身代わり
シャーリーが、フィオがここにいることを知っている!?
彼女は醜悪な笑みを浮かべて、近づいてきた。
「神官の一人が、そんなこと言ってたから、試しに来てみたの。大聖女オベリア様が、えらく贔屓してた神官でね。まあ、霊力は高いでしょ」
「フィオを連れて行く気か!?」
「クスクス、そうよ。え、何? まさかその婆さん巫女を、差し出すつもりだったの? やだぁ、ゾンビダラボッチだって若い方がいいわよ」
この野郎!
俺は弓を引く手に力が入った。
「それに、私……ゾンビダラボッチの居場所が何故かわかるの。広い結界の中を彷徨いてるあいつの居場所が、感じられるのよ」
!! そうか。シャーリーは、奴の手によってゾンビ化している。どこか繋がっているのかもしれない。
シャーリーについていけば、ゾンビダラボッチの元へ行ける。
「彼女を差し出せば、ケルヴィン殿下がここにいること、ネプォンに黙っていてあげるわよ?」
と、シャーリーは、ニヤニヤしながら言った。
あいつに邪魔されたくない。
だが、フィオを差し出すわけにもいかない。
それなら、方法は一つ。
俺が身代わりになることだ。
フィオの姿に変えてもらって。
俺は魔導士ティトに、素早く耳打ちした。
ティトはニヤリと笑って、俺の手をグッと片手で強く握る。
「みんな、ここはフィオを差し出すのじゃ」
魔導士ティトが、みんなの方を振り向いて、宣言する。
ケルヴィン殿下も、聖騎士ギルバートも、魔導士ティトが片目を閉じるのを見て、演技し始めた。
「……確実に倒すためには仕方ない。シャーリー大聖女に任せるか」
「献身的な彼女のことだ。きっと納得してくれる」
口々に合わせてくれる。
納得しないのは、ケルヴィン殿下と歩いていたクラリスとターニャだった。
「そんな、ひどいよ!!」
「そうだよ! だって彼女は……!」
ケルヴィン殿下は、素早く二人を抱きしめて、何も言えなくした。
頼むから、この場は騙されてくれ。
やがて二人は耳と尻尾をタランと垂れさせて、泣きながら納得する。
「この村を守るためなら……」
「ごめんね、フィオ神官」
ほ。それでいい。
それを見ていたシャーリーが、首を回しながら鬱陶しそうに俺たちを見る。
「ねぇ、もういい? 早く彼女を連れてきなさい! 私……が……」
言いかけた彼女の顔が、ゾンビ化していく。
まずい!
俺は、素早く地面に矢を打ち込んだ。
力場が発生して、彼女を包む。
みんなの目には、カッと地面が光っただけのように見えるだけだが。
同時に、シャーリーがピタリと止まる。
「ぐ……が……」
しばらくすると、シャーリーは正気を取り戻して、俺たちを改めて見た。
「私、どうかした?」
「いや?」
「そう……」
「フィオを連れてくるよ」
「……随分あっさりと引き渡すのね」
「必要な時に仲間を切り離す。あんたたちから学んだことだ」
「ふふ、正しいわよ、アーチロビン。これで私たちと同類ね」
そうはいかないがな。
俺は心の中で呟いた。
俺たちは宿屋の中へ入り、聖騎士ギルバートとシャーリーをフロントに残して、部屋の中へと入った。
「どうする気だ」
ケルヴィン殿下が心配する中、魔導士ティトが俺の姿をフィオの姿へと変える。
大魔導士イルハートも、変身していたからな。ティトにもできると思ってた。
「俺がフィオとして同行します。ケルヴィン殿下は聖櫃を使う許可をもらって、追ってきてください」
俺が言うと、ケルヴィン殿下は顔を顰めた。
「それは、構わないが、お前をどうやって追跡すればいい?」
「心配いらぬ。ワシがこやつに枝をつけた。イルハートと同じ魔術でな」
魔導士ティトが、俺のプレスレットに紋章をつける。
咄嗟に思いついた作戦だけど、きっとうまくいくはずだ。
「俺なら時間稼ぎができます。聖櫃に霊泉の水を溜めて、運んできてください」
と、俺が言うと、ケルヴィン殿下は渋々了解してくれた。
「お前に何かあったら、目覚めたフィオに顔向けできなくなる。急いでやるからな」
「はい」
「それから、アーチロビン、いや、フィオ。『男』口調になるなよ」
「はい、敬語なら問題ないので。俺、いや、私、頑張ります」
「しっかりしろよ、フィオ」
「は、はい。あの、フェイルノを、お願いします」
ペラペラとこいつが喋ると、危なくなるからな。
俺は、フェイルノをケルヴィン殿下に託そうとしたが、肝心のフェイルノが嫌がった。
「ガー! イヤ! アーチロビン! イッショ、イッショ!!」
「しー! フェイルノ、シャーリーはヴォルディバと同じようにはいかない。お前がいれば、怪しまれる!」
「ガー、ダマッテル。シズカニシテル」
「お前にできるのか?」
「ヤクソク。アーチロビン。ウウン、フィオ」
珍しく目をウルウルさせるので、仕方なく上着の中に隠す。
「動くなよ、人形みたいにしてろ」
「オーケー」
……ホントかよ?
それからケルヴィン殿下に肩を抱かれて、俺はシャーリーに引き渡された。
バレないようにしなきゃな。
俺は今、フィオだ。
「シャーリー様……」
「話は聞いてるわね?」
「は、はい」
「ついてらっしゃい」
「はい……あ!」
俺はフィオらしく、何もないところで躓いて転びかける。
フィオ、ごめん。
こういうところが、印象深かったものだから。
シャーリーは、フン! と顎を上げて見下す目をした。
「相変わらずドジね。あんたが贔屓された理由が、未だにわかんないわ」
よかった。怪しまれていない。
「すみません……」
「さっさと来なさい。グズは嫌い」
「はい!」
俺は、シャーリーの後ろについて行った。
村の外には、大聖女用の馬車が停まっている。
でも、明らかに馬たちがシャーリーに怯え、足が震えていた。
「わ、私が御者をします」
それを聞いたシャーリーは、片眉を上げて睨んでくる。
「ドジなあんたが、馬を御せるの?」
「だ、大聖女様に手綱を持たせるなんて、恐れ多いですから……」
「ふふん、よくわかってるじゃない。ネプォンもこれくらいの低姿勢を、覚えるべきよね。」
シャーリーは、満足そうに笑うと、馬車に乗り込んだ。
俺は御者の席に座り、手綱を握る。
「シャーリー様、どっちへ行けば?」
「西よ。西にまっすぐ向かいなさい」
「はい」
西か。俺は手綱をパシリと振って、馬を西へと向けた。
ちょうど夕方で、西日が眩しい。
ケルヴィン殿下たちは、すぐ動き始めたはずだ。間に合ってくれよ……。
次第に辺りが暗くなる中、シャーリーは何度も、ゾンビ化と正気に戻るを繰り返していた。
俺がフィオに化けていなければ、彼女は餌食になったかもしれない。
攻撃抑止と絶対反転で、襲いかかってはこないものの、彼女は腕や足に自分の歯形がついていった。
「いったぁ! あれ? どうしてまた手に歯形がついてるの?」
シャーリーは、何度も不思議がっている。
自覚がないんだな。
「あんたが、何かしてるの?」
シャーリーが、不審な目で俺を見る。
「ま、まさか。私は手綱を握ってますから」
「そうよね」
シャーリーは、ふー、とため息をついて、話しかけてくる。
「にしても、あんたの仲間は薄情ね」
「は、はい」
「私も人のことは言えないけど、アーチロビンがあっさり身を引くなんて、意外だったわ」
「そ、そうですか?」
「あいつは、ヘタレだけど仲間思いの方だもの。人を犠牲にするくらいなら、自分が傷つくことを選ぶタイプ」
「へぇ」
「だからね、あんたが本物のクリムティナ・フィオ・グライア神官なのか、怪しいと思っているのよね」
「!!」
「聞いていい? あんたが、本物かどうか。偽物なら、ネプォンにケルヴィン殿下のことをバラしてやるから」
ごく……!
答えられるのか? 俺に……。
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