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八重結び  作者: KEI
第8話 八重結び

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(六)第四段階:処理残滓

◆ 七 第四段階:処理残滓


そして最後に、過去の処理そのものが現れた。


消したい。

忘れたい。

書けない。

言えない。

誰のせいだ。

お前のせいだ。

俺のせいだ。

怨霊が悪い。

行政が悪い。

業者が悪い。

元請が悪い。

記録しなくちゃ。

消さなくちゃ。

開示すべきだ。

隠さなきゃ。

終わった。

終わらない。


それは、怨霊というより、結ばれないまま絡まった処理だった。


八十年前の災害。


豪雨。

停電。

閉じ込められた人々。

救助を試みた行政、退魔士、現場責任者。

悪化する状況。

火災。

閉められた防火扉。

取り残された人々。

取り残すことを決めざるを得なかった人々。


そこに、退魔士の術式が残っていた。


怨霊でもない。

瓦礫でもない。

人の恐怖でもない。


八十年前の禁呪が、前提条件に入れていなかったもの。


術式そのものの残滓。


土御門が低く言った。


「これじゃ」


「八十年前の術式には、これを流す場所がなかった」


白鳥がログを見る。


「怨霊、瓦礫、人の恐怖には作用した」


「ですが、術式そのものの反発は設計対象外だった」


篠宮が言う。


「だから残った」


黒瀬は地下道の奥を見る。


「八十年、現場に絡まったままか」


土御門は頷く。


「万能だったからこそ、抜けた」


「何にでも届く術は、自分が残したものを見落とす」


一人でほどくには、多すぎる。

一人で受けるには、重すぎる。


だから分ける。

だから結ぶ。


白鳥は、式守の役割表を表示した。


恨み・妬み。

偏向。

直撃させず、流れをずらす。


悲しみ・苦しみ。

希薄。

濃くなりすぎた残滓を薄める。


後悔・懺悔。

同調。

浅く合わせて、終わっていない感情を読む。


責任の押し付け。

固定。

誰が何をしたか、記録の座標を固定する。


混線した声。

観測。

意味ではなく現象として切り分ける。


散った核。

凝縮。

封印可能な形に一時的にまとめる。


枝崩れ。

隙間枝。

接続間の圧を逃がし、他席へ破綻を渡さない。


最終座標。

本固定。

封印座標へ最後に留める。


恨みは、流す。

留めたり返したりしてはいけない。


悲しみは、薄める。

それしかやりようがない。


後悔は、観測で切り捨ててはいけない。

同調で浅く聞く。

これがもっとも、お互いの負担が少ない。


責任は、固定する。

反らすのも、薄めるのも、集めるのもやってはならない。


声は、観測する。

意味ではなく、現象に切り分ける。


核は、封じられる形まで濃くする。


枝崩れは、逃がす。

ただし、別の誰かへ押しつけてはいけない。


最終座標は、留める。

終わったことにするためではなく、これ以上広がらせないために。


一人で万能になるのではない。

それぞれが、約束できるものだけを持つ。


そのための八重結びだった。


八十年前の禁呪は、怨霊、瓦礫、人の恐怖に対して万能であろうとした。

だが八重結びは、それだけではない。


周りの人間たちは、術式を流すことに万能だった。


白鳥が同期を監視する。

美緒が名前と記録を残す。

篠宮が外側から現場を見張る。

つづりが逃げ道を保つ。

黒瀬が退避線を持つ。

鷹宮が責任を持つ。

土御門が禁忌の線を見る。

透が、自分の一本の隙間枝を細く保つ。


八十年前の禁呪には、それがなかった。


術式を流す仕組みがなかった。


それが、禁呪との最大の差だった。



※第8話「八重結び」は全十二回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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