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非常に長く険しい序章 22

短剣を鞘にしまった。



「賢明だな」ドウガンが偉そうに笑った。

「命を恩人を見捨てるほど、腐ってるつもりはないんでね」

「今度こそ、本当に死ぬぞ?」

「お前がだろ、ドウガン。随分と卑怯な真似をしてくれたな」

「卑怯? これは正々堂々とした作戦の一部だ。戦力を分散させ挟撃を行ったまでのこと」


こいつは、心の底から信じているようだ。

こいつらの作戦じゃないのかもしれない。

伏兵の性格が、あまりにもこいつらからかけ離れている。

レネの予想を逆手に取ったんだ。洗脳でもされたか? 

だが、それでもドウガンたちが卑怯で下劣で最低な連中であることには変わらない。


俺は深呼吸をする。

冷静に、冷静に。頭に血がのぼったら、ただでさえ不利な戦いに、勝ち目がなくなってしまうんだが――


「三対一だ」


ドウガンの左右に、お付きの者が立った。伏兵は数に入ってないのな。


左右が動いた。

二人とも、剣は鞘のまま、俺に掴みかかろうとする。


制圧。

俺を取り押さえるつもりか。


身体を低くし、右に体当たり。側面でぶつかる。が、倒れない。


「覚悟をすれば、耐えられないことはない」


むかつくほど楽しそうな顔だった。

すぐさま、こいつの手がおりてくる。

俺は身体をひねって、右の脇へ動き、膝の裏を蹴った。


「ぬお!」


さすがに、ここは覚悟しきれなかったようだ。


しかし、その間にドウガンが動いていた。


「油断しすぎだろ」


ドウガンの蹴りが、俺の脇腹に直撃。

ぐっ。痛え。

剣を使わないのは、いたぶるつもりか。なんとか倒れず踏ん張れた。

が、急いで後ろに飛びのく。


「運がいいな、小僧!」


左のお付きが、来ていたのだ。

体当たりをするつもりだったようで、勢いよく走っている。

俺が立っていた位置から少し過ぎたところで止まった。


「だが、いつまでもつもんでもないよな?」


本当にむかつく。でも、ドウガンの言うとおりだ。このままじゃ、やばい。


横目で、レネとヤギ太郎を確認する。


ヤギ太郎は、レネの服の袖をくわえて、草むら目指して引きずっている。

レネの周囲が淡い光に包まれていた。

多分、回復魔法中なんだろう。

あいつらは大丈夫そうだ。


ドウガンたちも、後回しに考えているんだろう。

なにせ聖女だ。

傷つけるわけにもいかないんじゃないかな。

怪我、させてるけど。

ならば、俺も自分の戦いをしよう。


「なあ、ドウガン?」

「どうした、降参か?」


俺は首を振った。


「いや」

「じゃあ、なんだ?」

「俺、逃げるわ」


手をすちゃっと上げて、走った。といっても、遠くに逃げてもしょうがない。レネだって、今のところ大丈夫ってだけだ。家に沿って走る。何か、作戦を考えなければ。なんにも、思いつかない。


どうしよ、どうしよ、どうしよ。


思いつけ、思いつけ、思いつけ。


頭ん中、真っ白。


奴らの気配は感じられる。まあ、俺もそんな遠くに逃げてるわけじゃないしね。

角を曲がった。


「あ」


思わず声が出た。


目の前には、物干し場がある。


二本の柱にかけられた、一本の物干し竿。


近づいて、物干しざおを手に取った。


長さは約3メートル。竹のような木を使っているらしく、50センチくらいの間隔で節がある。


深く息を吸い、吐く。


耳を澄ませば、左右からがちゃがちゃと音がする。

鎧を着た連中が走って近づいてくる音だ。

ま、家の周りを走るだけで時間を稼ぐのは無理だよな。


でも、光は見えた。


ドウガンたちを撃退する方法。ようやく見つかった。


俺は物干し竿を手に取る。


「軽いな~」


久しぶりに握る長い武器。にへへへ。


「懐かしい感触だ。やっぱり、武器と言えば、棍だよな」


「へえ、そうかい? なら試してみるか?」


前後から、ドウガンとお付きの者がやってきた。ま、家の周りを走っただけだから、すぐ追いつくわな。伏兵の奴がいないけど、あいつはどうなったんだ……。


ピンチな状況は変わっちゃいない。でも、さっきまでの俺とは違う。


「おう、試してみようか?」


重心を腰にすえ、棍の先をドウガンに向ける。


「面白い、受けて立とう」


ドウガンが余裕の表情で剣を抜いた。絶対、泣かせてやる。


左右のお付きが一歩、退いた。いいぞ。こいつら、まっとうな決闘だと思ってるんだ。自分たちから仕掛けておいて、随分と甘いんじゃないか? つけいる場所も見えてきたな。


「いくぞ!」


ドウガンは上段から剣をまっすぐ振りかぶる。

よし、いいぞ。

俺は身体をわずかにずらし、物干し竿で剣を受ける。


「鋼と木だ。そんなことも、分からんのか!」


嬉しそうなドウガン。大丈夫、俺も嬉しい。


ドウガンはそのまま剣を振り下ろした。


案の定、物干し竿は、剣によって半分に切られてしまう。

左右、それぞれの手に、同じ長さの竿……いや、もうただの棒か。

できれば、もう一回、それぞれ半分にして欲しいが、それはさすがに無茶か。


「愚かな」ドウガンの勝ち誇った声がうざい。

「お前がな!」


両手の棒で、ドウガンの胸をつく。


「おおっ!」


こいつ、学習能力、なさすぎ。まーた、あおむけにひっくり返った。予想外だったのか、お付きのものが駆け寄っている。


「大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな。この坊主、しぶといぞ。次は三人だ」


なーんて、熱く語っているのを放っておいて、俺は背中を見せて駆け出した。


「また逃げる気か、卑怯者!」


さすがに、そろそろドウガンの勝手な言いぐさに腹が立ってきたな。


コノウラミハラサデオクベキカ……。


今度は家の中に飛び込んだ。明かりは消えているが、月が出ているので不自由はしない。

まっすぐ工房に行き、電子レンジの前に立つ。


半分の長さになった竿を、膝を使ってさらに半分に割り、四つにした。


電子レンジの扉を開けて、そいつと短剣を放り込み、扉を閉める。


レンジ強。


三分。


そして、イメージを固める。

いや、もうすでに出来ているものを、より具体的に脳内に展開させる。

物干し竿を四つにしたのは、レンジに入れるため。

完成品では再びくっつける。

でも、長さはいいけど、強度が足りない。


だから、せっかくの短剣も入れる。


「ヴァン鋼」っていううさんくさいけど、専門家が感心する金属だ。

こいつをメッキのように物干し竿全体に蒸着させる。


すると、硬いけど、中は木なので、適度に軽い棍ができるってわけだ。


イメージはできた?


OK。


よし。


もう大丈夫。


「あたためスタート」


ちゃらら~。


ボタンを押すと、聞きなれた音がした。


あとは三分待つだけだ。


きっと良いものができていることを……信じる!


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