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幌馬車にて

俺たちは幌馬車の荷台に腰掛けて、みんなと一緒に孤族の村に向かっている。


「お兄さんが、スパで彼女とハグしてるところ、見てたのよねぇ」


道々、赤狐のクラリスが、揶揄(からか)うように話しかけてくる。


う……今、思い出しても恥ずかしい。


「やめなさいよ、揶揄(からか)うのは!」


隣に座る黄狐のターニャ。二人は親友なんだとか。


「何よぅ、あんただって、彼女が羨ましい、て、言ってたじゃない、ターニャ」


「も、もう、今言わなくてもいいじゃない! クラリス!」


「うふふ、私もお兄さん、狙ってたんだけどなぁ。ナンパする前に、白狐の彼女にとられちゃった。尻尾まで、お兄さんに巻き付けてたしね」


あ、そういえば、腰に巻き付いたな、彼女の尻尾。


話を聞いていた聖騎士ギルバートが、クラリスに尋ねた。


「何か意味があるの?」


声をかけられたクラリスは、ピョン! と喜んで聖騎士ギルバートの隣に来ると、腕を組む。


「あのね、孤族の女性の最大の愛情表現なの! 『あなたと離れたくありません』『私のもの』の二つの意味があるのよ?」


え、そうなんだ!


俺は思わず聖櫃を見た。

あの時はあまり意識していなかったけれど、フィオは、心から最大の愛情表現をしてくれていたんだ……。


フィオ……それを知っていたら、もっとあの時……。


いや、戻ってきたら、応えればいいんだ。そうしよう。


話を聞いていた聖騎士ギルバートも、初めて意味を知ったらしく感心していた。


「へえ! そうなんだ」


「素敵でしょ? 私、このお兄さんに尻尾を巻き付けたかったのに、彼女に先を越されちゃった。ねぇねぇ、聖騎士のお兄さんは彼女いる?」


「あー、いや、今はいない」


「やったぁ! ねぇねぇ、お兄さんは聖騎士の中で一番のイケメン?」


「ん? ああ。騎士の中では一番だよ」


「やっぱり? じゃ、お兄さんにきーめた」


クラリスは、すぐさま尻尾を聖騎士ギルバートの腰に巻き付けている。


ず、随分気軽に巻き付けてるな。

俺の想像では、もっとこう……いや、俺の考えが堅いのか?


聖騎士ギルバートも、腰に巻き付いた尻尾を見ながら、え、もう? みたいな顔で驚いていた。


「ね、ねえ、クラリス? さっきはアーチロビンで、もうボクなの? 切り替え早いね」


「恋は叶わないとわかったら、切り替えの早い方が不毛な時間を過ごさなくていいでしょ?」


「い、意外と達観してるね」


「ふふ、ほら、ターニャ。あんたには、ケルヴィンを譲ってあげる」


クラリスは、ターニャに手を振って、ケルヴィン殿下の隣を指差した。


しっかり自分が采配するんだな、クラリスは。親友同士の微妙な力関係を見るようで、少し引いてしまう。


「譲られましたよ? ターニャ」


ケルヴィン殿下は、苦笑いしながら彼女を見た。そういえば、ケルヴィン殿下も女性慣れしてる感じがする。


ネプォンみたいな、浮気者じゃないようだけど。


急に話を振られたターニャは、顔を真っ赤にして俯く。


「そ、そんなの……いきなり」


耳がペタンと垂れて、尻尾がキュンと下がる。


フィオとそっくりだ。


彼女が恋しい。早く会いたい。

そう思って彼女を見ていると、ターニャと目が合った。


「悲しい目……早く彼女に会いたいんですね」


「あ、ああ」


「いいな、そんな目をされるほど、想われて」


ターニャは、モジモジしながら馬車に積まれた聖櫃(せいひつ)を見た。


「彼女が目を覚ましたら、あなたは行ってしまうのでしょう?」


……そうだけど、どういう意味なんだろ。


俺が彼女の醸し出す雰囲気に戸惑っていると、魔導士ティトが、俺とターニャの間に入ってきた。


「ゴッホン! 娘さんや、あんたには酷なことを言うが、そこでやめておきなさい。こいつは、白狐のフィオに惚れておる」


「わ、わかってます」


「お前さんが傷つくだけじゃ。望むものは手に入らない」


「……」


「ほれ、そこにおるケルヴィン殿下は、フリーじゃぞ。王子だから金もある、身分もある、権力もそれなり、容姿も文句なしじゃ」


「王子───様?」


ターニャが、ケルヴィン殿下の方を見る。

心なしか、目が輝いてないか?


ケルヴィン殿下も、ニヤッと笑って王家の印の入ったハンカチを見せる。


「そう! 世界中の女の子が一度は夢見る相手役、王子様です! 本物だよ」


言われたターニャと、クラリスの目が輝いた。


「きゃー!」


「王子様!!」


二人はケルヴィン殿下の両隣に座って、彼の腕を取ると、お互いの尻尾を彼に巻き付けた。


「私が先!」


「私よ! クラリスは、聖騎士のお兄さんでしょ!?」


「王子様がいいの! お金があるもん!」


「私も同じよ!!」


俺と聖騎士ギルバートは、呆気に取られて二人を見た。金と権力といえば確かに王家だけど。


「王子様、強いなぁ……ボク、秒でフラれたよ」


「よくわかんないけど、多分俺も」


そんな俺たちを見て、魔導士ティトが腹を抱えて笑った。


「ひゃーはっは! まぁ、金はある方がいいからのぅ。ケルヴィン殿下となら、食いっぱぐれることはないし」


聖騎士ギルバートは、不満そうに魔導士ティトを見る。


「えー、これが女の子なの? ボクは、フラれたこと、ほとんどないんだよ? 女の子はイケメンが好きでしょう? ロマンが、夢がぁ」


「現実的と言え。顔じゃ飯は食えんからな。高いレベルの生活が約束された王子様には、どんな男もかなわんのよ」


「ギャー! 乙女たちのイメージが崩れるから、やめて! ティト!」


「顔と、な、中身を見て決めてるんじゃないのか?」


「目を覚ませ、金じゃよ」


「ヒィ!」


「えー」


「何も言えない」


俺は聖櫃を見て、不安になった。フィオもそうなのか?


魔導士ティトは、笑いながら俺を見た。


「ま、そうではない娘もいる。うまい具合に出会えればよし、無理なら……」


言いながら、ケルヴィン殿下にしがみつく、二人の孤族の女性たちの方を見る。


「たんと、金を持つことじゃ。見た目の可愛い女の子は、来てくれるぞ。金が続く限りはいてくれるしな」


「……」


「ボク、女の子を見る目が変わったかも」


「俺も」


それが真実だとしても、なんだろうな、この……夢を壊さないでほしいという抵抗感がある。


どこか都合よく、純粋で無償の愛を期待してしまうんだろうな。


需要と供給のバランスというか、『欲しいもの』が手に入る条件を揃えた異性に、惹かれるのは仕方がないこと。


それでも……。

フィオだけは、こうあって欲しくないと思ってしまう。


いつまでも、あのキラキラした笑顔は忘れないでほしい。


「願うばかりじゃなく、そうしたくなるよう大切にしたいな」


俺が呟くと、聖騎士ギルバートは頷いた。


「アーチロビン、今、真面目なこと考えてるでしょ」


「ギルバート」


「相性が良くて、どれだけ好きでも、(いつく)しまないとパートナーは離れていくからね。これはボクの経験則」


「そうだろうな」


「うん。『続ける』には努力や忍耐が必要だよ。お互い『大切にしたいと思わせるパートナー』であろうとするね」


「ギルバートこそ、深いこと言うじゃないか」


「へへ。まあ、先々アーチロビンたちも色々出てくるだろうけど、きっと大丈夫。ボクの幼馴染は、最初の彼女とずっと仲良しだよ」


「ありがとう、ギルバート」


読んでくださってありがとうございます。

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