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非常に長く険しい序章 21

首をひねってドウガンを見る。

脂汗を流して、まだじっと構えているだけだった。

確認したときには、すでに俺の足はドウガンに向かっている。


掌底を叩きこんでやろうと、拳を構えた。

あとは腕を突き出せばいい。


二歩で間合いに入る。


これでドウガンも動けなくして、しばらく時間を稼ごう。


しばらくぶりだが、思ったよりも動きのキレが衰えていないのが嬉しい。


つい、口元が緩んでしまう。


ドウガンと一緒に。


あれ?


ドウガンがどうして笑う?


「俺たちが持久戦を狙うほど、暇で愚かだと思ったか?」


ん?


何が言いたい?


ドウガンが背中を見せて走り出す。


その先には、開けっ放しの出口。


逃げるつもりか? 


俺は勢いのまま、追いかける。


で、家を出て、星空の下に飛び出した瞬間――


黒い影が俺とドウガンの間に立ちふさがった。


「伏兵として潜んでましたー!」


ガラスを引っかいたときみたいなかん高くて耳障りな声。

室内からの明かりが、鎧を照らす。黒かった。

仕込みとして、ずっとじっとしていた四人目の男。

夜の闇に溶け込むために、黒ずくめになっていた刺客。


そいつが、手にしていた剣を地面と水平に持ち上げる。

切っ先には俺の喉。

びびった。

足がもつれて、前のめりに転んだ。

身体を回転させて、あおむけになり、黒い騎士を視界になんとか入れる。


顔は見えねえ。


「ひゃっふー」


楽しそうに、やつは剣を振り上げた。もちろん、狙いは俺。


でも、腰が抜けちゃった♪


俺ってば、本当に不意打ちに弱いなあ。


さすがに、もうダメだな。チンピラのときとはわけが違う。


あー結局、死ぬのかー。


俺にできることは、せめて、最期まで目を開けておくことくらい。


死んだら、目は開いたままだし。


……笑えねえ状況だ。


ふう。


騎士の剣は振り下ろされた。


うへ、痛そう。


剣は俺に向か……いきなり脇腹に衝撃。


横に身体が吹っ飛ぶ。元いた場所に目をやる。


レネだった。


騎士の剣は、そのまま振り下ろされている。


つまり。剣はレネに向かっている。


レネは必死な顔だった。


ぼけかすな俺に対する怒りじゃない。


生きることに一生懸命な人間の表情。


その気持ちが俺を助け、自分を犠牲にしようとしている。


「ひゃっふー」


黒い刺客の剣がレネの背中を切り裂く。


白い服に、黒いしみが広がる。


分かってる。


あれは、血だ。


明かりがないから、黒いだけで、あれは血なんだ。


俺の間抜けさが導いたことだ。


「レネ、討ち取ったりぃー」

「馬鹿なことを言うなっ」


刺客が調子に乗っている隙に俺は立ち上がる。

一気に間合いを詰め、今度こそ掌底を叩きこんだ。


「ぐわばっ」


なんともザコくさい叫び声を上げながら、転がっていった。

こいつ、弱いから伏兵にさせられたな。


レネは?


うつぶせに倒れている。


「ちょっと汚いけど、がまんしてくれ」


俺は上着を脱いで、彼女の背中の傷口に当て、袖を巻いた。簡単な包帯にはなってくれるだろう。


「どうして身体を投げ出したんだ。狙いはお前なんだぞ」

「だからって人が死ぬのを見たくないの。特に原因が自分ならね」


あぶら汗をかきながら、顔を歪めている。色々、すまん。


「……悪いんだけど、少しだけ時間を稼いでくれる? 自分の魔法で傷口を塞ぐくらいはできそうだから」

「わかった!」


俺は、それは力を込めてうなずいた。

わずかでもレネが安心してくれたらいいんだが。


でも、どうすればいい?


がさがさっという草の音がした。顔を上げると、ドウガンが近づいている。やばい。


「め~」


後ろから声。


「ヤギ太郎! 来てくれたのか?」

「め~」

「レネを頼めるか?」

「め~」


きっと肯定だ。

肯定の返事でなければ、完全に詰む。

よって、これはOKのサイン。

つーことで、レネはヤギ太郎に任せることにして、俺は再びドウガンを見た。


「逃げても、追わないぞ」


ドウガンの声は、いやドウガンの存在は本当に不愉快だ。


胸の底が熱くなってきた。


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