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再会

大魔導士イルハート!!


俺は、思わず湧き上がる怒気を、必死で抑えた。


「座りなさい、ぼうや。ヘイムニルブにいる仲間を助けたいんでしょお?」


イルハートは、仮面を付け直すと、指でトントンと机を叩く。俺はいつでも弓矢を構えられる準備をして、席に座った。


「なぜ、ここに?」


「それは、こっちのセリフよ、ぼうやぁ。怪しげな力を使う、隠しチートキャラの噂は聞いていたけど、まさかあなただったなんてぇ」


彼女は指先で、耳にかかる自分の長い髪を巻くと、ゆっくり外に流すように離す。


まるで、頸を見せつけられているようだ。


かつてはこういう動作に、ドキドキしたこともあったけれど……。


今は違う。


くねくねとシナをつけた動作に、吐き気がしてくる。この調子で人を籠絡して、利用しようとしてくるからだ。


後で痛い思いをさせられることを、忘れてないからな。


俺は彼女を睨みつけた。


「ヘイムニルブと言ったな。ケルヴィン殿下たちがどうなってるのか、知っているのか?」


「ヘイムニルブに入ったことまでは、掴んでるわ。そこから先は知らない。あそこは私でも、用がなければ近寄りたくないわぁ」


彼女は俺の怒気を、涼しげな眼差しで受け流している。一筋縄ではいかない女だ。


「なぜ、俺が彼らの仲間だとわかる?」


「うふふふ、一緒にいるところを見たもの。宿屋にソウルイーターを召喚して、ケルヴィン殿下を襲わせたのは、私」


「!!」


「それに、チェタ鉱山。あの時、ヘカントガーゴイルに捕まえられていた兵士。あれね、変身した私だったのよぉ?」


「!!」


「先回りして、ケルヴィン殿下を捕まえようとしていたら、部下と一緒にヘカントガーゴイルに襲われてねぇ」


「あんたほどの人が、ヘカントガーゴイルに手間取ったというのか?」


「魔王の魂の欠片が宿っているとは知らなかったから、油断しちゃったわ。助けてくれて、ありがとぉ」


「あんただとわかっていたら、助けなかった」


「そうかしらぁ?」


「今の俺は、あんたを倒せるぞ?」


「でしょうね。さっきから魅了や、自白の術をかけてるけど、あなた少しもかからないものぉ」


「……」


「大帝神龍王と一緒に封じたはずなのに、何故いるのかわからないわぁ」


「教える気はない。さっさと船便のチケットをよこせ」


「ふふ……変わったわね、ぼうや。純朴でウブな可愛いぼうやだったのにぃ」


そう言うと、彼女は仮面をもう一つ取り出して、俺に投げた。


「つけてぇ」


「え」


「つけなさい! ここで足止めされたくなければ」


有無を言わせぬ迫力。普段のこの女の声じゃない。


なんなんだよ、一体!?


俺は戸惑いながらも、仮面をつけた。


そこへ、男が現れた。懐かしい……というのとは全く違う。この世で最も会いたくない男。


「イルハート! 勝手な行動をするなと、言ったはずだろ?」


ネプォンだ。王が直々にお出ましか。

庶民に扮して、お忍びの格好をしてる。


「あら、バレちゃったぁ?」


「俺の直感を舐めるな。お前がこそこそ独断で動いているのは、知ってるんだぞ?」


「お・し・ご・と、してるの。ガルズンアース王の相談役が、王子一人も捕獲できないなんて、恥ずかしくて城にいられなくてぇ」


「どうだか。早速男漁りをして、余裕だな?」


ネプォンは俺をチラリと見る。こいつの勘の良さは驚異的だ。ラック値の良さからきてるんだろうが。


だからこそ、勇者としてやってこれた。王にもなれた。仮面のおかげで、俺とは気づかないようだが。


「おい、お前。こいつは俺の女だ。さっさとどこかへ行きやがれ」


ネプォンは凄みを効かせて、ハエでも追い払うように手を振る。


こいつも、前と変わらない。


「もう、せっかく楽しくお話ししてたのにぃ」


イルハートが頬を膨らませて、ネプォンを見た。


「俺のものが、他の男に取られてたまるかよ」


ネプォンは、イルハートの腕を掴む。


「あら、あなたこそこの国で、何人ナンパしたんだか。おまけにケルヴィン殿下探しにかこつけて、この国の姫にも手をつける気でしょお」


「ばーか。この国の姫は、勇者の時から俺に惚れてるんだよ。もうとっくにモノにしてる」


「あらあら、それは失礼」


「とにかく、ケルヴィンが魔王探しなんて始めたものだから、いい迷惑だ。魔王なんかもういない」


「……」


「魔族の勢いが落ちないのも、別の理由だ。俺の勘がそう告げてる」


「……そぉ」


「そんなことより、政務に戻れ。お前がいないと面倒が全部俺にくるんだよ」


「政の長こそ、王なのよ? 官僚をちゃんと使いこなせば、政は回るものだわぁ」


「贅沢で好き勝手していいから、俺は王になったんだ。面倒なんて、ごめんだね」


「地方の端々にも目を光らせてないと、反乱がおきるわよ? また無駄に税金を上げてないでしょうねぇ?」


「反乱なんて、お前の魔法でいくらでも抑えられるだろ。雷でも炎でも、いくらでも喰らわせてやれ。なんなら、凍らせてもいい」


「バカね。そんなことばかりしていたら、国は滅亡するわぁ」


「そこを上手くやれる、お前なら」


「丸投げしてるだけじゃなぁい」


「後でいくらでも、可愛がってやるからさ。それでいいだろ? な?」


イルハートは、仕方ないと言わんばかりの表情で立ち上がる。


なんだ、こいつ。

結局、ネプォンに骨抜きにされてるのか?

その割に、俺をネプォンから庇うように仮面を渡し、今も俺の正体をバラさない。


彼女とネプォンは、一枚岩ではないことはわかるが。


本心はどこにあるんだ?

大魔導士イルハートは、ネプォンの顔を撫でてご機嫌をとる。


「そう言われちゃね。約束よぉ?」


「あぁ。だから、俺から離れられないだろ? イルハート」


ネプォンはニヤリと笑って、イルハートの腕を引いた。


さっさと2人で消えてくれ。

そう思っていると、彼女は俺の方を見て片目を閉じる。


「楽しかったわ、ハニー。これ、お会いできた思い出に」


そう言ってハンカチを渡してきた。


何かあるな。


俺はとりあえず受け取る。カサリと紙の音がして、机の下で開くと、船の乗船チケットが隠されていた。


おっと、これはもらっておかないと。


俺は、素早くチケットをポケットに捩じ込む。


ネプォンは、面白くなさそうな顔をして、俺の襟首を掴んで立たせてきた。


「返せ」


ネプォンは、俺の手からイルハートのハンカチをもぎ取る。


「小さい男ねぇ」


呆れるイルハートの胸元に、ネプォンはハンカチを捩じ込んだ。


そして、俺の顔目掛けて拳を突き出すので、俺は咄嗟に避け、ネプォンは、体勢を崩して前のめりになる。


遅いパンチだな。

こいつ、こんなに弱かったか?


「む!? 舐めやがって!!」


ネプォンは、小声で凄んだ。

奴の目に、屈辱を受けたことに対する怒りの炎が燃え上がる。


イルハートの前だから、余計悔しいか。


諦めずにパンチしてくるので、もう一度避けた。


あたるか! そんなへなちょこ。


周囲は何事かと注目し始め、拳を避ける俺に、ピュー! と口笛を吹く客も現れて、煽ってくる。


「野郎!!」


ネプォンに完全に火がついた。

……このままじゃ、こいつはしつこく攻撃をやめないだろうな。


やり返してもいいが、根に持たれるのは避けたい。


ここはそろそろ、攻撃を受けて『やられてやらない』と。


「これでも、くらえ!!」


ネプォンは俺の飲みかけのお茶のカップを掴むと、俺に向かってバシャ! とふりかけてきた。


避けようとしたけど、後ろの客にまでかかってしまう。


俺はわざとかぶり、その後の奴のパンチも頂戴してやった。


大帝神龍王の防御力も俺に宿っているから、ダメージは大したことがないが、俺は派手に倒れてみせる。


こいつは、自分がスッキリするまで、しつこく喧嘩をふっかけてくるからな。


前の旅で、いやというほど思い知らされてる。


「二度と会うんじゃねぇぞ! このクソ野郎!!」


倒れた俺と、驚く周囲の視線を嬉しそうに見回して、奴はイルハートと一緒に店を出ていった。


俺、強ぇが見せつけられて、機嫌がよくなったんだろう。


全く疲れる男だ。


俺は騒いだ分も含めて、店にお金を支払う。


「みんな、わかってますよ。あなたの方が勝っていたこと」


店長が小さい声で俺に告げてきた。

俺は苦笑いして、小さくお辞儀をする。


店長は、多めに支払われたお金を受け取りながら俺を見た。


「あなたが支払わなくても。さっきの男が支払うべきでしょうに」


「いえ、ご迷惑をおかけしたので」


俺が言うと、店長はため息混じりに、肩を落とした。


「あんな男が、まるで自分は王であるかのように、ホラを吹いてましたなぁ。勇者ネプォンに似ていたようですが……」


「そっくりさんですよ、きっと」


「ですよね? あんな男が王だなんて、ガルズンアース国が気の毒でならなくなるところでした」


「まったくです」


俺はそう言うと、チケットを握りしめて港へと向かった。


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