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八重結び  作者: KEI
第7話 空席の条件

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(六)帰還確認

◆ 八 白鳥と美緒の噛み合い


白鳥は条件を出す。

美緒は実現可能性で返す。


「主観測の柱には、対象変化を読み直せる八重士が必要です」


白鳥が言うと、美緒はすぐに候補を出した。


「候補は二名」


「一名は確定拠点から動かせません」


「もう一名は移動可能ですが、行政承認が必要です」


白鳥は次の条件へ進む。


「境界固定の柱」


「候補三名」


美緒は答える。


「ただし一人は保険上の高リスク案件に指定されています」


白鳥は顔を上げた。


「なぜですか」


「前回の現場で報告書の提出が三週間遅れています」


白鳥は少しだけ眉を動かす。


「術式適性とは無関係です」


美緒は、はっきり言った。


「無関係ではありません」


「作戦後に帰ってきたことを証明できない人は、今回呼べません」


白鳥が止まる。


そして、ゆっくり頷いた。


「……正しいです」


美緒は続ける。


「術者が帰ってきたことを、誰が、いつ、何で確認するか」


「それが記録されないなら、作戦は終わりません」


白鳥は式守へ項目を追加していく。


「帰還確認」


「担当者署名」


「術後本人確認」


「作戦終了条件」


美緒は少しだけ息を吐いた。


「ようやく事務の話になってきました」


黒瀬が言う。


「術式の話より怖く聞こえるぞ」


次に、白鳥は隙間担当候補を表示する。


「固定前の偏向隙間担当」


美緒は候補者の経歴を見る。


「この方は偏向適性があります」


白鳥が頷く。


「では候補に」


「外します」


白鳥が止まる。


「理由は」


「過去三件、報告書の記載が荒いです」


「特に、補助術式の使用量が毎回“状況に応じて調整”になっています」


透が小さく聞く。


「それ、駄目なんですか」


美緒は透を見る。


「普段なら、腕のある人の書き方です」


「でも今回は駄目です」


白鳥が続ける。


「隙間担当は、どれだけ薄く抜いたかを記録できる必要があります」


「はい」


美緒は頷く。


「自分の感覚で増減する人は、今回は危険です」


黒瀬が腕を組む。


「強いやつほど外れることもあるのか」


白鳥は答える。


「あります」


「柱でない役が柱になろうとすると、循環が崩れます」


別の候補者が表示される。


篠宮が言った。


「この候補は現場対応力が高いです」


美緒は即座に返す。


「外します」


篠宮が少し驚く。


「なぜですか」


「現場判断で単独処理に切り替えた記録が多すぎます」


黒瀬が低く言う。


「腕はいい」


美緒は頷く。


「知っています」


「だから余計に危ないです」


「隙間担当は、主役になってはいけない役です」


白鳥は入力する。


「補助線の主線化」


「式守に追加します」


土御門が注意する。


「名前を付けると、使いたがる者が出るぞ」


白鳥は少しだけ考える。


「内部分類に留めます」


美緒は、さらに候補者リストを見ていく。


一人ずつ、条件に当てはめる。


術式が強い。

だが報告が荒い。


現場判断が速い。

だが持ち場を離れやすい。


補助が上手い。

だが記録が遅い。


書類は丁寧。

だが術式の抜きが太い。


適性があることと、座らせてよいことは違う。


美緒は、候補者名を消していく。


透はそれを見ながら、少しだけ怖くなった。


強ければ呼ばれるわけではない。

上手ければ任されるわけでもない。


今回必要なのは、その席に座っていい人だった。



※第7話「空席の条件」は全十回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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