↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/40

16 雷嘴鳥のコンフィ

 翌日。私は食堂の厨房に立っていた。


 早朝からたくさん仕込んだ雷嘴鳥のコンフィは、大鍋ごと休ませてある。そのお皿に添えるための副菜、星芋のマッシュも準備済だ。


「ユーナ、かんばんだしていい?」

「ありがとう、フォル。助かるよ」


 今日もフォルは食堂のお手伝いだ。

 その後すぐに、ドアベルがチリンと揺れた。


 まず現れたのは、オンケルさんだ。

 相変わらず穏やかな顔をしているのに、今日は妙に足取りが軽い。


「おはよう、ユーナちゃん。噂を聞いてね」

「噂ですか?」


 私が首をかしげるより早く、続けて扉が開いた。

 ギルドの職員さんが数名、申し訳なさそうな顔で入ってくる。


「こんにちは、ユーナさん」

「昨日は、本当にご迷惑をおかけしました!」


 鑑定をしてくれた人も一緒だ。彼らの視線が、カウンターの向こうの厨房に向いている。

 雷嘴鳥のことを言っているのだろうとすぐに察しはついた。


「雷嘴鳥がまさか食べられるなんてねえ! これは来るしかないだろうと思ってね」


 オンケルさんが満足げに頷いた。


「はい。怖い魔鳥だって聞いてましたしねえ」

「綺麗な状態で納品されることもまずありませんし」

「そもそも、食べようって発想がなかった」

「どんな味なんでしょう? 痺れるんですかね?」


 ギルドの人たちも口々に言いながら、みんな席に座っていく。

 今日はいつもより、開店直後の店内が賑やかだ。


 雷嘴鳥はよっぽど珍しい食材らしい。

 私は手際よく皿を整え、焼き色をつけた雷嘴鳥を盛り、星芋のマッシュを添えて出した。

 湯気と一緒に香りが流れた瞬間、店内が少しだけ静かになる。


「こちら、雷嘴鳥のコンフィです」

「おお! おいしそうだ」


 最初にフォークを入れたのはオンケルさんだった。

 ひと口食べて、目を丸くする。


「おお。これはうまいなぁ……」


 その反応に釣られて、周りの人たちも一斉に口へ運ぶ。準備をしている間に他のお客さんも集まり始めて、もう満員になりそうだ。


「肉が硬いんじゃないかと思ったのに、すっとほぐれる」

「香りがいい。なんだこれ」

「鳥なのに、さっぱりしてるのに満足感がある」

「うますぎる……!」


 みんなの顔が次々にゆるんでいく。

 その様子が嬉しくて、私は厨房の奥で小さく息をついた。


「こんな食べ方があるんだな……」

「いや、雷嘴鳥ってうまいんだな。これは発見だ」

「精肉ギルドに話を通すべきでは?」

「ああそうだな。これはすぐに取り組まないと」

「狩猟ギルドにも通達しないとな」

「すぐやりましょう。狩り尽くす勢いで」

「これ、午後からの仕事がんばれそうだ」

「なんだか力がみなぎる気がするよ」


 笑い声が重なって、食堂がいつもより明るくなる。

 みんなの雷嘴鳥を見る目がすっかり変わってしまったようで、あの鳥が少しだけ可哀想になる。それでも、美味しいと言ってもらえることは素直に嬉しい。


「ボクがね、とったんだよ〜!」


 その端で、フォルが得意げに胸を張った。

 ふんす、と鼻を鳴らして、誇らしそうにしている。

 みんなは、フォルの頭を撫でたり、目尻を下げたりしながら、のんびりと笑った。


「おお〜そうかそうか、がんばったんだねえ」

「えらいえらい」

「お手伝いもできて偉いぞ、フォル坊」


 誰ひとり、本気では信じていない。

 幼い子の可愛い自慢話だと思っている顔だ。


 それでもフォルは満足そうに笑って、さらに胸を張った。


「ボクがみつけたら、またとるんだ〜! ユーナにおいしいごはんにしてもらうの」


 その姿に、私は思わず口元を押さえる。

 かわいくて、可笑しくて、なんだか温かい。

 カウンターの向こうで、フォルがまた元気よく「いらっしゃいませ!」と真似をしていた。


 それにお客さんたちが笑って、店の空気がさらに柔らかくなる。


「ユーナ。これはもう洗っていいのだろうか?」


 声のした方へ振り向くと、クロードさんがエプロン姿で流し台の前に立っていた。

 大きな手に収まっているのは、さっき下げたばかりの皿だ。


「はい、大丈夫です。お願いします」


 警備も兼ねて、食堂にいる間は手伝うと言ってくれて。

 クロードさんは迷わず裏方を選び、皿洗い担当になった。

 力加減が難しいらしく、昨日の練習ですでに皿が三枚犠牲になった。


 そのときの、困ったような顔を思い出して、私はまた笑いそうになる。


「大丈夫ですか? 力、入りすぎてません?」

「問題ない。今日は、まだ割っていない」


 低い声でそう言い切るのが、なんだか子どもみたいで。

 私は頷きながら、店内に目を向けた。

 食べ終えたお客さんたちは「また来るよ」と声をかけてくれて、椅子を引く音までどこか軽い。


 フォルはみんなに褒めてもらってご機嫌で、誇らしげに胸を張ったままだ。

 あたたかい料理の香りと、お客さんの笑い声に、お礼の言葉。


 お手伝いをしてくれるフォルやクロードさん。


「……なんだか、懐かしいな」


 ぽつりと零れた私の声は、忙しさに紛れるくらい小さかった。初めての一日なのに、そんな風に思うなんておかしいかもしれない。


 それでも。私はその輪の中に自分がいることを、嬉しいと思ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍のお知らせ】
“ alt=
■ 『ボロボロの仔竜に懐かれたので、おいしいごはんでふくふくにします!~ひとりぼっちな三人が本当の家族になるまで~①』
MFブックス様から書籍が発売されます!加筆ももりもり、レオンハルト視点の特別編も収録されています。
★★★他の連載作品もよかったら!!!★★★
『没落令嬢ミレイユの想定外な逆転婚 〜過保護すぎる侯爵様と始めるしあわせな溺愛生活〜』
・全て奪われた没落令嬢が幸せを掴むお話
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。