(四)第二段階:手
◆ 五 第二段階:手
次に、手が現れた。
瓦礫の隙間から伸びる手。
水の底から浮かぶ手。
暗闇の向こうから、誰かを掴もうとする手。
それは、誰かを助けようとしていた。
だから強かった。
誰かを助けようとして、誰かを掴む手。
滑ることと放すことを恐れ、力いっぱいに握ってくる手。
救いのために出した手は、悪意のための手よりも強い。
白鳥が言う。
「接触反応、増加」
「同調深度が上がっています」
土御門が低く告げる。
「深く聞くな」
「それは善意の形をしておるが、引き込む力じゃ」
八重士の同調担当が、浅く周期を読む。
偏向担当が、掴む力の直撃をそらす。
希薄担当が、濃くなりすぎた残滓を薄める。
それでも、手は強い。
ひとつの手が、八重士の一人に伸びる。
固定柱の前に、反発が溜まりかける。
透の担当する偏向枝が、そこに触れる。
掴まれた者ごと引き込まれる。
その直前の、圧。
透は、喉の奥を固くする。
「横に抜きます」
白鳥が確認する。
「固定前偏向枝、圧上昇」
篠宮が言う。
「三枝さんの担当枝です」
透は偏向を入れる。
掴む力を、本人から外す。
ただし、手そのものを壊さない。
助けようとした手を、敵として叩き潰してはいけない。
けれど、その手に引かれて誰かが消えてもいけない。
透は歯を食いしばる。
「重っ……」
黒瀬が短く言う。
「背負うな」
透は息を整えた。
「背負ってないです」
「詰まってるところを、抜いてるだけです」
「なら、それだけやれ」
「はい」
手は、封印路へ逸れていく。
掴もうとした手は、誰も掴めないまま、処理の流れへ移る。
手の形をした善意は、そこでようやく、誰かを連れていくことをやめた。
※第8話「八重結び」は全十二回です。
続きます。
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