04 森のナポリタン
家に戻ると、いつも通り木の床が少し軋んだ。
「フォル、そこに座って待っててね」
キッチンの向かいにあるカウンター席にフォルを座らせると、足の長さが足りなくてぶらぶらと前後に揺らしていた。
私は棚から細めのパスタを取り出して、保管庫から紅斑豚のチョリソーと野菜をいくつか取り出した。使い慣れた鉄のフライパンを火にかけ、手早く支度に取りかかる。
「フォル、霧傘茸は食べられる?」
「うんっ、だいすき!!」
満面の笑みで何度も頷く姿に、くすりと笑ってしまう。
鍋でパスタを茹でている間に、熱したフライパンに紅斑牛のバターを落とす。この町には酪農や畜産をしている人もいて、いつも新鮮な材料を分けてもらうことができている。
刻んだ霧傘茸と白鈴玉葱、それから細かく切った紅斑豚のチョリソーを一緒にじゅうっと炒めた。
バターが弾ける音と香ばしい匂いに、フォルの鼻もぴくぴくと動いている。
そこに、ほんの少しだけ取っておいたトマトの煮詰めを加えてソースにする。
塩と胡椒で味を調え、ちょうど茹で上がったパスタを加えて、ソースを絡めながら焼く。
「よし、完成したよ。森のナポリタン!」
大きなお皿に盛りつけ、香草と削ったチーズをぱらりと散らせば、見た目にも美味しい。
「わぁ……きれい……! たべても、いい?」
「うん。熱いから気をつけてね。あっ! 手はだめだよ。このフォークを使うの。こうやって持って」
「……こう?」
フォルは小さな手でフォークを持つ。初めて掴んだのか、不思議そうにフォークを眺めている。
そのたどたどしい仕草もなんだかかわいらしく、微笑ましく思えてしまう。
何回かパスタに逃げられながら、フォルはナポリタンをぐるぐるとフォークに巻き付けることに成功した。大きめのその塊を、大きな口でパクリ。
「……っっ……!」
一瞬で瞳がぱあっと輝いた。次の瞬間、夢中になったようにフォークが止まらなくなる。はぐ、はぐ、はぐ。まるで音楽のリズムに乗っているみたいに、ナポリタンがどんどん減っていく。
「んん〜……しあわせ……おいしい、すっごく、おいしい……!」
口いっぱいにほおばりながら、とろけるような声で言ってくれる。その言葉が、私にとってはなによりのごちそうだった。
「そんなに喜んでもらえると、張り切っちゃうな」
「ユーナ、また、つくってくれる?」
「もちろん! ……でも、いつかね、お米を見つけられたら、ふわとろのオムライスも作ってあげたいな」
「おむらいす……?」
「うん。ふわふわの卵で包んだ、特別なごはん料理。きっと、フォルも気に入ると思うな」
「たべたい! たべたいっ!」
フォルは満面の笑みで体を乗り出し、私もつられて笑ってしまう。
「じゃあ、それまでに材料をがんばって探すね」
「ボクも探す!」
「ふふ、ありがとう」
「ユーナ。なぽりたんも、また作ってくれる?」
フォルは大きな瞳でキラキラと私を見上げている。
気に入ってくれたんだ。よかった、本当に。
私の料理が、誰かの『好き』になる。あの洋食屋で見てきた、父と母の背中の向こうにあった風景が、ふと重なる。
「うん、また作るよ。なんどでも」
私は心にじわじわと染み渡るような喜びを感じながら、微笑んで言った。
すると、顔を輝かせたフォルが、もぞもぞと何かを言おうとして――
「いま食べたい! まだある!?」
「あはは、もちろんあるよ。私も一緒に食べるね」
「やったーーーー!」
フォルの勢いに、私はつられて笑った。竜なのにどうしてお腹が空いて倒れていたのかとか、そもそもおしゃべり出来るのはなんでだろうとか、気になることはたくさんある。
確かにちょっと痩せている気もするし……。
(作った料理を食べてもらえるのってやっぱり嬉しいなあ)
それでも、今ははぐはぐと夢中でナポリタンを食べるフォルを見て救われたような気持ちがしている。ふふ、口の周りがソースで真っ赤だ。
次はお風呂で丸洗いして、膝の治療もしてあげようっと。
そしてできたら、フォルをもっとふくふくにしてあげたい!
そんなことを決意しながら、仔竜のフォルと私の最初の食卓は、静かで温かくて、とびきり優しい味がした。




