反則な彼女
俺たちはスパに入ると、思い思いの水着を借りて、更衣室で別れる。
よ、ようやく解放された。
あー、腕が痛かった。
俺はテキパキと着替えを終えて、ケルヴィン殿下と聖騎士ギルバートと一緒に、待ち合わせの温泉プールに向かった。
ここのスパはとても広くて、全て無料。
「この国は税金がとても高いんだが、生活に関するものは全て無料。スパや遊興施設ももちろん無料だ」
と、ケルヴィン殿下が、教えてくれた。
確かに、利用する人々は沢山いるようだ。無料なんて羨ましい。
「しかし、金持ち連中には嫌われる国ですよ」
聖騎士ギルバートが、周りを見回しながら話す。
確かに、稼げるものからしたら、自分の力で稼いだものを盗まれてる感覚なのかもしれない。
「確か、金持ち連中の子供たちは、兵役免除が唯一の見返りじゃなかったかな」
ケルヴィン殿下はそう言って、周囲を確認していた。
俺もスパを見回してみたけど、老若男女みんな幸せそうに見える。
この国に、貧困で困る人はいなさそうだ。それだけでも、すごいことだと思うな。
唯一の不満は……。
「すごい人混みだ」
俺は流石に顔を顰めた。
こんなにいたら、ネプォンに見つかることもないだろうが、はぐれたら大変だ。
「ミズギ! ミズギ! オネーサン、キレイ!」
俺の肩にとまるオウムのフェイルノが、嬉しそうに羽をパタパタさせていた。
確かに、若い女性も多いからな。
おっと、まずい相手もいた。
俺は、遠くで女性たちに囲まれてご満悦のネプォンを見つけた。
向こうは、こっちに気づいていない。
俺はケルヴィン殿下と、聖騎士ギルバートにもネプォンのことを教える。
「ここにいるなんてな」
「ネプォン王は鼻の下伸ばしてますねぇ、ケルヴィン殿下」
「羨ましいのか? ギルバート」
「そりゃそうですよ。うちのパーティーでモテモテなのは、アーチロビンですし。ボクの出番なしですもん」
「確かにな。王子と聖騎士を差し置いて、弓使いが女性の人気を独り占めしてるからな」
「いいなぁ。アーチロビン。二人に腕を組んでもらってー。それで? どっちがよかったの?」
聖騎士ギルバートが、俺の方を振り向いて聞いてくる。ど、どっちって……。
俺は、顔を逸らした。
言っても、信じるかな。
楽園気分は最初だけ。
あとは、腕が引き抜かれそうに引っ張られて、痛かっただけだなんて。
「野暮な質問ねぇ」
大魔導士イルハートの声がして振り向くと、際どい水着に着替えた彼女の姿があった。
まさに妖艶な美女。
動くたびに大きな胸が揺れるので、周りの男性たちも足を止めて眺めていく。
流石の水着姿に、ケルヴィン殿下やギルバートも、見惚れていた。
俺も一瞬固まったけど、頭を振って睨みつける。こいつの罠に、かかりたくない。
そんな俺の手に、イルハートは自分の手の指を絡めてきた。
「ネプォンがそこに来てるぞ、イルハート」
「……知ってるわ。ナンパした女の子たちと、さっき来たみたいぃ」
「ここじゃ、いつか見つかる」
「大丈夫、このプールを抜けた先に、テントを張ったエリアがあるの。そこなら、安全よぉ」
「手を離せ。そこまでしなくてもバレない」
「んもう、可愛い。恥ずかしいのぉ?」
「うるさい」
「ふふ、そんなにあの小娘に嫌われたくないのかしらぁ?」
「忘れたのか? 俺はあんたを恨んでるんだ」
まったく、迷惑な女だ。
うんざりしかけたその時、フィオの声が聞こえてきた。
「あ、あの、迷惑です。人を待ってるんです」
フィオ? どうしたんだろ。
声のする方に向かうと、彼女は複数の男に囲まれてナンパされていた。
「ねぇ、あっちで一緒に遊ぼう」
「名前は? 俺たちとの方が楽しいよ?」
「いいえ、ごめんなさい」
フィオは、困った顔で一生懸命に断っている。
しつこい誘いだな。
俺は何故か、奴らの存在が頭にきていた。
迷惑と言われたら、引けよ、お前ら!!
そのうち、一人がフィオの肩を抱き、他の連中は彼女を囲うようにして強引に連れて行こうとする。
何をするんだ!? あいつら!!
一度、人の流れに乗ると、なかなか抜け出せないことがわかっているな。
俺はイルハートを振り払って、彼女の元へと急いだ。
「やめてください! ……あ! アーチロビン」
「フィオ! おい、お前ら、彼女を離せ!!」
「あ? なんだよ、てめぇ」
男たちが立ち塞がり、フィオの肩を抱いた男はその間に連れ去ろうとする。
させるか!
「どけ!」
前に立つ男たちを軽くいなし、フィオたちに追いついて、彼女に触れる男の手を捻り上げた。
「いたたた!」
「離せと、警告したはずだ」
「いて! いい女なのに……!!」
「彼女は嫌がってるんだ。無理強いするな」
「わ、わかった! わかったから……」
俺が凄みを効かせた声で言うと、連中は慌てて逃げていった。
暴力は好まないけど、実力行使しないと、そもそも話を聞かない奴も多いからな。
それにしても───連れ去ろうとするなんて、油断も隙もない。
そりゃ、彼女は可愛いから、付き合いたいと思う連中はいるだろうけど。
嫌がっているのだから、諦めればいい。
水着の女の子なんて、他にもいるのに。
フィオも怖かっただろうな。
俺はフィオを振り向いた。
「フィオ! 大丈夫か? 怪我は? フィ……」
声をかけようとして、俺の動きが停止する。
───え? だ、誰だ、この美人。
「アーチロビン、助けてくれてありがとう。私なら、大丈夫」
応じる彼女に、俺は何も言えない。
フィオ……フィオなのか?
嘘だろ? これが、あのフィオ?
まるで別人。
すごく……綺麗だ……。
イルハートのような、際どい水着を着ているわけでもないのに、しっとりとした色気が感じられる。
いつも体の線を隠す神官の衣装を着ているので、そのギャップも大きい。
俺が知ってるフィオと、全然違う。
道ゆく人も、年齢、性別に関係なくフィオを振り向いていく。
オウムのフェイルノは、俺の肩にとまったまま、興奮し始めた。
「フィオ、ステキィ! イチバン、イチバン、キレイ」
「ありがとう、フェイルノ」
「アーチロビン、ホメナイト」
フェイルノが、俺をつつくけど動けない。声も出ない。
どうしたんだ? 俺……。
心臓まで、止まりそうだ。
ただ目だけが、彼女の一挙手一投足を逃さないように追ってしまう。
誰か教えてくれ……俺は一体どうしてしまったんだ?
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