(七)責任を契約にする
◆ 九 責任を契約にする
鷹宮亮介が、元請けとして動いた。
彼は、白鳥と美緒が作った条件表を見て、しばらく黙っていた。
そして言った。
「元請けは責任を引き受ける」
声は静かだった。
だが、曖昧に聞き流せる声ではなかった。
「ただし、責任を引き受けるというのは、現場に好きにやらせて後で頭を下げることじゃない」
「誰が、何を、どこまで引き受けるかを先に決めることだ」
「だから契約にする」
「これを現場の善意で回すな」
「責任を曖昧にした瞬間、また同じことが起きる」
美緒がすぐに言う。
「その言葉、議事録に残します」
鷹宮は頷いた。
「残してくれ」
善意で助ける。
現場判断で動く。
それは間違いではない。
だが、誰が責任を取るのか分からないまま人を動かせば、次の怪異が生まれる。
白鳥が端末へ入力する。
「責任範囲を安全条件に含めます」
鷹宮は短く言う。
「助かる」
篠宮が少し戸惑ったように聞いた。
「術式安全条件に、契約責任を入れるんですか」
白鳥は頷く。
「はい」
「責任が不明な作戦は、停止判断が遅れます」
美緒が即座に言う。
「正解です」
黒瀬は鷹宮を見る。
「ずいぶん管理側の顔になったな」
鷹宮は少しだけ苦く笑う。
「現場側の顔で止められなかったものを、管理側の顔で止めることもある」
黒瀬は黙った。
それ以上、二人は踏み込まない。
そこへ、宮守つづりが呼ばれた。
白鳥が術具リストを見せる。
つづりは、最初の数行で顔をしかめた。
「八重士八人分」
「隙間担当分」
「外縁観測分」
「観測札、固定杭、署名札、停止札、予備札」
「しかも全員の癖に合わせて調整」
つづりは注文票を見たまま、口元だけで笑った。
「私、今どういう顔してると思う?」
透が少し考える。
「商売人の顔ですかね?」
つづりは注文票を軽く振った。
「地獄の在庫計算をしてる職人の顔」
白鳥がすぐに聞く。
「納期は」
つづりは白鳥を見る。
「言い方が怖い」
美緒も続ける。
「納期は」
「事務の人も怖い」
美緒は資料をめくる。
「現場入り前に署名札が必要です」
「術後確認用も別で」
「予備も」
つづりは、ため息をつく。
「予備って簡単に言うけどね」
「札は増やせば増やすほど、保管、運搬、使用順、廃棄記録が増えるんだよ」
白鳥が言う。
「必要です」
つづりは頷いた。
「分かってる」
「こういう時に売らない道具屋は、道具屋じゃないからね」
つづりは注文票を見て、もう一度だけ口元を上げる。
「ただし、安くはないよ」
美緒は即答した。
「見積書をください」
つづりが少し驚く。
「最初にそこ?」
「最初にそこです」
そのあと、つづりは美緒たちの配置案を覗き込んだ。
「百個の椅子に九十二人で座るやつ、意味不明すぎてウミガメスープっぽいね」
透が言う。
「ゲームだったら攻略法ありそうって言ったら、黒瀬さんに怒られました」
つづりは頷く。
「まあ、ゲームならね」
「でも現実だと、椅子に座れなかった場所から怪異が出るんでしょ?」
美緒は短く答えた。
「そうです」
つづりは顔をしかめる。
「やっぱり嫌なウミガメスープだ」
※第7話「空席の条件」は全十回です。
続きます。
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