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冷えていく温もり

ケルヴィン殿下が、震えながらグッタリしたフィオを抱き上げている。


───え。


「倒れたまま、動かないんだ」


ケルヴィン殿下は、悲しそうな顔をして、俺のところへやってきた。


う、嘘だ……嘘だ、フィオ、そんな……!


俺はケルヴィン殿下から、フィオを受け取ると、顔を覗き込んだ。


彼女はぴくりとも動かず、目も固く閉じられたまま。


「フィオ、フィオ!!」


大声で名前を呼ぶ。


揺さぶっても、目を覚さない。

なんだよこれ……悪い夢じゃないのか!?

現実なのか!?


さっきまで、元気だったじゃないか!

俺たち、気持ちを確かめ合って、フィオはあんなに嬉しそうに、素敵な笑顔をしてくれて……。


そのフィオが、動かない。体もどんどん冷たくなっていく。


人々が歓声をあげて、賛美する声が通りの向こうから聞こえてくるけど、どうでもいい。


フィオが……フィオが!!


「神官を一人でもいい、連れてきてください!」


「皆、シャーリーを抑えるためにこの場を離れたのじゃ」


魔導士ティトが苦々しく答えた。

抑えるだと?


「ゾンビ化が激しくてのぅ。落ち着いて浄化も出来ぬくらい暴れて、一般人を襲いそうだった。とりあえず魔法で拘束したが、その姿を晒すことは面子に関わるとかでな」


「面子……!?」


「そのせいで、その場に残ったフィオが、シールドの負荷を全て背負う羽目になったのじゃ……」


「く!!」


俺は慌てて彼女を寝かせて、人工呼吸と心臓マッサージをした。


戻れ……戻れ!!


「アーチロビン……」


ケルヴィン殿下が肩に手を置いてくるので、構わず振り払う。


フィオ、フィオォォ!


それでも彼女は動かない。


「フィオは、危機に瀕して、己の籠目を解いたのじゃよ。みんなを守りたい一心でな……」


魔導士ティトが、杖を持つ手を震わせながら語る。


「じゃが、霊力を極限まで削ったのじゃ……」


魔導士ティトは、そう言って黙り込んだ。


「ボクのせいだ……」


聖騎士ギルバートが、肩を震わせて近くにしゃがみ込む。


「違う、ギルバート」


「いや、アーチロビン。ボクがもっと早く戻っていたら……。いや、ボク一人でゾンビダラボッチを止められていれば、こんなことには!」


「違う、違う! 自分を責めるな! 俺だってそれでいいと思ってたんだ!」


俺は叫ぶと、人工呼吸を再開する。

諦めなければ───きっと!!


どのくらいそうしていたのか。

俺は疲れ果てて、体勢を崩して彼女にかぶさった。


ギルバートは責められない。

俺だって判断ミスをした。

この場を離れなかったら、違う力でゾンビダラボッチを足止めしていたら、光線をもっと早くに止めていたら……。


フィオが、こうなることはなかった。


なぜ、他の力を出し惜しみした?

街の破壊を恐れたからか?


いや、違う……攻撃抑止と絶対反転に頼りすぎたからだ。


どんな相手にも絶大な効果がある反面、俺が攻撃対象から外れれば意味がなくなる。


元々大帝神龍王は、一体だけでダンジョンの底にいた存在。


敵も、大帝神龍王を倒すことを目的として、やってくる連中ばかり。


攻撃抑止も、絶対反転も、『自分を狙う敵』を、殲滅することに長けた力でしかない。


離れてしまえば、大切な人を守ることはできない力。


わかっていたことなのに……!


チートキャラとして、周りから丸投げされる戦いの中で、長く一人で戦いすぎた。俺さえ矢面に立てば、全て解決していたこれまでの戦いとは違う。


俺が甘かったんだ。

なんでも、自分が対応できると過信したから。


どんな力があっても、失うのは一瞬だ。

そして、取り戻せないのはみんな同じ。


取り戻せない……失ったまま?


「フィオ」


俺はフィオを抱き上げて、震える唇で彼女の名前を呼んだ。


ガクン!


彼女の頭が後ろに倒れて、もうそこに命がないことを認識させられる。


「嫌だ……だめだ! ダメだ嫌だ!! 戻ってきてくれ! フィオ、フィオ! ……君なしじゃいられない……辛すぎる……!!」


フィオの体を抱き締めて、冷えていく体に少しでも温もりを残そうと躍起になった。


死ぬなんて認めない!!

認め……たくない。


フィオの笑顔が浮かんで、これまでのことが走馬灯のように思い出される。


慌てん坊で、ヤキモチ焼きで、でも、一生懸命で、真っ直ぐに俺を愛してくれた。


失いたくない! 失うのは嫌だ!


でも、大帝神龍王の力でも、命を戻す力はない。


動かなくなった彼女の体を抱き締めて、もう俺の名を呼ぶことのない顔を見つめた。


生き返って欲しいのに。

でも、方法は?


どうしたらいいんだよ……!!

フィオのいない世界なんて……。


「ガー、フィオ」


肩に乗ったオウムのフェイルノが、パタパタと羽ばたいて喋りだした。


お前も悲しいのか? フェイルノ。


「ガー、フィオ、ドウシタノ?」


「フィオは……もう……」


その先は怖くて言えなかった。言えば認めることになりそうで……。


唇が震えて、胸が張り裂けそうに痛い。

俺の魂も、半分消えたように思える。


「フィオ、アワテンボウ、フィオ」


フェイルノが言うと、魔導士ティトもハンカチで目頭を押さえて頷いた。


「まったくじゃ! この年寄りより先に逝くとは……大馬鹿者の慌てん坊じゃ!」


シーン───。沈黙が痛い。

全員が俯いた時、フェイルノが騒ぎだす。


「ナカナイデ、アーチロビン」


「慰めて……いるのか? フェイルノ」


「フィオ、アーチロビンノコト、ダイスキ」


「く……!」


「モドリタイ、イッテル」


「俺だって戻ってきてほしい。戻ってきたらもう二度と……え? 戻りたい、て誰の話だ?」


「フィオ」


「は!?」


「フィオ、ソコニイル」


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