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八重結び  作者: KEI
第8話 八重結び

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(四)第二段階:手

◆ 五 第二段階:手


次に、手が現れた。


瓦礫の隙間から伸びる手。

水の底から浮かぶ手。

暗闇の向こうから、誰かを掴もうとする手。


それは、誰かを助けようとしていた。


だから強かった。


誰かを助けようとして、誰かを掴む手。

滑ることと放すことを恐れ、力いっぱいに握ってくる手。


救いのために出した手は、悪意のための手よりも強い。


白鳥が言う。


「接触反応、増加」


「同調深度が上がっています」


土御門が低く告げる。


「深く聞くな」


「それは善意の形をしておるが、引き込む力じゃ」


八重士の同調担当が、浅く周期を読む。

偏向担当が、掴む力の直撃をそらす。

希薄担当が、濃くなりすぎた残滓を薄める。


それでも、手は強い。


ひとつの手が、八重士の一人に伸びる。


固定柱の前に、反発が溜まりかける。


透の担当する偏向枝が、そこに触れる。


掴まれた者ごと引き込まれる。

その直前の、圧。


透は、喉の奥を固くする。


「横に抜きます」


白鳥が確認する。


「固定前偏向枝、圧上昇」


篠宮が言う。


「三枝さんの担当枝です」


透は偏向を入れる。


掴む力を、本人から外す。

ただし、手そのものを壊さない。


助けようとした手を、敵として叩き潰してはいけない。

けれど、その手に引かれて誰かが消えてもいけない。


透は歯を食いしばる。


「重っ……」


黒瀬が短く言う。


「背負うな」


透は息を整えた。


「背負ってないです」


「詰まってるところを、抜いてるだけです」


「なら、それだけやれ」


「はい」


手は、封印路へ逸れていく。


掴もうとした手は、誰も掴めないまま、処理の流れへ移る。


手の形をした善意は、そこでようやく、誰かを連れていくことをやめた。



※第8話「八重結び」は全十二回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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