8.観劇
「これから僕は、おぞましい存在になる。きっと嫌われるだろう…それでも!僕は貴女を救いたい。永遠に、守り続けるっ!」
…私は街の演劇場に来ている。劇を見に来たのではなく、劇場の警備だ。非常に人気のある演目で、えらい人も来てるらしい。
訳あって、警備隊の詰め所に行った際に、頼まれた仕事だ。街の地下組織から犯行予告があり、対処に困っていたらしい。たしかに、治癒の魔法があれば、けが人がでてもすぐ対応できる。ついでに、迷子になったことは、秘密にしといてあげると言われた。違うって言ってるのに。
さて、劇もそろそろ佳境だ。魔法による演出もあって、かなりの迫力。演者も、相当な練習と思いを、積み重ねてきたのだろう。悪魔の反撃を受け、勇者の顔が苦しげに歪む。私もあてられたのか、なんだか心臓が締めつけられる…おかしい!
周りを見ると、同じように苦しげな表情。劇での魔法行使に紛れ込ませた、巧妙な呪いの魔法だ。術者も巻きこんで、範囲を広げる生贄型。演劇を止めるのは簡単だけど、苦しい中でそれでも続ける、演者の覚悟を尊重したい。隠しごとなら、私だって負けない。
勇者の鬼気迫る攻撃に合わせて、広域治癒の魔法の光が劇場内を包む。悪魔の邪悪な魔法、の演出。いったん魔法を消して様子を見る。勇者は押し返す動き。私も広域防護の魔法で呪いの魔力を押し返す。もう大丈夫。私がなにかしたことを察して、そっと他の警備員が動く。呪いの逆流で崩れおちた数名は、演出酔いということにしたらしい。
劇は無事終演した。姫の口づけで奇跡が起こるのは、物語の中ではよくあるけど、私にはまねできる気がしない。きっと物語の姫は、勇者よりも研鑽を積んでるのだろう。




