10.要塞-②(みえる)
『20km ランニング』
「わっ」
宿の部屋に戻ったとたん、「それ」が背中にへばりついてきた。流れるように足払い。お姫様を抱き上げるようにして、部屋の中央にある謎の装置に運搬される。そんなことされなくても、自分で歩くよ。
その場で「それ」が、私の状態を確認し、足を中心とした入念な準備運動を指示する。単なるストレッチ…ならどれだけ良いか。今日は、ずいぶん魔力を使った。ちょっと、想定以上に。特に最後は、カウンターで潰すのが最善だった。メンバーの自信になればと、よくばった。
「…」
装置が起動して、足元の床がゆっくりと動きはじめる。魔力の動きから、なんらかの誓約が成されたのを感じる。もう、止まることは許されない。うしろから「それ」が私の肩を叩いて激励する。分かってる。心の準備をさせて。
「ふっ、ふっ、はっ、はっ」
ゆっくりと走りだす。床が私の走る速さに追従する。初めては、中等部の頃。クラスのみんなを救いたかった。そのときは、途中で気を失ったから、よく覚えていない。起きたときなぜか、血の跡があった気がする。
「ふー、はっ、はっ」
5km。手首に指をあてて、心拍数を確認する。多少息苦しいけど、状態としては想定の範囲内だ。私の体は、長距離を走る準備をある程度整えたらしい。しばらくは、大丈夫だけど。走りきれるかどうかは正直なところ分からない。怖い。
「んく、ふー、ふー、はっ」
10km。「それ」の給水を受けとり、少し飲んで残りは頭からかける。折り返しだ。2回目は、高等部の頃。力を過信するメンバーを、なんとか守りきった。そのときは、苦しいのに足を止めることは許されず、残り数kmの距離が永遠に続くようだった。後半で急に楽になったように感じるのは、一時的なものだということを、私は体で理解した。
「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ」
15km。必死で走り続ける。足を動かすたびに、私の体がにぶい痛みを伝える。息が苦しい。汗が体を流れおちる。止まって休みたい気持ちが、私の頭を埋め尽くす。でも、意思に反して、私の体は最後まで走り続けようとする。
「くっ…」
残り1km。足元の床の動きが早まる。ラストスパートをかけろということだ。できるはずだと、「それ」が断言する。背筋を伸ばし、前を向く。私を応援するように、装置が輝く。
「ふぅっ、ふぅっ」
ゴールは見えている。とにかく足を動かす。
「はぁっ、はぁっ」
足だけではだめ、しっかりと腕をふる。
「ぐっ…はぁはぁ」
少し床に遅れた、なんとか立てなおす。
「ふぅっはぁっふぅっはぁっ」
カウントは残りわずかだ、力を振り絞る!
カウントが0になって装置が消え、私は床に崩れ落ちた。死ぬかと思ったけど、生きてる。すぐさま「それ」が私に大きめのタオルをかけ、呼吸を助けてくれるものであろう道具を私にあてがった。少し呼吸が楽になる。ほっとしたせいか、眠くなってきた。「それ」があとの処理をやってくれるらしい。ごめん、私、寝ちゃうね。




