32話 悪食ピグの討伐9
町の中央の方にあるトスネ広場。
その中に、何人もの人が集まっている。
見渡した感じ、生きた悪食ピグはこの周辺にはいないようだ。ところどころに死骸は転がっているが、今は戦っている様子もない。
「あぁっ、ポルカ!?」
人ごみの中から声が聞こえた。あれはおかみさんの声だ。
安心するのは早い。ノエルは一緒だろうか?急いで人ごみの中に向かい、ノエルがいるかどうかを確認しないと。
「うぅ……ぐすっ……」
あ、いた。
いたけど……何かあったみたいだ。うずくまって涙を流している。
いきなり町中に魔物が現れて、家が燃えてるんだもんな。不安になるのも仕方がないけど……いや、まて。
そもそも、なんでウチの宿屋が燃えていたんだ?
悪食ピグが火をつけたなんてことはまず考えられない。
おかみさんがうっかり、という可能性も0ではないが、それより明らかに可能性の高い人物が……
「……あ、ポルカくん?ぐすっ、わたし、どうしよぉ……うわぁぁん!!」
……うん、この感じを見るに、やっぱりノエルが宿屋を燃やしてしまったみたいだ。
ただの俺の予想だが、街中に魔物が現れたと聞いたノエルは、遠征に行けなかった悔しさを晴らそうと魔法を乱発でもしたのかもしれない。
その中の一発がわるいことに宿屋に当たったことで、あの有様になってしまった。
この予想が正しいならば、今のノエルは火災の犯人ということになる。
とてつもない自責と後悔の念で押しつぶされそうになっているのではないだろうか。
「わたしが勝手なことしてなければ、あの時すなおに戻っていれば……!」
瞳に涙を浮かべて、頭を抱えてしゃがみこんで。
とんでもないことをしてしまったことに、ひたすら悔やんでいるノエル。いつもの天真爛漫さが消え失せ、別人のように落ち込んでいた。
慰めてあげたいけど、さっき手に入った言葉の中にちょうどいいものなんてない。
そうでなくとも、今のノエルになんて言葉をかければいいのか。
今の彼女は脆い。今にも砂になって崩れ落ちるのではないかと思わせるほどに。
どうしようか、どうしようもないか。そんなことを考えると、おかみさんがノエルに声をかけてくる。
「お前が素直だったら、家は燃えてなかったって?まあ、それもそうだね」
「おかあさん……ごめんなさ……ごめんなさい……!」
「この大バカものっ!!謝ってすむ問題だと思ってんのか!」
励ますかと思いきゃ、とどめを刺しにかかった。ひどい。
ノエルもまた大泣きしだすし。収拾がつかなくなってないか。
ここにいるだけで重苦しい雰囲気が伝わってくるし、周りの人たちも居心地が悪そうだ。
動くに動けず、どうすればいいか悩んでいると、広場の外から討伐を完了したらしい騎士が一人、こちらにやってきた。
「こんばんはっと、町の中の魔物は全部退治できたみたいだぜ。」
「ああ、そうですか。わざわざありがとうございます」
「いやいや、例には及ばんよ。住人の安全を守るのがオレらの仕事だからな……今回はちょっと手間取っちまったが」
「遠征のせいで人が少なかったですもんね、お疲れ様です。そちらは今どんな感じですか?」
「魔物を全部倒したから、今大急ぎで鎮火に向かっているところだけど、多分もうどうしようもないだろう」
どうしようもないという言葉を聞いて、ノエルの体がビクリと震えた。
聞けば聞くほどノエルが追い詰められていく感じがする。
ウチの宿屋だけでなく、隣の建物にも延焼していたからな。
「すみません、ウチのバカが……」
「ああ、まあしょうがないさ。何匹か倒してくれたみたいでこちらとしても助かった」
「とんでもない、騎士団に任せてればよかったのに、私がちゃんと見張ってなかったせいで」
「その子に助けられた子どももいると聞いているぞ、犠牲者が一人も出なかったのはその子のおかげでもあるんじゃないか?」
そういわれて、おかみさんは難しそうな顔でノエルを見る。
そして、どうしたものかとでも言いたげに、深いため息をついた。
ノエルが魔法を使ったのは、なにも鬱憤を晴らすためだけではなかった。
今回、魔物陣が現れたのは本当にいきなりの出来事で、騎士団がやってくる前にたくさんの悪食ピグが町の中に散らばっていた。
その中の数体がウチの宿屋の方にきたのだが、運の悪いことに子どもたちが宿屋の前で遊んでいた。
彼らは悪食ピグを魔物だと知らなかったらしく、見た目がそれほど怖そうでもないということで特に逃げたりはしなかったのだが……宿屋の中からその様子を目にしたノエルは違う。彼女は悪食ピグの説明を受けている。
悪食ピグが人間を食べることもあると知っていた彼女は、宿屋から飛び出して子どもたちを守るために悪食ピグに一人で立ち向かったらしい。
相手は数が怖いが単体ではあまり強くない魔物、そのことを理解していたのかいないのか、ノエルが発動した魔法は敵を……そして、家を焦がした。
まあ、あとは大体俺の予想と同じだ。悪食ピグのせいで消火活動もままならず、あの一帯の住人はひとまずトスネ広場に避難することになった。
家が犠牲になったけれど、住人がみんな助かったという点では、ノエルは褒められるべきだとは思うが、おかみさん的にはそうもいかないみたいだ。
家が燃えたことよりも、何よりも。
「なんでお前はそうやって危ないところに勝手に突っ込むんだ!こっちは生きた心地がしなかったよ!」
怒鳴りつける言葉の中に垣間見える悲壮感、そして安堵感。
この人はやっぱりノエルの母親なのだと、妙に納得させる一幕だった。
その後、おかみさんの説教は過去最長記録を余裕で更新して、ノエルはこれ以上ないというぐらいに反省したようだ。
説教の最中にルーカスがトスネに帰ってきて、魔物陣がすでに消えていることに驚くとともに、遠征に向かっていたはずの俺がなぜか街の中にいることに当然ながら首をひねっていたけど、夜も更けていたのでいったん帰ってもらった。
集会場とかいう建物を、避難所として使うみたいで、俺たちも含めて家が燃えてしまった面々は今晩は集会場に寝泊まりすることとなる。
スリープモードもなくはないが、眠気を感じることもない俺は、暗闇の中で今後のことについて考える。
ソイルコンタムとかいう豚が最後に残した言葉『次は水を使う予定ザマス』……どういう意味かはいまいちわからないが、この情報を他人に伝える手段なんてない。
そもそも、厄神とか、ルールとか、いろいろ意味深なことを言われたけど説明がさっぱりだったから、結局あいつが何を言いたかったのかよくわからないのだ。
水……水ねえ、しばらくはトスネの街を流れる川と用水路を注意深く観察してみることにするか。
この街でおこった悪食ピグ騒動はこうして、個人的に若干のもやもやを残したものの、ひとまずの決着を迎えた。
『悪食ピグの討伐』編、これにて終了となります。
ストックも完全に切れました。プロットはありますが次回の投稿は本当に未定です。
ああ、速筆になりたい……




