非常に長く険しい序章 23
「こんなところにいたか、小僧。小細工しようとしても、無駄だぞ」
振り返ると、部屋の入り口にドウガンたち三人が立っていた。みんな、さっきまで抜いていた剣を鞘におさめている。お行儀よすぎやしないか?
で、俺のほうは武器がないので、ファイティングポーズ。
この三分さえ守りきれれば、俺の勝ちだ。
……。
……。
ちょっとした硬直状態。
……。
……。
対峙したまま、動きが止まる。
……。
……。
向こうも、作戦らしい作戦はないんだろうな。
……てことは、また力押しで来るのか? レネが負傷した今、俺一人で三人をさばくのか。
「ま、しょうがないか」肩の力を抜いて、笑った。
「余裕でうらやましいな」
俺は首を横に振った。
「別に余裕じゃないっすよ。でも、退けない理由ができたんでね。あなた方と同じく」
「勘違いしてもらっては困る。我々はレネ様を迎えに来ただけだ」
「けがをさせても?」
「話し合いで来ていただけないのなら、仕方がない。結果的には、全ての人が得をする選択だ」
あー、こいつら目がいっちゃってるよ。
神聖幻影騎士団金騎士ってのが、何なのかは分からないけど、どうにもおかしな集団みたいだな。自分たちの目的のためなら、外道な手段であろうとも正当化してるんだろう。
でも、この状況では悪くない。偏狭な人間は、他人の否定的な意見を我慢できないもんだ。うまく話し合いに持ち込んで、3分を消費してやろうじゃないか。
「ドウガン、あなたの考えは間違ってるよ」
「何がどう間違っている? ただの負け惜しみじゃないのか」
「いやいや、もっとシンプルな話だよ。こんなやり方じゃあ、どんな結果だろうと俺は得をしない。なぜなら、俺は過程を結果よりも重視するからだ。さあ、話に矛盾が生じたぞ、どうしてくるんだ?」
「それを負け惜しみというんだ。屁理屈でしか、己を貫けないと見える」
「負け惜しみだろうとなんだろうと、俺が得をしないことには変わらない。その始末、どうやってつけてくれるのか、教えて欲しいねえ」
「簡単だよ、お前が死ねばいい」
三人が一斉に襲いかかってきた。
狭い空間、しかも部屋の隅に追い詰めた俺を相手に、剣を使うような愚は行わなかった。
それが残念。
剣を抜いてくれれば、もう少し時間稼ぎができたのに。
俺は腕で頭部を守るようにし、身を固くした。
「おらっ!」
「てぇい!」
「くんのぉ!」
三人から同時に殴られる。
「金属の籠手で殴られると、やっぱり効くねー」
膝から崩れ落ちそうになるのに、どうにか気力で持ちこたえる。
やせ我慢も、長く続けば大したもんだ。
三人とも、息遣いが聞こえるほどそばにいる。
「でも、まだ始まったばかりだな!」
また、三か所に打撃を受けた。今度はきちんと分かった。右腕と左腹と太もも。気を失いたくなるほど、痛い。でも、まだ俺は立っている。それに。
「弱いものいじめみたいな、やり方じゃないか、騎士さんたちよお」
ドウガンたちをからかうことだって、できる。
「ぬかしてろ!」
ドウガンじゃないやつの声。
それから、攻撃。
今度は連続で。
腕のガードも破られて、顔や頭を殴られる。口の中が切れて、鉄の味がした。鼻にも違和感が。あちゃー鼻血出てるな、これ。目を開けてるつもりなのに、視界が徐々に狭まっていく。
俺、どんなボクサーだよ。
でも、大丈夫。
「俺、まだ立ってるから」
うまく声になってるかは、分からない。
でも、ここは退けない。
後ろの電子レンジが、唯一の希望。
あとどのくらい持ちこたえればいいのか、振り返って確認できない。
三分。
もっと短くしておけばよかったかな。
みぞおち。
「ぐうっ!!?」
これは、きつい……。思わず、片膝をついた。
「おっと、だいぶいいのを入れてしまったようだな」
ドウガンの声だ。俺は意地だけで、態勢を立て直した。すっかり狭くなった視界に、ドウガンを入れる。
「まだまだ、戦えるぞ!」
と叫んだつもりが、うまく声がでなかった。ひゅーひゅーと息切れしただけなのが、自分でも分かる。
「そこまでする理由が、俺には分からないな」
ドウガンの見下すような言葉。
「俺たち、ですよ。ドウガンさん」
お付きのどっちかの声。
「全くです、ドウガンさん」
反対側の声。
「ひゃっふー」
遠くに聞こえる伏兵の雄叫び。こいつ、懲りてねえな……。
くそっ。だんだん感覚がなくなってきた。
最近、気絶してばっかだな。
立ってるだけで精一杯。
でも、それも無理かもしれない。
ま、俺としては頑張ったほうかな。しょうがない。人間だもの。限界あるって。なあ。
「と、ど、め!」
俺の頭上から聞こえる。
もう俺の耳じゃあ、ドウガンなのか他の奴なのかは分からない。
声の方向から気づいた。
あー、俺、うつむいてんだ。今まで分かんなかったわ。
いや、膝をついてるみたい。
立ってるのも無理だったか。
ただ。
ただなあ。
あと一言。
あと一言だけでいいから、こいつらに文句を言ってやりたかったよ。
でも、言葉も思いつかない。
すまん、レネ。
俺、もう無理だわ。
あ、走馬灯も見えてきた。
幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会人。
常に中の下くらいの人生。
友達はいなくて、インドアなオタクライフな日々。
そしてちょっぴり武術と喧嘩。
うーん、我ながら思い出しがいのない人生だ。
今さら、昔読んだ漫画の泣き所がよみがえってきても、どうしようもないって。
ん?
でも、何か……いや、誰かいる。
ぼやーっと白く霧がかってる。
また「あの子」か。ここんとこ、ちょくちょく会うなあ。
けど、妄想でも会えるのはこれでラストかな。
最後に一応、言っておくか。
「好きだ」
霧が晴れ、姿がはっきりした。
俺、驚愕。
「ごめんなさい!」
レネだった。幼馴染のあの子じゃなくて、レネだった。おまけに、失恋。いやいや。
「お前に告白したんじゃねえよ!」
突然、意識が戻った。ツッコミの勢いのおかげが、再び立ち上がっていた。殴られすぎてバランスがよくなったのか、視界は悪いが見えないわけもなく、唇ははれているが喋れないわけじゃなくなっている。よし。
俺の突然の奇行にびびったのか、ドウガンたちは俺から距離を取っていた。
「私も告白をされた覚えはない。だが、気分はよくないな」
ドウガンが言った。
「ドウガン、鏡を見てみろ。お前に告白するのは、貧乏に悩んだ魚だけだ」
「人を魚顔と愚弄する気か!」
「事実だろ、ドウガン?」
「殺す! なぶり殺しにしてやる!」
ドウガンの下品な言葉に対し、俺が返事をする前に、背後から音がした。
チーン!
序章は毎日更新したかったのですが、明日は更新を休みます。
すみません。




