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フィオの魂

「アワテンボウ、フィオ。ソコニイルヨ」


オウムのフェイルノが、大声で騒ぐ。

やめてくれよ!

俺の腕の中のフィオは、さっきから何も変わらないのに!


「フィオは、もう動かない。デタラメを言わないでくれよ!」


俺がフェイルノを叱ると、フェイルノは聖騎士ギルバートの手に戻ってきていた槍にとまる。


「フィオ、ウツッテル。ミエナイノ?」


え……。


映る? 槍に?


俺たちは、聖騎士ギルバートの槍に注目した。

強い聖属性の気を帯びた、聖騎士の槍。


どんなに目を凝らしても、フィオの姿なんて見えない。


「フェイルノ、どこに? どこにいるってんだ!? 見えないぞ!!」


「モー!」


フェイルノが呆れて、槍の刃の部分にとまると、コツコツとつつく。


「ココ! ココ!」


ここって……。


みんなで覗き込むと、鏡面のような刃に、フィオの姿が映っていた。


「ええ!?」


「こ、これはどうしたことじゃい!」


こちらにはいないのに、槍が映す世界にはフィオがいる。


俺のそばに立って、何かを一生懸命伝えようとしていた。


「フィオ、カラダニ、モドレナイ、イッテル」


フェイルノが、フィオの言葉を代わりに言っているようだ。


戻れない、て。なぜ?


「その槍と、彼女の体をそれ以上引き離してはなりませんぞ!」


そこへ、急に鋭い声が聞こえた。法衣を着た、半人半馬の男が立っている。大聖殿から出てきた男だ。


「ユバロン司祭!」


ケルヴィン殿下が叫ぶ。

ユバロン司祭? この人の名前か?


ユバロン司祭は、近づいてきて、俺たちを見た。


「あなたたちは、この国を守ってくださいました。お礼に、彼女が戻れるように力を貸しましよう」


ドクン! 心臓が早鐘を打つ。フィオが助かる!?


俺は、期待を込めて彼を見た。

ユバロン司祭は、俺たちを大聖殿へと連れていく。


大聖殿の中はとても広くて、シャーリーによって怪我を負わされた人々が、傷の手当てを受けていた。


上座には、祭壇と御神体が鎮座しており、端の方に、女神ルパティ・テラの像が置かれている。


ユバロン司祭は、祭壇の前にある、荘厳な箱の前に立つと、俺たちを手招きした。


「さぁ、こちらへ。ここにこの国の聖櫃(せいひつ)があります」


聖櫃(せいひつ)……」


「この聖櫃(せいひつ)の中に、彼女とその槍を収めるのです。彼女の魂が戻るまで、守ってくれます」


そう言われて、俺はフィオの体を聖櫃(せいひつ)の中に横たえ、聖騎士ギルバートが、自分の槍をその隣に収める。


「ありがとうございます」


俺たちが頭を深々と下げると、ユバロン司祭は、首を横に振った。


「いいえ。まずは、そこにかけてください」


俺たちは、近くの椅子に腰掛けた。

フィオを助ける方法を、早く知りたい。


「彼女は孤族の、それも白狐のようですな」


「はい」


「忍びの格好をしていらっしゃるが、神官が使うシールドの技をお持ちでした」


「えぇ、その……あなたが新しく国教になる俺たちの宗教を嫌っていると聞いて……変装していたのです」


「なるほど。彼女は神官ですか。女神ルパティ・テラ教の」


「はい」


「もちろん嫌っております。新たに、国教になるからではございません。教義に不満も特にありません。ですが、傲慢で不遜な態度の大聖女を見て、嫌気がさしましてな」


「……」


「話に聞いていた、オベリア様と違いすぎて」


「彼女は、代理のシャーリー神官です」


「そうらしいですな。とにかく大聖殿をさっさと明け渡せと、踏み込んでくるわ、御神体を勝手に動かすわで、ゾンビダラボッチの来襲を招いてしまいました」


「おっしゃってましたね。神器の位置を戻せば、ゾンビダラボッチを結界内に押し戻せる、と」


「えぇ……我が国の神器は、この砂時計なのです」


ユバロン司祭が、御神体の入った扉を開けると、金色に光る砂がサラサラと落ちる、大きな砂時計があった。


向かい合う二対の龍が、砂時計を支えている。


「そして、この砂時計は、魔物をこの砂が落ちる間、結界内に止めることができる。ただし」


「ここから動かしてはならない」


「そう、それが我らの神との契約だそうです」


シャーリーのやつ、ちゃんと話を聞かなかったな。


「まぁ、その話はここまでにして、白狐の彼女の話ですが」


「は、はい!」


「急に大きな力を解放したことで、霊力を使い果たした為に、魂が弾き出された状態のようです」


「弾き出される」


「えぇ、そのままですと、天に召されてしまうのですが、聖騎士の気を帯びた槍に掴まってなんとか踏みとどまっています。彼女の体に霊力を戻さないと」


「どうすれば?」


「この国にも、孤族の村があります。聖櫃(せいひつ)をそこへ運び、彼女の体を彼等の『霊泉』に浸すのです」


「『霊泉』……」


「彼等の力の源だと、言われています」


「どこにあるのですか!? す、すぐにでも、行きたいです」


俺は、はやる気持ちを抑えられず、立ち上がった。

魔導士ティトが、そんな俺の手を引く。


「こら! 静かにせんかい! ここには怪我人もおるのじゃ」


「あ、あぁ……」


「まったく、お前まで慌てん坊になってどうする。どうやって行くのか、よそ者に霊泉を使わせてくれるかも、わからんのじゃよ?」


魔導士ティトがそう言った時、手当てを受けていた人々の中から、数人の孤族の人々が進み出てきた。


「あの……」


俺は、ハッと顔をあげる。フィオと同じ人の姿に狐の耳と尻尾を生やした人々。


赤狐と黄狐。


それでも、胸がズキッと痛む。


「……はい、なにか?」


俺が言うと、彼等は顔を見合わせて話しだす。


「失礼ですが、お話を聞いておりました。私どもも、先程ゾンビダラボッチの襲撃の際、助けていただいた者です。お礼に、私たちの村へと案内しましょう」


「!!」


「白狐は、私ども孤族の中でもなかなか生まれぬ、希少の存在。ぜひ、協力させてください。もちろん、我が村には、霊泉があります」


俺たちは思わぬ朗報に、大喜びで頷いた。

フィオが助かる! 彼女はこれで帰ってくる!!


「お願いします!! ……あ、お、お願いします……」


小さな声で言い直すと、周りから笑い声があがる。


孤族の人々は、自分から自己紹介をしてくれた。

赤狐の方は、『クラリス』、黄狐の方は『ターニャ』。


そしてもう一人の黄狐は、ターニャの父親、『パジル』。


馬車で来たというので、聖櫃(せいひつ)を運び出して、彼等の馬車に乗せる。


途中、シャーリーを囲む神官の一団とすれ違った。


ここで何してるんだ?

フィオを放り出して、雲隠れしてたんじゃないのか?


よく見ると、シャーリーは鎖で馬車の座席に縛り付けられている。


「どういうこと!? この鎖を解きなさい!!」


シャーリーは、大声で喚いている。

お付きの神官たちは、戸惑いながら頭を下げていた。


「申し訳ございません、大聖女様。大聖女様のゾンビ化の完全な浄化が叶いませんでした。大聖女オベリア様でしたら、なんとかなったのでしょうが」


「なんですって!?」


「大急ぎで帰国しても、もう間に合わないでしょう。大聖女様は『魔の患い人』になられたのです」


「ええ!? あの、狂気と正気を行き来する『魔の患い人』に!?」


「はい、一日に何度も、ゾンビになったり、人間に戻ったりを不定期に繰り返します。ゾンビダラボッチによる汚染が強すぎたのです」


「や……いや、いやぁ!!」


「帰国いたしましょう。オベリア様に、今後をご判断していただかないと」


「いやぁぁぁ!! あ、あが……グルルル!」


シャーリーは、目が白目に反転すると、唸り声をあげ始める。


彼女はもうだめだ。


俺たちは、その場を通り過ぎて、孤族の村へと向かった。


読んでくださってありがとうございます。

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