(四)中和と隙間は違う
◆ 五 中和と隙間は違う
透は少し考え込んでいた。
そして、手を挙げるほどではない声で聞いた。
「それって、対立系統で中和するのとは違うんですか」
白鳥は即答する。
「違います」
「中和は、各柱の対角に対立する柱を置きます」
「この対角配置の目的が、相殺安定化です」
「強くなりすぎた系統を、輪の反対側に置いた柱で受ける」
「観測に対して同調」
「固定に対して偏向」
「希薄に対して凝縮」
「これは、柱同士で負荷を受ける処理です」
篠宮が補足する。
「中和は押さえる」
「枝は詰まらせない」
「似ていますが、役割が違います」
白鳥は頷いた。
「隙間担当は、相殺する役ではありません」
「主接続を弱めず、反発や侵食だけを細く逃がす役です」
黒瀬が言う。
「強いやつを置けばいいわけじゃないな」
「はい」
白鳥は、候補者リストの条件欄を開く。
「必要なのは出力ではありません」
「薄く、細く、正確に抜けることです」
美緒が静かに言った。
「報告書が雑な人は外します」
透が思わず聞く。
「術式適性じゃなくて、報告書ですか」
美緒は即答する。
「はい」
「隙間担当は、自分の判断で大きく動く人には任せられません」
「どこを、どれだけ、いつ抜いたか」
「それを残せない人は、作戦上いないのと同じです」
白鳥は別の条件を追加する。
「個人プレイ傾向のある候補者も除外します」
黒瀬が聞く。
「術式が上手くてもか」
「はい」
白鳥は迷わない。
「隙間を抜く役が、自分で柱になろうとすると輪が壊れます」
土御門が言う。
「補助線が主線化すれば、枝崩れじゃ」
美緒は、端末へ視線を落としたまま言う。
「人員配置で言えば、持ち場を離れるということです」
「今回、それは事故です」
透はその言葉を聞きながら、少しだけ胸が詰まる。
主役になってはいけない役。
その言い方は、意外と重かった。
◆ 六 透も枝候補
隙間担当候補の話が続く。
美緒は候補者リストを見ていたが、ふと透を見た。
「透くんも枝候補です」
透は目を丸くする。
「え? 報告書とか全然ダメですよ?」
美緒は即答した。
「報告書はダメです」
「ダメですか」
「しかし、書き型がダメであって、書き方はまじめです」
透は眉を寄せる。
「音だけだと識別できないの来た」
美緒は真顔で続けた。
「私が一番、透くんの報告書を見ているのでよく知っています」
透は少しだけ胸を張る。
「さすが」
「添削箇所も、読む前に分かります」
「報告書も前に染みてる」
篠宮が、少し考えてから口を開いた。
「私も比較的、三枝さんの報告書を見ている方ですが」
「大体同感です」
透は篠宮を見る。
「篠宮さんまで」
美緒はリストへ視線を戻す。
「報告書としては直すところが多いです」
「でも、誤魔化そうとしている文章ではありません」
「分からなかったところを、分からないまま書いている」
「それは今回、かなり重要です」
白鳥も条件欄を見る。
「隙間担当は、補助操作を太くしないことが重要です」
「三枝さんは、出力制御に不安があります」
透は自分でうなずいた。
「あります」
「しかし、分からないものを分かったように処理する傾向は低い」
「褒められてるんですか」
「評価しています」
透は少し肩を落とす。
「褒められてはいない」
黒瀬が言う。
「柱じゃなく、枝か」
透は少しだけ黙った。
「ちょっと複雑です」
黒瀬は短く答える。
「複雑なくらいでちょうどいい」
「主役になりたいやつに、隙間は任せられない」
透は、すぐには言い返せなかった。
足りない。
その言葉が、少しだけ別の形に見えた気がした。
足りないから、柱になれない。
そう考えるのは簡単だった。
でも、柱ではないから通せるものがある。
そう考えるには、まだ少し時間がかかる。
答えではない。
けれど、前とは違う引っかかりだった。
※第7話「空席の条件」は全十回です。
続きます。
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