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霊泉

目の前に、光あふれる泉が見えてきた。


これが、霊泉。

なんて、美しいんだ。


透き通った泉は、どこまでも深い。

神聖な泉だ。初めて見る。


「聖櫃を開けなさい」


白薙(しろなぎ)様に言われ、俺たちは聖櫃を降ろして、蓋を開ける。


中には、まだ目を覚さないフィオが横たわっていた。

フィオ、もうすぐ会えるからな。


白薙(しろなぎ)様は聖櫃を覗き込んで、フィオの額と喉、腹部に軽く指で触れる。


「槍はもう離してもよい。彼女だけを聖櫃から取り出し、この泉に沈めるのじゃ」


泉に? このまま?


「あの、呼吸は?」


俺は不安になって、質問した。生き返っても水の中じゃ……。


「孤族は霊泉の中で溺れることはない。ましてや白狐。必ずやこの中から蘇る。それに、見よ」


「?」


ポチョン、パチャン、コポポポポ……。


水の音がして霊泉の方を見ると、真ん中が渦を巻き、水の塊が祭壇のように形を形成していく。


そこに、フィオを寝かせろと言ってるのか?


「ガー、フィオ、ソコデ、オネンネ?」


オウムのフェイルノも、首を傾げている。そうとしか思えないよな。


「霊泉の御意志だ、さぁ」


白薙(しろなぎ)様に言われて、俺はゆっくりフィオを聖櫃から抱き上げると、霊泉に向かって歩き出した。


どうやって、真ん中まで行けばいいのか。

フィオを抱いたまま泳ぐのか?


と、思ってそっと霊泉に足をつけると、柔らかい地面のような硬さで立つことができた。


わ、歩ける! 水の上なのに!


「ほぉ……ヌシは龍を中に宿しておるな。霊泉が上を歩くことを許すとは」


白薙(しろなぎ)様に言われて、俺は軽く頷くと、そのまま霊泉の真ん中までフィオを運んだ。


目の前にある、祭壇のような水の塊に近づいて、彼女をそっと寝かせる。


待っているよ、フィオ。


ゆっくりフィオの体は、霊泉に沈み始めた。

───しばらくのお別れだ。

俺は、思わず彼女の唇にキスをする。


冷たくなった唇は動かないけれど、願いを込めて。


「俺の『初めて』だよ、フィオ……フィオ、待ってる! 必ずまた会おうな!!」


フィオの体はどんどん沈んでいった。

俺はしゃがんで四つん這いになっても、沈んでいく彼女の姿を目で追う。


やがて、彼女の姿は見えなくなっていった。


「ガー、フィオ、イッテラッシャイ」


オウムのフェイルノが、俺の肩にとまったまま、声をかけた。


そうだよな、いってらっしゃいだ。帰ってきたら、おかえりが言える。


「戻ってこい、若造」


後ろから、白薙(しろなぎ)様が声をかけてきた。

彼女が出てくるまで、こうしていたい……ダメか。


俺はゆっくり立ち上がると、みんなのところへ戻った。


安心したのか、気が抜けたのか。


膝に力がうまく入らず、どこか体が浮遊しているように不安定だ。


そんな俺を見て、ケルヴィン殿下と、聖騎士ギルバートが、すぐに支えてくれた。


「フィオは戻る、な? アーチロビン」


「すみません、ケルヴィン殿下」


「慌てん坊のフィオのことだもの。きっとすぐにボクたちのところに帰ってくるよ」


「ありがとう、ギルバート」


本当にいい人たちだ。こんな人たちが、世の中にいてくれることがとても嬉しい。


ネプォンみたいな奴ばかりだと、うんざりだから。


空の聖櫃を聖騎士ギルバートが運び、俺はケルヴィン殿下の肩を借りて、出口へと歩いた。


途中で、辛そうにうずくまっていた魔導士ティトを見つけて、一緒に戻る。


「大丈夫? ティト」


俺が言うと、ティトは笑って大丈夫と応えた。


「ワシら魔導士は、どうしても精霊や闇の力と関わるのでな。清浄すぎる場所は、過剰反応を起こしてこうなりやすい。気にするな」


話を聞いていた白薙(しろなぎ)様が、魔導士ティトの方を見る。


「ヌシは大魔導士かえ?」


「いや? ワシは普通の魔導士じゃよ」


「そうは思えんくらいの、魔力を感じるがな」


「はは、まぁ、若い時に候補にはなったがな」


「なぜ、なれなんだ? それほどの力があるのに」


「色々あった……と言っておこう」


「男か」


「!」


「大魔導士は、選ばれしものしかなれん狭き門と聞く。心乱すものがあれば、叶わんかっただろうな」


「ふん、余計なお世話じゃ」


「じゃが、ある意味、普通の魔導士の方が幸せかもしれんぞな」


「なぜじゃ?」


「大魔導士が背負う暗い掟があると、曾祖母に聞いたことがある。魔導を極めてしまったが故の、逃れられぬ運命だと」


「大魔導士が背負う暗い掟? 聞いたことがないぞ?」


「大魔導士のみに伝承されるらしいからな。ヌシが知らんでも不思議はない」


「それはなんじゃ?」


「知らぬ。」


「知り合いの大魔導士が、何やら怯えていたのでな」


「知り合いなら、聞けばよかろう」


「そんな素直な女ではなくてのぅ」


「ひねくれとるのか」


(ねじ)れまくっとる。擦れすぎたんじゃろうな。プライドも高いし」


「高すぎる矜持のせいで身を滅ぼしては、身も蓋もなかろうに」


「ほんにのぅ」


二人の話を聞きながら、大魔導士イルハートを思い出す。


彼女は、俺に『あなたなら、私を……』と言いかけた。その先はなんだったんだろう。


「そういえば、アーチロビン」 


聖騎士ギルバートが、声をかけてくる。


「なんだ?」


「アーチロビンてさ、攻撃抑止と絶対反転以外の力も使えるの? 目から光線まで出してたよね。初めて見たから」


「ああ、その……大帝神龍王の力はひと通り使える。でも」


「ん?」


「あの時は街中だったから、最初は周りを巻き込まないように抑えてしまっていた。その点、攻撃抑止と絶対反転は周りを巻き込まないし、確実で安全だから」


「まぁ、攻撃しようとした本人に跳ね返るからね」


「そうなんだ。隠してて、ごめん」


「それはいいよ」


「いいや、仲間にはきちんと開示すべきだった。ごめん」


「いいんだよ。それに、今回はどんな力でもきっと倒せなかっただろうし、それにさ……“怖がられる”と思ったんだろ? ボクたちに」


「ああ……化け物だと、思われたくなくて」


聖騎士ギルバートは、頷きながら片手で俺の肩を軽くポン、と、叩いた。


「ボクも、半人半馬族が軍隊に少ないからさ、腕力や脚力の差が激しくて、仲間にまで疎まれたことがある。なんとなく、理解できるよ」


「ギルバート……も、苦労したんだな」


「まあねぇ。異端者は実力をつけるまでは、とやかく言われるよ」


そういうものか。

……そうなんだろうな。


「“違い”を受け入れられるか、入れないかの差は、大きいからな。まあ、ギルバートの才覚は俺が高く買ってる」


ケルヴィン殿下が、話に参加してくる。


「ありがとうございます、ケルヴィン殿下」


「二人とも、ほら出口だ」


顔を上げると、確かに出口が見える。


外に出てきた俺たちを、クラリスとターニャが出迎えてくれた。


「おかえりなさい!」


「おかえりなさーい」


「ただいま、ハニーたち」


ケルヴィン殿下が、ニコニコしながら言う。


二人は俺からケルヴィン殿下を奪い取ると、彼の両側から腕を組んで歩き出した。

す、すごい女の子たちだな。


「宿屋に案内してあげる!」


「今夜は、部屋の鍵は開けておいて、ね……」


「いいよ、ニ人一緒においで」


「きゃー!」

「やだぁ」


そんな時後ろから、聖騎士ギルバートの残念そうな声が聞こえた。


「いいなぁ、やっぱり、羨ましい」


読んでくださってありがとうございます。

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