閑話 にじのすべりだい
*フォル視点
おっきいにじのすべりだいを、ボクはしゅーっとすべる。
かぜがつめたくて、ほっぺがぴりぴりするのに、からだはふわふわしてる。
したにつくと、くもみたいなところで、しずかなひかりがゆれていた。
つきのひかりみたいに、あおくて、ぎんいろで、きれい。
でも、どこか、こわいにおいもまざってる。
ボクは、あしもとをみて、びっくりした。
「……しっぽ?」
しっぽがある。
てにも、きらきらのうろこがついてる。
いま、りゅうになってるんだ。
そのとき、まえのほうで、おおきなかげがうごいた。
あおっぽいぎんいろのりゅうが、そこにいた。
やまよりおおきくて、そらみたいにきれいで、みてるだけで、なぜかないちゃいそうになる。
ちかづいてきたおっきなりゅうが、ゆっくりくびをさげてくる。
《……フォルグナ=エルド=リヴァルティア=ザイ=オルデュナ=カロス=ヴェル=グラ=アインフェルン》
それから、やさしくて、つよくて、まるいこえに、なまえをよばれた。
そのこえは、りゅうのからだのもっとおくから、ふわっとでてくるみたいだった。
あたまのなかに、まっすぐはいってくる。
《よくここに来ましたね》
ボクは、はっとした。
このこえ、しってる。
ずっとむかし。となりにあった。
「……おかあさん?」
いうと、あおいりゅうのめが、すこしだけやわらかくなる。
そのひとみのなかで、ひかりがゆれる。
おなじりゅうなのに、べつのすがたがみえるきがした。
ボクはしっぽをぎゅっとまるめて、すこしだけこわくなった。
でも、にげたくなかった。
もっとききたい。
もっとしりたい。
おかあさんのこえが、しずかにいう。
《フォルグナ。聖竜として、しっかり聖女を守るのですよ》
そのことばをきいたしゅんかん、くうきがぴんとした。
みみじゃなくて、こころが、びりっとする。
「せいじょ? だあれ?」
ボクがきくと、おかあさんはくびをすこしだけかしげた。
《あなたが眠っているあいだに、世界は少しずつ変わりました》
そのとき、いやなにおいがふっとつよくなる。
くろいにおい。
おいしくないにおい。
かなしいにおい。
おこってるにおい。
《結界は、まだあります。けれど、揺らいでいるの。だから、聖女が必要なのです》
ボクのからだは、かってにふるえた。こわいものなんてないのに。
せいじょって、とってもたいせつなもののようなきがする。
「ボクが、まもるの!」
そういうと、あおいりゅうが、ゆっくりうなずいた。
そして、おかあさんのこえが、もういちど、しずかにいう。
《聖女を守るのがあなたの役目ですよ、フォル》
そのことばが、ひかりみたいに、ボクのなかにはいってくる。
あったかくて、つよくて、ぜったいまもるってきもちになる。
ボクは、はっとして、おもいだす。
「ユーナ……」
ボクがいま、まもりたいとおもうもの。
ユーナのにおい。
ユーナのごはん。
ユーナのやさしいて。
ユーナがわらうと、あったかくなるんだ。
そのしゅんかん、にじのすべりだいが、またきらきらして、ボクをよんだ。
かぜがふいて、すべてがまわる。
からだがふわっとういて、すべりだいにのってしまう。
めをつぶる。
おかあさんのこえが、さいごにきこえた。
《頑張るのよ、フォルグナ》
むねのあたりがきゅっとなって、でも、なくのはがまんした。
ボクにも、おかあさんがいたみたい。またこうしてゆめであえる。
おかあさんにまたあいたいな。そのきもちとおなじくらい、ユーナにもあいたい。それで、クロードともまたあそぶんだ。
ぷかぷかとうかぶきもちになりながら、ボクはゆっくりとすべっていった。




