(八)崩れかける
◆ 九 崩れかける
八重結びは、成立しかけていた。
だからこそ、危険だった。
同期率を上げるほど、安定する。
同時に、失敗時の伝播範囲も広がる。
白鳥の声が速くなる。
「同期率、危険域に接近」
「隙間枝圧、上昇」
「外縁観測、負荷増大」
透は、担当枝から目を離さない。
「まだいけます」
白鳥が言う。
「いけるかどうかではありません」
透は言葉を飲んだ。
白鳥は続ける。
「帰れるかどうかです」
透は、地下道を見る。
足跡。
手。
声。
処理残滓。
そして、術式そのものの残り。
全部は持てない。
持ってはいけない。
透は、言葉を選んだ。
「全部は持てません」
「でも、自分の一本なら」
「約束できます」
白鳥は即座に入力する。
「三枝さんの作業範囲を限定」
「固定前偏向枝のみ継続」
「他枝への干渉は禁止」
黒瀬が低く言う。
「それでいい」
鷹宮が、静かに告げる。
「作戦続行の責任は元請けが持つ」
「撤退判断の責任も、元請けが持つ」
「だから現場は、帰ることだけ考えろ」
美緒は、その言葉を記録する。
篠宮は、外側から循環の異常を見張る。
土御門が低く告げる。
「今、観測を深くするな」
「見たいものほど、今は見るな」
北辰院が答える。
「観測側、深度維持」
「余計なものは見ない」
雪代が言う。
「希薄側、外縁を薄めます」
「濃くなったところだけ、削ります」
風祭も声を出す。
「偏向側、逆流を受ける」
「三枝、隙間は頼む」
透は返事をした。
「はい」
八重士たちが、それぞれの席で踏みとどまる。
一人で万能にならない。
一人で背負わない。
一人で消えない。
八重結びは、そこで踏みとどまる。
※第8話「八重結び」は全十二回です。
続きます。
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