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狙いはどこに

大魔導士イルハートは、魔力でテントの入り口を閉めると、俺たちを見回した。


「魔王は近く復活する。そして、あなたたちはそれを止めるために動いている。そんなところねぇ?」


止めるというか、復活させて倒す予定だがな。


余裕の笑みを浮かべる彼女に、ケルヴィン殿下が質問を投げかけた。


「お前は目の前で、ヘカントガーゴイルから離れる、魔王の魂の欠片の存在を知った。当然ネプォン義兄上にも伝えたのだろ?」


大魔導士イルハートは、ふふ、と流し目で彼を見る。


軽く蔑むような、小馬鹿にした目。

俺はこいつの、この表情が嫌いだ。

大帝神龍王の生贄にされた時、こんな目で見られていたから。


「言うわけないわぁ、ケルヴィン殿下」


「何!?」


「あいつに言ったら、どうなると思う? 魔王の存在を口にする者を、全部抹殺してしまうわぁ」


「臭いものにはフタか? そんなことをしても、魔王はいつか復活してしまうぞ?」


「そうねぇ。前はぼうやを犠牲にして得た、レアアイテムの力で勝てただけなのにぃ」


俺はジロ! と彼女を睨んだ。

それでも、少しも動じない。どこまでも面の皮の厚い奴だ。


聖騎士ギルバートが、ここで口を挟んだ。


「キミの狙いは? アーチロビンを利用したように、ボクたちを利用するつもりか?」


そう、読めないのは彼女の胸の内だ。どっちの味方なんだ?


「確実な方につきたいだけよ。それより、次は何をする気? 私たちのことを教えたのだから、そっちも教えてぇ」


「ボクたちは、この国を長く悩ませている、『ゾンビダラボッチ』を倒すつもりだ。そいつも魔王の魂の欠片を宿していると思われる」


「なるほどねぇ。でも、倒しても魔王の魂を解放していくだけよね? どこかで復活しちゃうわよ?」


大魔導士イルハートの質問に、ケルヴィン殿下が答える。


「魔王の復活は止められない。下手に魂の統合が妨げられれば、世界のどこかで大規模な破壊が起きるからだ。俺たちは、一度復活させて倒すべきだと考えている」


「!!」


彼女の表情が険しくなる。初めて見る……こんな顔。


「どうやって倒すの? ケルヴィン殿下、あなたはネプォンのように、天に選ばれた勇者じゃない。『ただの王子』なのよぉ?」


「キツイお言葉、どうも」


「事実だわ。何か切り札があるのぉ?」


そこまで言って、彼女はハッとして俺を見る。


「───あなたね?」


「……」


「ぼうや、あなたなら、復活した魔王を倒す力を持つのね?」


「……」


「大帝神龍王と何か契約を交わして、ここにいるのね?」


「……」


「ヘカントガーゴイルを倒したあの力。見間違いではなかったのね」


大魔導士イルハートが、にじり寄ってくる。

な、なんだ? この妖艶な雰囲気。


四つん這いで近寄る姿に、思わず固まってしまう。


ケルヴィン殿下や、聖騎士ギルバートも、生唾を飲んで見守っていた。


彼女はどんどん近づいてくる。

ち、ちょっと、なんだよ……?


「ぼうや……私のルーク……いいえ、アーチロビン。あなたなら私を……」


「そこまでじゃ!」


魔導士ティトが、杖を大魔導士イルハートの前に突き出して通せんぼする。


「あら、残念ねぇ。唇が奪えるかと思ったのにぃ」


彼女がその場で投げキッスするのを、ぼーっと見ていると、フィオがぎゅっとつねってくる。


「いて!」


「鼻の下伸ばしてる」


「違うって!!」


「さっきも、ここに来るまで腕を組んでたし」


「あ、あれは、人混みのせいで、離れるのが難しくて」


必死に言い訳する俺に、フィオはなんとも言えない細目で見つめてくる。


本当のことなのに、通じていない。

あああ、どうしたらいい?


このままだと俺は、フィオに嫌われてしまう。


「くくく、最高ね。まるで、ままごとやってるみたい。こんな女から、彼を奪うのは簡単ね。」


大魔導士イルハートは、元の場所に座り直してにっこり笑った。


「どういう意味ですか!?」


フィオは尻尾と耳をピンと立てて、大魔導士イルハートを睨みつける。


「そんなふうに、彼を責めてばかりいたら、本当に嫌われるわよぉ?」


「な……!」


「まぁ、いい経験しなさいよ、お嬢ちゃん。あなたは、失恋で終わるだけだから。何度か同じ経験していれば、加減、てのを覚えるわぁ」


「し、失恋!? 決めつけないでください!!」


フィオがカッとして立ち上がろうとするのを、魔導士ティトがサッと止める。


「待て、フィオ。イルハートもいい加減にせぇ。お前こそ、何を怯えておるんじゃ」


!?


怯える? 彼女が?

みんな驚いて注目した。


大魔導士イルハートが、横目で魔導士ティトを睨む。


「めざといババアねぇ」


「おう、このババアは鋭いぞ。大体魔王を我らに倒させたいだけなら、静観しとればいいものを、こうも絡むのにはワケがあるじゃろ」


「ネプォンが失脚すれば、私もガルズンアース国の相談役から降りることになるわ。新たな再就職先を確保しておきたいのぉ」


「なら、誘惑する相手が違うぞ? アーチロビンではなく、ケルヴィン殿下に迫るべきじゃ。じゃが、お前はそうしない。なぜじゃ」


「ぼうやがタイプなのぉ」


「は! たわけが。お前は、ネプォンもアーチロビンも愛してはおらぬ。お前は、己の野望のみ愛している女じゃ」


「ふん、本当に嫌なババア」


───そこは認めるんだな。

一瞬でも、ドキドキした自分が情けない。

だから、この女にいいようにされてしまうのに。


魔導士ティトは、隣から手を伸ばして俺の肩を慰めるようにポンポンと軽く叩く。


彼女を見ると、『気にするな、小僧』と言いたげな表情をして、すぐに視線をイルハートに戻した。


「大魔導士まで上り詰めたお前が、そこまで怯えて、アーチロビンに縋る理由はなんじゃ」


「……あんたが」


「ん?」


「あんたが恋に惑って、大魔導士の座につかなかったから、わからないんでしょうけど、このままだと、私は……」


彼女が言いかけたその時だ。

布がバサッ、バサッとめくれる音が近づいてくる。


「なんだよ! お前!」


「きゃ! 失礼ね!!」


人々の困惑する声。なんだ?


大魔導士イルハートは、盛大に肩をすくめて、胸元から紙を一枚取り出して俺に渡してくる。


「はぁ、時間切れね、ぼうや。今から、ここに行きなさい。準備をしっかりしていくのよぉ」


大魔導士イルハートは、不敵に微笑んで、自分からテントを出ていった。


「イルハート!!」


ネプォンの声がする。


「あら、ネプォン」


「浮気か?」


「あなたに言われたくないわぁ」


「俺から離れるなと、言ったはずだ」


「女の子たちはどうしたのぉ?」


「飽きた。もう十分遊んだからな」


「呆れたぁ」


「次に行く前に、シャーリーのところへ行こう。何やら妙な夢を見るらしい」


「夢ぇ?」


「魔王が、襲ってくる夢を見るらしい。下手なことを騒ぎ出す前に、あいつも黙らせないとな」


「こんなところで、ヤバいこといわなぁい」


「大丈夫、俺の勘がそう言ってる」


「あ、そぉ」


「俺の言う通りにしていれば、間違いはない。そうだろ?」


「ええ」


「魔王は復活なんてしない。魔王は消滅したんだ」


「……」


「それより、聞いたか? このスパで、孤族の可愛い女の子が来ていたと」


「孤族なんて珍しくないじゃない。ほらそこにも、あそこにもいるわぁ」


「いや、色が違う。白狐の女の子らしい」


!? フィオのことだ。


「それがぁ?」


「是非付き合いたい」


「はあ、あんたも好きねぇ」


「前に一度孤族の女の子と付き合ったんだけど、よかったぜぇ。可愛くて、スタイルがよくて。あの狐耳を撫でると、気持ち良くてさ」


「その娘はどうしたのよぉ?」


「飽きたから捨てた。新しいのがいい」


「ふぅん、まあ、どうでもいいわ。そんなことより、シャーリーのところへ行きましょうよぉ」


「イルハート」


「なぁに?」


ネプォンが凄む声で、大魔導士イルハートに声をかける。


「……裏切るなよ」



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