3.捜索(みえる)
『10分 立ち木のポーズ』
「…」
私は宿の部屋で、両手を合わせて上げ、片足で立っている。夜もだいぶ遅いので、窓の外に灯りはない。窓には、夜着を着た私の姿が映っている。
名残惜しそうな猫をご夫人に渡して、宿に戻ってゆっくりお風呂に入って、そろそろ寝ようかというころ。もちろん「それ」のせいだ。体幹を鍛えるための運動で、気を抜くとふらふらしてしまう。上げている足の位置が悪いらしい、「それ」による指導が入った。
「…!」
なにかを確認するように、ときどき私の体が少し押される。体がふらついて、バランスが崩れそうになる。どうやら、重心が安定しているかどうかを確かめているらしい。わっ。倒れそうになるのをなんとかこらえる。安定していないのだろう。「それ」の指摘をもとに、ガラス窓に映る、自分の姿を確認する。不審物を探されるのにちょっと似ている。
そういえば。仕事で他の街に行ったとき、違法なものを持っていないか、体をさわっての確認を要求されたことがあった。隠蔽を前提に、魔法で確認するのが定石なのに、それで大丈夫かなと思ったので印象に残っている。狭い部屋で待っていたのだけど、その職員さんは戻って来なくて、別の優しそうな職員さんに、事情を説明して通してもらったんだっけ。
「?…ま、まって!」
ガラスに私の姿が映ってる…ってどうしてカーテン開いてるの?閉めたはずなのに!そんなこと関係ないと言うように、「それ」が私の姿勢を正す。たしかに、ここは上の方の階だからのぞかれる心配はないけど、なんだか急に恥ずかしくなってきた。いけない。カウントが減らなくなってきた。平常心だ。
「…」
心を無にする。私は木だ。それ以上でも、それ以下でもない。ゆっくりと深く呼吸をする。完全な木になれば、誰の気にもとまらない。
…しばらくして解放された私は、急いでカーテンを閉めた。そっと頭をなでられる。「それ」なりにほめてるのだと思うけど、枕をぶつけてやりたい。




