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33話 一夜明けて

ポルカのセリフは『』で表現するようにしてみます。

 建物の中がほんのりと明るくなってきた。

 ノエルもあれだけ泣きはらしていた割には、昨日の夜はすんなりと寝てしまった。疲れもあったのだろう、夜中に誰かが起きてくるということもなく、まだ全員が熟睡していた。

 建物の中でたった一人、自分だけが起きているという寂しさを感じつつ、近くで寝ているノエルの顔を見る。いや、別に深い意味はないけど。


「……おはよう、ポルカくん」


『おはようございます』


 あ、ちょうどノエルが目覚めた。

 せっかく手に入れたことだし、[マルチリンガルLv2]で手に入れたボキャブラリーを使って返答することにする。


「……ポルカくんが喋ったってことは夢かあ、おやすみぃ」


「ペポー」


 二度寝しようとするノエルに体当たりを仕掛けようかと思ったが、さすがにやめておく。

 まあ、昨日に比べれば少しは元気になってくれれることを祈ろう。

 二度寝したノエルはともかくとして、みんなぼちぼちと起きてくる時間帯だ。

 近所に住んでいた人や昨晩うちの宿屋に泊まろうとしていた人など、集会場の中には10人ちょっとの避難者がいる。

 おかみさんは普段早起きだけど、今日ばかりはその習慣が守られず、7・8人が起きてきたあたりでようやく目を覚ましたみたいだ。


「さて、朝食……ああ、そういやそうだったね」


 おかみさんも、自分の宿屋が燃えたことを思い出したのだろうか。少しだけ悲しそうな目をしたが、すぐに気を取り直してパワフルに活動を始めた。


「ほらノエル、起きなさい!お前が働かなきゃどうしようもないだろう!井戸の水を汲んできなさい!」


「ふぇ?う、うん」


 二度寝をむさぼろうとしていたノエルを強制的に起こし、集会場に備え付けられていた桶を持たせて外へと追い出す。

 そして、ノエルが集会場から離れたことを確認してから、すでに起きている人たち一人一人に挨拶をして回り始めた。


「このたびは本当に申し訳ありません、そちらに出た被害は、今すぐとはいきませんがいつかは……」


「あー、まあそんなにかかえこまなくていいって」


「でも……」


「ノエルちゃんだってわざとじゃないんだしさ、事故だよ事故。不運な事故だ。本人だって反省しているみたいだし、それでいいじゃないか?」


 おかみさんはそれでもといろいろ問答をしていたが、結局のところは


「それなら朝食でも作ってくれ、それでチャラにしよう」


 という、誰からともなく言い出した案が採用されることになった。

 ちょうどそのときに、近くの井戸から水を汲んできたらしいノエルも戻ってきた。休ませる間もなく、今度は朝食の材料を買いに行かせる。

 お金はどうするのかと思ったが、ツケで何とかなるみたいだ。そうでなくとも、昨日の騒動にあわせて火事が起きていたというのもそれなりに知れ渡っており、中にはタダで食料をくれた人もいたらしい。


「それじゃあ待っててくれ、お詫びも込めて、最高においしい朝飯を作るからね」


 集会場のスミの方にあった小さなキッチンで、いつも以上の気合を入れて料理を始めるおかみさん。

 ノエルも、足りない食器の代わりに紙皿や紙スプーンを買いに行かされたり、使い終わったボウルを台所で洗ったりと大忙しだ。

 しばらくすると、おいしそうな匂いがただよってきたらしく、周りの人がひくひくと鼻を動かしだした。

 この時ばかりは自分に味覚や嗅覚がほとんどないのが悔やまれるが、どちらにせよ俺に料理を食べさせようとする人なんていないから、残念とか、うん、ほんと、少ししか考えていない。

 調理を始めてから数十分後に、卵と野菜のスープが完成したらしく、集会場に集まったウチのご近所さんたちにふるまわれる。みんな地べたに座って出来立てのスープを味わい始めた。


「うん、さすが宿屋で毎日食事を出しているだけあるな」


「野菜にもよく味が染みていておいしいです」


 昨日あれだけひどい目にあったというのに、誰もが明るくふるまっている。ノエルを責めようとする人など誰一人として存在しなかった。

 困ったときはお互いに支えあっている、そんなこの街の住人たちの優しさが、改めて感じられた気がした。



「ごちそうさまでした、皿とスプーンはどうしましょうか?」


「とりあえず角にでも置いておいてください」


 あっ、俺もボンヤリしているだけじゃだめだろ。自分のできることは積極的にやっていかないと。


『おなかがすきました』


「むぐっ!?今の声、ポルカくん?」


『ピンポン♪』


 驚いて皿を落としそうになったノエルを尻目に、最初に食べ終わった人のもとへと向かう。ちょうど紙皿が部屋の角に置かれたので、片付け代わりに吸い込んでおいた。

 場所がどこだろうと、掃除機として、ゴミ拾イストとして、過ごしやすい環境を作る。

 それが、この異世界でしばらく過ごした俺の中に生まれた、一つのポリシーなのだから。



 みんなが朝食を食べ終わって、そろそろ解散かなという雰囲気になったところで、集会場にやってくる人がいた。


「失礼した。今回の一件、本当に申し訳ないと思っている」


 騎士団長のボズだ。

 話によると、街の中に魔物が出たという報告を受けた討伐隊は、野営を中止して暗い夜道を夜通し歩き続けたらしい。

 非戦闘員も含めた大人数の討伐隊が、スムーズに高速移動できるかと言えばそうもいかなかったようで、隊を率いる立場であるボボズはなかなか町までたどり着けないもどかしさを感じていたようだ。

 で、夜遅く……時間的には夜が明ける1時間ぐらい前に、ようやくトスネの街までたどり着いたらしい。すでに魔物陣が消されて悪食ピグはすべて討伐されたこと、家事も含めていくらか被害は出たけど奇跡的に犠牲者は出なかったことを知ったボズは、深く安堵していた。


「確実に討伐を達成するために組んだ討伐隊だったが、あまりにも街に残す戦力が少なすぎたみたいだ。こんなお嬢さんにまで街を守らせることになるなんて、まるで考えが足りなかった」


「い、いやいや、まさか街の中で魔物が大量発生するなんて予想できたらむしろすごいというか、なんというか」


 ノエルに向かって頭を下げるボズ。なかなかおもしろい光景だ。

 よく見るとボズの目の下にはうっすらとしたクマができており、目も充血している。事件の後処理に追われて一睡もできていないようだ。

 お疲れ様の意味も込めて、ミントの香りの消臭剤を振りまいておく。この後も仕事に追われるようなら、メントールの香りは多少は目を覚まさせてくれるだろう。


「おお、ありがとうよ。少しスッキリしたぜ。それで、被害についてなんだが……」


 一緒に話を聞かせてもらったところによると、今回の事件のせいで家が被害にあったのは何もウチだけではない。悪食ピグに柱をかじられたとか壁を食われたとか、さまざまな報告が来ているらしい。

 多少の補償金は出るみたいだが、そこまで多くのお金は出せないとのことだ。

 想定外のこととはいえ、討伐隊に力を割きすぎて被害を拡大させた原因は騎士団にある。団長であるボズへの責任追及は免れないのかもしれない。

 ボズは挨拶とお詫びを済ませると、また別の用事があるとのことで、すぐに集会場を離れてどこかへ行ってしまった。


「さて、これから忙しくなるねえ」


 自分の家が無くなったという非常事態なのに、頼もしいぐらいに落ち着いているおかみさん。

 ノエルも一晩寝たら気持ちがリセットされたのか、それともさっきおかみさんにこき使われたことで気がまぎれたのか、昨日の凹みを引きずっているようには見えなかった。

 俺も、『もう少し頑張っていれば宿屋の火を消し止められたかもしれない』と思うと、全く後悔がないわけではない。だけど、自分よりもつらい思いをしているはずの二人がしっかりと立ち直っているのだ。

 大切なのは過去ではなくて現在、そして未来。誰の言葉だったかは忘れたが、そんなセリフが心の中にふっと浮かんだ。

申し訳程度のエタってないアピール

10日かけてもストックが2,3話しか作れないって……

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