(五)現実側の最悪
◆ 七 美緒、現実側の最悪を見る
白鳥が術式条件を出す。
美緒が人員条件を見る。
美緒は画面を確認して、短く言った。
「最悪です」
黒瀬が聞く。
「できないとは言わないんだな」
美緒は視線を上げない。
「無理とは言い切れないギリギリのラインだから、たちが悪いんです」
八重士は、全国に二十人ほどしかいない。
しかも彼らは、各地域の確定拠点を守る切り札である。
自由には動かせない。
美緒は、八重士の一覧と管轄拠点を並べていた。
「八人集めるだけなら、まだ表が作れます」
「問題は、その八人が普段どこを守っているかです」
「一人呼べば、一か所空きます」
「八人呼べば、八か所空きます」
「その穴を埋めるために、さらに人を動かす必要があります」
黒瀬が言う。
「椅子取りゲームか」
美緒は即座に返す。
「椅子取りゲームなら、椅子じゃなくて余るのは人です」
黒瀬は少しだけ苦く笑う。
「そうだな」
「今回余っているのは、椅子の方です」
美緒は画面を切り替えた。
「しかも、百個の椅子に対して九十二人で埋めるゲームになっています」
透が少しだけ口を挟む。
「ゲームだったら攻略法ありそうですけど」
黒瀬が即座に言う。
「これはゲームじゃない」
白鳥が整理する。
「つまり、八重士の招集ではなく、防衛網の再配置」
美緒は頷く。
「そうです」
「術式より先に、全国の穴を塞ぐ必要があります」
白鳥が言う。
「面倒です」
美緒は返す。
「知っています」
「手順にします」
「書類にします」
黒瀬は二人を見る。
「二人とも怖いな」
美緒は全国の八重士と、その周辺人員のリストを開く。
名前を見れば、だいたい顔が浮かぶ。
顔が浮かばなくても、書類は浮かぶ。
全国津々浦々、とまでは言わない。
だが、要所要所に、美緒が処理した案件の関係者がいた。
保険が下りかけた案件。
行政承認が止まりかけた案件。
契約範囲外にされかけた救助。
報告書の不備で事故扱いになりかけた処理。
古い帳簿から証明書類を掘り起こした夜。
美緒本人は、借りを作ったつもりはない。
ただ、助かった側は覚えている。
黒瀬が言う。
「ずいぶん知り合いが多いな」
美緒はすぐに否定した。
「知り合いではありません」
「処理した案件の関係者です」
「それを世間では知り合いと言うんだ」
「言いません」
白鳥が端末を見ながら言う。
「人脈として扱います」
美緒は少しだけ顔をしかめた。
「扱わないでください」
「しかし、有効です」
「有効なのが嫌なんです」
※第7話「空席の条件」は全十回です。
続きます。
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