34話 再就職
「えぇ、そりゃあ災難だったねえ。うちの方は距離があったからほとんど被害はなかったけど、そっちの方でいろいろボロボロになったというのは聞いたよ。住人からお金を巻き上げといて肝心な時に役に立ちゃあしないのは今に始まったことじゃないけどねえ、あの騎士団に」
相変わらず話長いなこのおばちゃん。
まずは寝泊まりする場所を決めないとね、と行ったおかみさんが、最初に向かった先はまさかのキアレおばさんの家だった。
確かにおかみさんとは仲がよさそうだったけど、ええと……
「ま、そんなことならアタシだって部屋の一個ぐらい便宜はかってやるよ。今はもう子供がみんな出てったから」
「ありがとうございます、それじゃあ家賃と言いますか、下宿費といいますか……」
「アタシとしては別にいいけど、気にするようだったら適当に月に銀貨を何枚か払ってくれればいいさ」
……やっぱり、このお喋り大好きおばちゃんの家に寝泊まりすることになるのか?この人と一緒に暮らすとなるとものすごい疲れそうな気がする。
まあ、衣食住の確保は絶対に必要なことだ。全く知らない人のところに泊まるよりは、多少なりとも気心の知れた人のところに泊まれるほうがいいのかもしれない。
ところで、とんとん拍子に話が進んでしまったけど、家の人に相談しなくていいのか?もしかしてキアレおばさんって一人暮らしなのかな?
そんなことを考えていると、うまい具合におかみさんが質問を挟んでくれた。
「そういえば旦那さんは……」
「ああ、ウチの亭主が反対すると思っているなら心配いらんよ。かれこれ数年、アイツがアタシに逆らおうとしたことなんてないからねえ。この家じゃアタシの意向が絶対なんだよウフフ」
まだ会ったこともない旦那さんに合掌。
キアレおばさんは旦那を尻に敷くタイプっと。この人を怒らせることはないようにしよう。
住む場所が予想外に早く決まった上に、残っている部屋と使っていない家具をそのまま使わせてくれるらしく、焼けてしまったベッドなどを急いで購入する必要はなくなった。
そうなると次の問題は……
「焼けちゃった服はまた作るとして、働く場所を探さないとねえ」
家と同時に仕事場も焼失したので、一家そろって絶賛失業中である。
不幸中の幸いと言えば、おかみさんが宿の売り上げの多くを金庫に入れており、焼け跡から金庫を見つけて中身を回収することができた。一文無しというわけではなく、しばらく食いつなぐだけの蓄えはあったらしい。
そうはいっても、無限に金があるわけではない。今後どうなるかは分からないけど、新しく家か宿屋を建てるとしたらまとまったお金が必要になるだろうし、働き口はできるだけ早く見つけておくべきだろう。
「やっぱり働くとしたら働きなれている宿屋での仕事がいいかねえ」
「わ、私はそれでいいと思う」
『ピンポン♪』
おかみさんの言葉に賛同するように音を鳴らしておく。
ムリに新しいことを始めようとしなくても、慣れている仕事ができるならそれでいいと思う。
「ノエルもポルカもそう思うのね、それじゃあまずはこの街の宿屋で働けるところがないか探しましょっか」
住むための場所は幸先よく見つかったし、働く場所も早めに見つかることを祈ろう。
できれば俺も活躍させてもらえるような職場だといいけど……まあ、高望みは禁物だ。どうせ決めるのはおかみさんだしな。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「おおおぉ、まさかあんたさんがウチに働きに来るなんて。」
最初に寄った宿屋にていきなり採用されました。
宿の主人(ドグという名前らしい)との面接らしきものはあったけど、ほとんど最初から採用が決まっていたかのような話の運び方だった。
もともと宿屋で働いているので即戦力としての活躍が見込まれているってこともあるけど、それと同じぐらいに採用の決め手となっていたことがある。
「ポルカも働いてくれるとなったら、名物にすれば集客アップ間違いなしと」
ここでも俺か。
悪い気はしないけど、俺がいると宿泊客が増えるという根拠はどこにあるのか。
客の数が変わらなかったら申し訳ない気分になるぞ。
その後も何やらいろいろ説明とかされている横で、今後の展望について考えてみる。
そういえばホームベースLv2について何も調べてなかったが、よく調べたところ臨時のホームベースを設置できるとのことだ。
この新機能を使って、さっきキアレおばさんの家に臨時のホームベースを作っておいた。本家のホームベースのようにエネルギーの消費を抑える力はないけれど、これでキアレおばさんの家に瞬間移動できる。
せっかくなら新しい職場にも臨時ホームベースを設置しておきたいところだけど、1個しか設置できないようで、新しく設置しようとするとキアレおばさんの家に作った方が消えてしまうみたいだ。
ついでに言うと、以前の宿屋のホームベースはまだ消えていない。帰ろうと思えば以前の宿屋の跡地にも帰れるし、不思議な力でエネルギーの減少は抑えられたままだ。
とはいっても、焼け落ちた家を本拠地にはしたくないので、しばらくは臨時のホームベースで活動させてもらうことにしよう。
火山灰の方はほとんど掃除し終わったんだよな。何事もなければ、これからは気ままなゴミ拾いライフを送れるけど……やっぱり気になるのは水だな。
あのソイルコンタムとかいう変な豚が最後に言っていた言葉が、どうにも頭の中にこびりついて離れない。
おかみさんについてって街の中を歩いているときも、川や用水路に何かおかしなことが起きていないかと隙を見て確認していた。
半日かけて調べたところによると、今のところ何も起きていない。いつも通りにサラサラと水が流れ、ところどころでごみが捨てられているのを見つけたぐらいだ。
川に突っ込んでゴミを拾いに行くことも考えたけど、機械の体で水の中に入る勇気が出ない。そのままショートしてぶっ壊れるんじゃないか不安だ。
将来的に防水機能とか追加されたらぜひ拾いに行きたいところだけど……今のところはパスかな。
話が逸れた。とにかく、まだ調べていない地区もあることだし、この街の水の流れに気を配ることをしばらくは忘れないようにしよう。
「それじゃあ、ポルカが宿屋を掃除してくれるのを楽しみにしてるぞ。いっそ今から掃除してくれないか?」
おっと、ボーっとしていたらいきなり話を振られた。
特に切羽詰まった用事もないし、断る理由はないけど。
『ピンポン♪』
「おぉ、それじゃあ空いてる部屋を順ぐりに掃除してくれ。ノエルとやらは壁とか階段の掃除を頼むぞ」
「頑張ろうね、ポルカくん」
面接に来た10分後にいきなり仕事を任されるテキトーっぷり。この職場大丈夫か?
ビミョーに不安が残るけど、請け負った仕事はちゃんとやりますよ。
ドグさんに言われた通り、廊下を通って右手の部屋に入る。相変わらずドアなどは開けられないため、ノエルのサポートは必須だ。
中は……あれ、廊下はフローリングだったのに、中はカーペットが敷かれているな。掃除機的にはちょっと面倒かもしれない。
「うっ……匂いきついね」
部屋に入ったノエルは、まず匂いについて言及した。
中央にある机のを見ると、金属の皿のようなものが置いてあり、そこから煙がちょろちょろと流れ出ている。あと、部屋の中が少し煙っぽいし、匂いの正体はタバコだろう。
全神経を嗅覚に集中すると、ほんのわずかにタールの匂いが感じられるような……うん、気のせいだ。
そもそも嗅覚のない俺は大丈夫だけど、ノエルはあまりたばこのにおいが好きじゃないみたいだな。
とりあえず消臭剤撒いておくか。それと、カーペットにタバコか……あまり考えたくないけど、現実逃避するわけにはいかないよな。
うん、部屋に入ったときからなんとなく汚い床だとは思ってたよ。
カーペットに絡まったタバコの灰!
ところどころに見られるシミ・焦げ!
壁に張り付いたヤニ!
ルーカスのゴミ屋敷やロベルトのギトギト厨房にも勝るとも劣らない難易度というかなんというか……安かろう悪かろうを地で行くような部屋だ。本当にこれで客が入るんかいな。どこまできれいにできるか不安になってくる。
まあ、掃除をする前から諦めるつもりなんて毛頭ないけどな。
掃除機としての血が騒ぐ……血はないか。腕が鳴る……腕もないか。
締まらないけど、新しい環境での最初の仕事だ。相手にとって不足はない。
このロボット掃除機の体で、どこまできれいにできるか試させてもらおうじゃないか!




