(十)形にはなる
◆ 十二 作戦を案件にする
白鳥は条件を更新する。
美緒は人を動かす。
鷹宮は元請け印を押す。
黒瀬は現場の線を引く。
篠宮は安全手順を詰める。
土御門は禁忌の線を見張る。
つづりは術具を揃える。
白鳥が言う。
「同期率を上げるほど、安定します」
「同時に、失敗時の伝播範囲も広がります」
篠宮が画面を見ながら言う。
「つまり、結びすぎても駄目」
土御門が続ける。
「結ばなければ、そもそも届かん」
黒瀬が短く言う。
「面倒だな」
白鳥は頷く。
「はい」
「面倒だから、手順にします」
美緒が言う。
「手順にしたものを、書類にします」
透は、積み上がっていく条件を見ていた。
「なんか、現場に出る前からすごいことになってますね」
黒瀬は当然のように言う。
「現場に出る前に決まることの方が多い」
美緒も続ける。
「現場で頑張れば何とかなる、という作戦が一番危ないです」
白鳥は頷いた。
「同意します」
篠宮が少しだけ白鳥を見る。
「あなたがそれを言うようになったんですね」
白鳥は一拍置いて答える。
「学習しました」
その言葉に、誰も笑わなかった。
笑えるほど軽くはない。
それでも、前とは違う。
白鳥は面倒を削らない。
美緒は善意を手続きにする。
鷹宮は責任を契約にする。
黒瀬は現場で止める線を引く。
篠宮は危険を言葉にする。
土御門は禁忌の境目を見張る。
つづりは安全装置を道具として揃える。
透は、それを見ていた。
誰か一人が強ければいい話ではない。
誰か一人が正しければいい話でもない。
席がある。
条件がある。
そこに座ってはいけない人もいる。
そして、空けてはいけない席もある。
◆ 十三 形にはなる
返事が揃っていく。
行ける。
条件付きで行ける。
代替拠点の人員が見つかった。
術具の納期が出た。
行政承認が仮で下りた。
保険適用の範囲が整理された。
作戦責任者が明記された。
署名確認の様式が作られた。
停止判断の権限が記録された。
隙間担当の候補が絞られた。
報告書の雑な候補者が外された。
個人プレイ傾向の強い候補者が外された。
外縁観測の担当候補が仮置きされた。
合コンセッティング希望は、地域間交流会として補足事項に移された。
こちらは男六名参加予定【添付ファイル】という追伸も、削除されずに残された。
八重結びが、作戦として形を持ち始める。
ただし、それは希望だけではない。
一つ空席を埋めるたびに、どこか別の場所に空白ができる。
誰かを呼ぶたびに、その人が守っていた地域が薄くなる。
柱を立てるたびに、柱と柱の間には隙間ができる。
隙間を抜く者を置けば、その者がいた場所にもまた空席ができる。
だから、呼んだ全員に帰ってきてもらわなければならない。
美緒は最後の一件を見て、手を止めた。
「……これで、形にはなります」
黒瀬が聞く。
「勝てるか」
白鳥は答える。
「分かりません」
透が言う。
「でも、やるんですよね」
黒瀬は短く答えた。
「やる」
白鳥も言う。
「やります」
美緒は画面を見たまま言った。
「やらないと、全部の書類が無駄になります」
透は思わず聞き返す。
「理由そこですか」
「いいえ」
美緒は、少しだけ間を置いた。
それから、静かに言う。
「人を集めた以上、帰ってきてもらわないと困ります」
透は、もう一度、空席表を見る。
柱。
隙間。
外縁。
代替拠点。
誰かが座らなければいけない席。
誰かが座ってはいけない席。
誰かが戻ってこなければ、二度と埋まらない席。
八重結びは、まだ完成していない。
けれど、形にはなった。
第7話 空席の条件 了
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