ使命以外は、意志を持たぬ完全なコピーを作れるといわれていての。魔法で作る分身よりも、オリジナルそのものに近いと聞く」


そ、そんなにすごいのか。

横で聞いていたフィオも、うんうんと頷く。


「昔の人は、それを悪いことに使う人もいて、様々な悲劇を生んだんだって。それでも、乱獲は止まらず、擬態樹ロボウロスは絶滅したそうなの」


「絶滅!?」


「欲のままに、種を取りすぎたせいだって」


そんな……それじゃ、結局だめ、てことか。

……ん?


タインシュタ・フランに話を聞いてはどうだろうか。秘術ではないにしろ、彼の興味を惹きそうだ。


「フィオ」


「何? アーチロビン」


「ヘイムニルブにいる、タインシュタ・フランと話す方法はないか? フェイルノの口を借りて」


「……待って。フェイルノ、体を貸してね」


「リョーカイ、ドウゾ」


フェイルノが応える。

フィオは目を閉じ、白く照る光の帯を、サッと飛ばした。


「孤族の技ね……」


大魔導士イルハートが、目を細めて様子を見ている。


やがて、戻ってきた光の帯が、俺の肩にとまるフェイルノに入ってきた。


フェイルノは目を光らせて、俺たちを見回す。


「話は聞いた。またまた、面白いことになっているな」


タインシュタ・フランの声だ。

この人にとっては、興味をそそる事態だろう。


「ありがとう、フィオ。タインシュタ・フラン、力を貸してくれ」


俺がいうと、フェイルノの体を借りたタインシュタ・フランは笑い声をあげる。


「ふふふ、擬態樹ロボウロスとはな。なかなかいい目のつけどころだ」


「絶滅したそうだけど、古代秘術研究者であるあなたならあてが……」


「一つだけ、遺跡から発掘した種がある」


「!!」


「化石化しているが、擬態の機能は残っているようだ」


「そ、それじゃ!!」


「欲しいならやろう。ただし、あくまでも時間稼ぎにしかならぬ」


「コピーが魔王に取り込まれている間に、魔王を倒せばいい、と?」


「そうだ」


短い時間でも、じっちゃんを助けるためだ。

どのみちレディオークを倒せば、魔王の最後の魂の欠片は抜けだし、本来の魂と融合を果たすだろう。


そうなったら、大魔導士イルハートの全身は、一気に変異する可能性が高い。


「タインシュタ・フラン。その種が欲しい。ヘイムニルブに取りに行けばいいか?」


「心配せんでも、そこに転送してやる。オリジナルを匿う、結界の鏡も合わせて送ろう」


……妙だな。いくらリリーを助けた貸しがあるとはいえ、要求が何もないなんて。


「見返りは? タインシュタ・フラン」


「特にない」


「彼女が死ねば、俺の大事なじっちゃんが危なくなるんだよ。もしあるなら、ちゃんと言ってくれ」


「ふふ、それなら。お前は異世界に行くのだろう?」


「ああ」


「その龍王のヒゲを一本」


「……わかった」


「オリジナルの大魔導士を絶対に、結界の鏡から出すなよ。出てしまえば……あとは知らんからな」


フェイルノの口を借りた、タインシュタ・フランは話を終えると、ふふふ、と意味深な含み笑いをした。


読んでくださってありがとうございます。

ブックマーク登録と、評価ポイント★で応援していただけると嬉しいです。とても励みになります。


(ポイントは広告の下↓にあります)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ