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八重結び  作者: KEI
第7話 空席の条件

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(三)柱と隙間

◆ 三 柱と隙間


白鳥は八重結びの仮構成を表示した。


八人の八重士が、主接続の柱になる。


だが、柱だけでは結べない。


「八重士八人は、柱です」


白鳥は、八つの点を強調する。


「ですが、柱だけでは結べません」


「柱と柱の間に、隙間ができます」


透が聞く。


「隙間?」


「はい」


「放置すれば漏れます」


「塞げば詰まります」


透は眉を寄せる。


「どっちも駄目じゃないですか」


「はい」


白鳥は淡々と答えた。


「なので、抜きます」


「抜く?」


篠宮が、そこで透を見る。


「三枝さん」


「はい」


「商業施設契約外怪異対応を覚えていますか」


透は身構えた。


「また怒られるやつですか」


「今回は違います」


篠宮は画面の継ぎ目を見たまま言う。


「あなたは固定の直前に、偏向の逃げ道を残しました」


「正式な偏向接続ではありません」


「けれど、その逃げ道が固定を安定させた可能性があります」


透は頷く。


「枝の話ですよね」


「はい」


篠宮の声は、いつもより少しだけ柔らかい。


「八重結びの隙間は、それに近い」


「ただし、今回は一人の中で起きる枝ではありません」


「人と人の間に作る枝です」


透は、すぐには返せなかった。


「人と人の間……」


土御門が引き取る。


「本来、枝は術者の中に生える」


「得意と苦手の間、接続と接続の間、止めたはずの術の跡にな」


「じゃが、八重結びではそれを外に出す」


「柱となる八重士が主接続を持つ」


「その間を、別の者が細く抜く」


「薄い偏向」


「浅い同調」


「弱い凝縮」


「そういう接続未満の逃げ道を、外から通す」


透は、言葉を探す。


「枝を、他の人がやる……?」


土御門は少しだけ顔をしかめた。


「言葉にすれば、そうなる」


「ただし、雑に言うほど危ない」


白鳥は、循環方向を表示する。


「循環方向に対して、柱の前に置く隙間担当が重要です」


透が聞き返す。


「前?」


「はい」


白鳥は、固定の柱の手前を示す。


「たとえば固定の柱」


「固定担当の八重士がそのまま強く留めれば、反発が隣へ跳ねます」


「反発を塞げば、固定担当に戻ります」


「放置すれば、外縁へ漏れます」


「そこで、固定の柱の前に、薄い偏向を通します」


「逃げ道だけを作り、流し切らない」


「すると、固定は反発を抱え込まずに済みます」


篠宮が言う。


「三枝さんの枝と同じ構造ですね」


「固定の下に、偏向の逃げ道が残った」


「固定しているのに、反発だけ横に抜けた」


透は、商業施設の搬入口を思い出す。


台車。

清掃員。

跳ねた車輪。

固定。

強すぎる固定。

なのに、崩れなかった固定。


透は小さく言った。


「硬いのに、息ができる」


篠宮は頷く。


「はい」


「今回はそれを、術式全体で作ります」


つづりが、ぼそりと言った。


「細い糸を通す役に、縄持ってくる人を置いちゃ駄目ってことね」


白鳥は少し考えてから頷く。


「近いです」


つづりは少し驚いた顔をする。


「近いんだ」


◆ 四 対立系事前枝


白鳥は、瀬良式説明群の記録を参照した。


瀬良本人はいない。


透は周囲を見回して聞いた。


「瀬良さんに聞けば早いんじゃないですか」


黒瀬が即答する。


「寝てる」


「寝てるんですか」


美緒が真顔で言う。


「寝かせてください」


「あの年齢で八接続模擬実験の後です」


白鳥も続ける。


「起こす合理的理由はありません」


土御門が低く言う。


「起こしたらうるさいだけじゃ」


透は何も言えなくなった。


白鳥は記録を表示する。


「瀬良式説明群の記録を参照します」


「枝のパターンは、瀬良さんが説明した以上に存在が確認されました」


「現状では、すべてを解析できていません」


「対立系統だけでなく、別系統、同系統と思われる反応もあります」


透が聞く。


「同系統もあるんですか」


「あります」


白鳥は観測二連のログを示す。


「観測二連が成立する以上、同系統が重なることで別の働きをする可能性は否定できません」


土御門が頷く。


「本人が入れたと分からんものを、綺麗に分類し切る方が無茶じゃ」


白鳥は、それも否定しない。


「はい」


「そのため、今回採用するのは枝の定義ではありません」


篠宮が聞く。


「定義ではない?」


「今回、隙間に採用するパターンです」


白鳥は商業施設契約外怪異対応のログを重ねる。


「目的の接続の前に、対立系統の枝を入れるパターンです」


「確認できた枝では、このパターンが最も多いです」


「最も多いということは、現時点で最も安全、かつ再現性が高い可能性があります」


黒瀬がすぐに言う。


「多いから安全とは限らないだろ」


白鳥は頷く。


「はい」


「そのため、推測です」


「ただし、現時点で優先検討する価値はあります」


白鳥は、商業施設契約外怪異対応のログを拡大する。


「このパターンは、三枝さんが商業施設契約外怪異対応で出したものと同系です」


「目的接続の前に、対立系統の枝を入れる」


「仮称」


「対立系事前枝」


透が少し目を輝かせた。


「なにそれ、すごくかっこいい」


白鳥は続ける。


「瀬良式説明群内識別名称」


「体重計ジャンプ枝」


透の表情が一瞬で変わる。


「なにそれ、すごくかっこ悪い」


つづりが横から言う。


「何気に語呂近い」


白鳥は真顔で答える。


「同一現象を指しています」


透は少しだけ納得できない顔をした。


「名前で印象変わりすぎでは」


白鳥は画面を八重結び構成へ戻す。


「今回の八重結びでは、八つの隙間すべてに対立系事前枝を採用します」


篠宮が確認する。


「全てですか」


「はい」


「未知の枝パターンを混ぜると、循環型接続の評価ができません」


「今回は、最頻パターンに統一します」


土御門が言う。


「未知を減らすための統一か」


白鳥は頷く。


「はい」


「安全を保証するためではありません」


「危険を比較可能にするためです」



※第7話「空席の条件」は全十回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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