11.商談(みえる)
『1分×5セット 掛かり稽古』
高級料亭のお弁当は、期待をはるかに超えるおいしさだった。いつか、食事に行ってみたい、もちろん仕事以外で。あんな変な空間で食べるなんて、料理がもったいない。
テーブルを片付けて、お茶を飲む。隣街の代表の人からの手紙には、要塞攻め協力への感謝と、訪れた際はぜひ頼ってほしい旨が書かれていた。とても丁寧で、心が温まる。お弁当もおいしかったし、また役にたてるようなことがあれば、協力しよう。
「…」
唐突に現れる木刀と防具。高等部で「それ」にやらされた、数多くの対人戦闘の1つ、異国の剣術のものだ…「それ」に協力するとは言ってないのだけど。いけない、「それ」がもう構えてる、慌てて立ち上がる。もうっ、準備すればいいんでしょ?防具があった方が、どう考えても安全だ。
ローブの上から垂の位置を調整して、垂紐をしっかりと結ぶ。胴も体にあてて、胴紐でずれないように固定。あれ、思ったより胸元がきつい。お菓子とお弁当が頭をよぎる…明日は体を動かそう。頭に手拭いを巻いて、面をつける。最後に小手をつけて木刀を握る。よし完成…あっ、また重り増やしたでしょ。身体強化にも限界はあるんだよ。
「!」
立ち上がったところを狙われた。もう掛かり稽古は始まっている。まずは私が守り側だ。「それ」の重い一撃で崩されて、胴に鈍い衝撃。やられた。すぐに切り替えて、「それ」の連撃をさばいていく。滑るように動かす足が、この剣術の基本であり奥義だ。
「…んっ…もうっ!」
攻守が切り替わる。まったく隙のない「それ」を、崩した上で一撃入れるのは至難の技だ。ひたすら、攻めを続ける。ときどき、あえて当てさせているのが分かる。つまり、打ち込み稽古だ。私は「それ」の手のひらの上にいる、くやしい。
「〜っ!」
カウントは少ないけど、ひたすら動き続けているから、私はかなり追い込まれている。「それ」はたぶん、疲れていない。それにしても、有効打=死という思想は常軌を逸している。異国はそれほどまでに、死が身近な存在だったのだろうか。
次は決める。「それ」の体全体を、広い視野で眺める。すべてが必殺だから、意図を読みとる技術はかなり鍛えられた。学園でも、帰り道に見知らぬ人に襲われて、遅れをとったことはない。それは、日常の訓練のおかげであって、つまりは「それ」との練習の成果だ。あと、私を襲うのって罰ゲームかなにかだったのかな?殺意は感じなかったんだよね。
うまく崩し、「それ」に渾身の一撃を叩き込む直前。カウントが0になる。突然消える「それ」と、私の木刀と防具。あと少しだったのに。どうやら、トレーニング器具と同様に、道具は「それ」の創造物だったようだ。
…翌日、部屋でなにかがぶつかるような音が聞こえたと、宿の支配人さんに心配された。大丈夫じゃないけど、大丈夫です。




