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八重結び  作者: KEI
第6.5話 瀬良式説明群

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(六)データは取れた

◆ 八 透の学び


実験が止まり、場の緊張が少しだけ緩んだ。


透は、ようやく息を吐いた。


八接続の成功率十パーセントよりも、五接続と六接続の静けさの方が、なぜか頭に残っていた。


透は、瀬良のログをもう一度見る。


接続五。

接続六。


そこだけが静かだった。


できる、ではない。


帰ってこられる。


その差だった。


透は、自分のログを思い出す。


商業施設契約外怪異対応。

固定前の微弱偏向。

高出力の固定。

早すぎる偏向。


あれは助かった。

人も救えた。

枝だとも言われた。


けれど、自分はあの時、何が起きたのか分かっていなかった。


分からないまま通った。

分からないまま助かった。

分からないまま、結果だけが残った。


透は、ぽつりと言う。


「……俺、あれをもう一回やれって言われても、無理です」


誰もすぐには答えなかった。


透は続ける。


「できるかもしれないとは思います」


「でも、帰ってこられるって約束はできない」


瀬良が、少しだけ目を細める。


「そこが分かるなら、まだ大丈夫だ」


透は顔を上げる。


「大丈夫なんですか」


「できた気になってるやつよりはな」


透は、今度は学校案件を思い出す。


旧視聴覚室。

噂の流れ。

黒瀬の大枠。

日野原の指示。

美緒の整理。

篠宮の術具配置。


あの時、五接続は通った。


でも、あの場を自分一人で作ったわけではない。


透は、少しだけ唇を噛む。


足りない。


そう思った。


けれど、その言葉は、なぜかぴったり来なかった。


足りない。

だから、足せばいい。


本当に、それだけなのか。


透は、そこから先を考えられない。


考えようとすると、どこか変なところへ行きそうになる。


だから、いったん戻る。


透は、黙って札を取った。


「俺、四接続をちゃんとやります」


篠宮が少しだけ眉を上げる。


「今さらですか」


「今さらです」


篠宮は、少しだけ表情を緩めた。


「それでいいと思います」


透は言う。


「五接続を捨てるって意味じゃないです」


「分かっています」


「四接続で帰ってこられるようにします」


「それができないと、五接続もたぶん嘘になる」


篠宮は頷いた。


「はい」


「その理解は正しいです」


透はうなずく。


答えは出ていない。


ただ、足りないから足す。

届かないから伸ばす。


それだけではない何かが、ほんの少しだけ引っかかっていた。


黒瀬は、その様子を見て何も言わなかった。


美緒も、記録に残さなかった。


ただ、透が四接続の札を手に取ったことだけを、次の訓練予定へ入れた。


◆ 九 データは取れた


実験後、白鳥は瀬良に頭を下げた。


「ありがとうございます」


「枝の一部は記録できました」


瀬良は椅子に深く座ったまま、白鳥を見る。


「なら、勝てるのか」


白鳥は即答した。


「いいえ」


瀬良は顔をしかめる。


「おい」


「この形では、危険度は許容値まで下がりません」


瀬良は少し黙った。


「……だろうな」


白鳥は続ける。


「でも、データは取れました」


「データで禁呪が軽くなるかよ」


「軽くはなりません」


「だろうな」


「ただ、どこが重いかは分かりました」


瀬良は、少しだけ白鳥を見る目を変えた。


「……それで?」


「持ち帰ります」


「逃げるのか」


「いいえ」


白鳥は、式守の端末に手を置いた。


「式守に戻します」


瀬良は小さく笑う。


「機械に戻して軽くなるかよ」


「軽くはなりません」


白鳥の声は、そこで少しだけ強くなる。


「ですが、重い場所を間違えずに見ることはできます」


「それを皆に共有します」


瀬良はしばらく白鳥を見る。


白鳥は、絶望していなかった。


勝てるとは言わない。

安全になったとも言わない。

禁呪が軽くなったとも言わない。


それでも、白鳥は前を向いていた。


分からなかった危険が、分かる危険になった。


なら、次に必要なのは、分かった危険を誤魔化さないことだった。


瀬良は呟く。


「嫌な希望の持ち方するな」


白鳥は答える。


「褒め言葉として処理します」


「褒めてねぇよ」


土御門が横から言う。


「褒めておる」


瀬良はため息をついた。


「お前らの褒め方、全員信用ならん」


その横で、透はまだ瀬良の六接続ログを見ていた。


静かに帰ってきた術式。


自分一人では届かなかったはずの五接続。


足りない。


その言葉だけが残る。


けれど、その言葉だけでは、少しだけ足りなかった。


透はログを閉じる。


答えは、まだない。


ただ、次に戻る場所は決まっている。


四接続。


自分が帰ってこられると言える範囲。


そこから、もう一度始める。


白鳥は式守へ最後の入力を行う。


> 瀬良式説明群。

> 枝。

> 枝崩れ。

> 観測二連。

> 術者別安全配置傾向。

> 約束できる範囲。

> 記録継続。


画面の中で、項目が増える。


それは勝利ではない。


けれど、絶望の形を、少しだけ正確に見るための光だった。


第6.5話 瀬良式説明群 了


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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