(九)補足事項
◆ 十一 返事が届く
各地へ打診が出された。
元請け印つきの正式な依頼。
作戦概要。
責任範囲。
保険適用。
代替拠点の調整案。
術具手配。
署名確認様式。
停止判断権限。
帰還確認の手順。
返事は、少しずつ届き始める。
行ける。
条件付きで行ける。
代替要員を寄越せ。
行政承認が必要。
術具が足りない。
保険適用を確認しろ。
作戦責任者を明記しろ。
家族への説明が必要。
どれも、面倒だった。
そして、面倒であること自体が、まともな返事だった。
美緒は一件ずつ分類していく。
白鳥は条件へ戻す。
鷹宮は元請け側へ回す。
つづりは術具数を増やす。
黒瀬は現場線を引き直す。
その中に、ひとつだけ毛色の違う返信が混じっていた。
美緒の手が止まる。
透が横から画面を覗き込む。
「……これ、間違いメールですか?」
本文には、短くこう書かれていた。
> 合コンセッティングを希望。
美緒は眉間を押さえた。
「間違いではありません」
黒瀬が言う。
「作戦条件か、それ」
「本人はそのつもりです」
白鳥が真顔で聞く。
「八重結びの成立条件に、合コンが含まれるのですか」
美緒は即答した。
「含めません」
「では除外します」
「除外もしません。別項目に移します」
透が聞く。
「別項目?」
美緒は返信文を読み直した。
「この方の地域は、若手退魔士の定着率が低いんです」
「八重士本人も、後継者候補も、仕事以外で他地域とつながる機会がほとんどない」
「だから、本人はふざけて書いていますが、根っこは地域間交流と後継者不足です」
黒瀬が短く言う。
「つまり」
美緒は淡々とまとめる。
「業務上は、地域間交流会の調整要望として処理します」
透が小さく復唱する。
「合コンが?」
「地域間交流会です」
白鳥は式守へ入力しかける。
「式守に追加します。地域間交流会」
美緒が止める。
「式守には追加しないでください」
白鳥が顔を上げる。
「なぜですか」
「術式条件ではないからです」
「しかし、人員確保条件には影響します」
美緒は少しだけ黙った。
それから言う。
「……補足事項に入れてください」
黒瀬が言う。
「補足事項、読まれるようになってよかったな」
美緒は黒瀬を見ない。
「今その話はしないでください」
さらに、同じ相手から追伸が届く。
> こちらは男六名参加予定【添付ファイル】
透が画面を見て固まる。
「添付まであるんですけど」
美緒は即座に言った。
「開かないでください」
「開かない方がいいやつですか」
「今は開かなくていいやつです」
白鳥が聞く。
「添付ファイルも補足事項ですか」
美緒は少しだけ長く黙った。
「……補足事項です」
黒瀬が低く笑う。
「補足事項、便利だな」
「便利にしないでください」
それは一見ふざけた返信だった。
だが美緒は、削除しなかった。
ふざけた文面の下に、地域の孤立と後継者不足がある。
そういう補足事項を無視してきた結果が、今だったからだ。
※第7話「空席の条件」は全十回です。
続きます。
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