打開策
「私の聖属性の魔法が効かないなんて……こんな馬鹿な……」
シャーリーは、困惑の表情でゾンビダラボッチを見上げていた。
確かに。ネプォンとの旅でも、彼女は回復役としても、防御の要としても、聖属性の魔法の使い手としても、重宝されていた。
それがこうも通用しないなんて、初めてだ。
「大聖女様、みんな不審な目で私たちを見ています」
戸惑うシャーリーに、お付きの神官たちも不安そうに寄り添う。
「……何が大聖女だ」
誰か一人が言い始めると、周りにも連動していく。まずい空気だ。みんな恐怖のせいで、恐慌状態になりやすいからな。
やがて人々の間から、シャーリーに向かって石が投げられ始めた。
周りの神官がシールドを張って、石の直撃はない。けれど、口々に罵られている。
「役立たずの大聖女め!!」
「そうだ!」
「その通りだ!」
シャーリーは、怒りの表情を滲ませて周りを睨みつける。大聖女としての顔をかなぐり捨てたな。
「生意気な連中ね! ただの庶民のくせに!!」
「なんだと!?」
「本来私は、話もできないくらいの高位の存在。その私に向かって───」
「何が高位だ! 役立たずめ!!」
「言ったわね!!」
風圧が起きて、周りの人たちが吹き飛ぶ。
あいつ、何してんだ!?
そして彼女は、もう一度ゾンビダラボッチに聖属性の魔法を連続してあてた。
流石に奴も怯んでいる。
ほっとしたのか、シャーリーも片手を口にあてて笑いだした。
「ほほほ、ほら、ご覧なさいな! 魔族なんて私の前では……え?」
「グルルル!!」
唸り声をあげたゾンビダラボッチは、ぬっと手を伸ばして、シャーリーを捕まえる。
「きゃあぁー!!」
シャーリーの声が響き渡った。
ゾンビダラボッチが、攻撃を!?
そうか……! 攻撃対象が、シャーリーだけに切り替わったんだ!!
「シャーリー様!!」
お付きの神官たちも、思い思いの聖属性の魔法を放って助けようとするけど、誰一人シャーリーを助けられない。
仕方ない、次は……と思った時だ。
ドドーン!!
「なんだ!?」
不意に大砲の音が聞こえて、ゾンビダラボッチのお腹に砲弾がめり込む。
この国の軍隊か!?
外敵を排除するため、攻撃を始めたんだ!!
「やめなさい! 標的になるぞぉ!!」
半人半馬の司祭が叫んでいるけど、砲弾は止まらない。
遠くから撃ってきているから、聞こえないんだ!!
ドドン! ドーン!!
ゾンビダラボッチを狙う大砲の弾は、さらに数を増やしていく。
シャーリーを抱えたゾンビダラボッチは、大砲を放つ方に向かって歩き始めた。
標的を変えたのか!?
まずい……! 俺から敵意が逸れては、攻撃抑止も絶対反転も、意味をなさなくなる。
なんとかしないと!!
「ネプォン! ネプォン、助けて!! イルハート! なんとかしてぇ!!」
シャーリーは、持ち去られながら下を向いて叫ぶ。
視線の先に、ネプォンがいた。大魔道士イルハートも静かに見ている。
勇者ネプォンの剣なら、あるいは……。
でも、ネプォンは大魔道士イルハートの肩を抱いて、馬車に乗り込むと、さっさと退散してしまった。
あの野郎! かつての仲間じゃないのか!?
「そんな……裏切り者! 裏切りものぉ!!」
シャーリーの声が、虚しく響き渡った。
ネプォンの馬車が走り去り、シャーリーは無我夢中で悲鳴をあげ続ける。
様子を見ていた聖騎士ギルバートが、槍を空中から取り出してケルヴィン殿下を見た。
「ケルヴィン殿下、聖騎士として、看過するわけにはいきません」
「ああ、わかってる。奴に攻撃が効かない理由がはっきりしない以上、彼女を取り戻すことだけに集中しよう」
ケルヴィン殿下は、俺たちの方を見た。
「アーチロビン、フィオ、ティト、協力を!」
俺たちも頷く。
シャーリーだけの問題じゃない。このままだと、被害が大きくなる。
すると、先ほどの半人半馬の男が、俺たちの方に向かって叫んだ。
「あんたたちも、手を貸してくれ!! ゾンビダラボッチの襲撃を許したのは、大聖女が我が国の神器を動かしてしまったからだ! 元の位置に戻せば、奴を結界内に押し戻せる!!」
神器!?
ケルヴィン殿下は、サッと走りながら俺たちを振り返った。
「行ってくる! ここを頼む!!」
俺たちは頷いて、歩き去るゾンビダラボッチを睨みつけた。
奴はシャーリーを握ったまま、大砲が飛んでくる方へと向かっている。
止めないと!!
そう思う俺たちの前に、神官の集団があった。
「皆さん、大聖女様をお助けせねば!!」
シャーリーを救えなかったお付きの神官たちは、オロオロしながらゾンビダラボッチの後をついていこうとする。
無理に決まってる!!
俺は、慌てて彼女たちの前に回り込んだ。
俺は顔を知られていないから、彼女たちの前に出ても大丈夫。
「よせ!! 止まるんだ!」
「きゃ!」
「な、なんです? あなた……」
「俺と俺の仲間が向かいますから! 何があっても、手出しはしないでください」
「でも……!」
「自分が標的になりますよ!」
俺が強く言うと、彼女たちは顔を見合わせて黙った。
「アーチロビン、シャーリー様を追って!!」
そこへフィオが駆け寄ってくる。
神官たちは彼女を見て驚いた。
「グ、グライア神官? なぜここに?」
「オベリア様の密命を受けて、ある冒険者の供についたと聞いていますが、こちらの方に帯同されてるの?」
口々にフィオを見た神官たちは、質問責めにしていた。
フィオは真剣な表情で、みんなを見つめる。
「そうです。皆様、街全体にシールドを張りましょう。ゾンビダラボッチの攻撃を、少しでも防ぐのです!!」
「グライア神官……シールド……そうですね!」
「そうだわ……攻撃は効かなくても、守りなら!!」
「この国の司祭が、ゾンビダラボッチを結界に押し戻す神器を用意してくれています。準備が整うまで、持ち堪えましょう」
「ええ!」
「わかったわ、グライア神官。力を合わせて!!」
フィオが、神官たちをまとめ上げて、祈りの書を開く。
まるで大聖女みたいだ、フィオ。
「アーチロビン、行こう!」
聖騎士ギルバートが、俺を呼ぶ。
とりあえずこの場は任せて、ゾンビダラボッチを追うぞ!!
先回りして、大砲を撃つのをやめさせないと!
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