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八重結び  作者: KEI
第6話 六十四接続

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(十四)六十四接続

◆ 十五 六十四接続


瀬良の証言と、これまでの現場記録が式守へ入力された。


商業施設契約外怪異対応。

集合住宅での式守試験運用。

署名不備。

本人確認遅延。

未使用札の遅延反応。

現場違和感。

名痩せ。

接続として数えられない微細な補助操作。


式守は、これまで外乱や保留として扱っていたものを、改めて評価項目へ戻した。


ただ、入力項目が増えたことだけが、ここでは分かる。


白鳥は、禁呪由来術式を再解析した。


長い沈黙があった。


そして、式守が出力する。


主接続、六十四。

枝、八。

合計要素、七十二。


透は画面を見て、言葉を失った。


「六十四……」


篠宮が、低く言う。


「人間が扱う術式ではありません」


土御門がすぐに否定した。


「違う」


篠宮が見る。


土御門は画面から目を離さない。


「扱う前に、持つ器が壊れる」


式守が出したのは、禁呪の短縮案ではなかった。


禁呪を安全に使えるようにした完成品でもない。


既存術式の中に埋もれていた安全と危険を、見える形に分解したものだった。


白鳥は、表示された構成を見ながら言う。


「安全化禁呪、と呼ぶのが近いです」


土御門は顔をしかめる。


「安全と禁呪を並べるな」


白鳥は表情を変えない。


「並びます」


「安全評価をかけた結果なので」


そして、すぐに続ける。


「ただし、安全になったわけではありません」


全員の視線が白鳥へ向く。


白鳥は、画面を見たまま言った。


「危険が消えた術式ではなく、危険の残り方が見えるようになった術式です」


透は画面の数字を見ていた。


「接続六十四は確かにすさまじいけど」


少しだけ眉を寄せる。


「枝が思ったよりも少なくない?」


土御門がすぐに反応する。


「接続六十四ならば、枝は少なくともそれの半数、三十二ほどある方が自然だな」


白鳥は頷く。


「はい」


透は白鳥を見る。


「はい?」


「枝が八しかない、という意味ではありません」


土御門が聞く。


「ならば、この枝八とは何だ」


「式守が枝として残したものです」


透が聞き返す。


「残した?」


白鳥は、式守の解析図を切り替える。


「本来なら枝として扱われていた微細操作の多くは、主接続側に分解されています」


「つまり、これまで術者の癖、作法、手順の余白として処理されていたものを、式守は独立した工程として数え直しました」


つづりが、そこで小さく声を漏らす。


「……あー、なるほどね」


白鳥は続ける。


「接続六十四という数字は、単純に禁呪を大きくした数字ではありません」


「隠れていた補助操作、逃げ道、同期、反発処理を、主工程として見える場所へ引き上げた結果です」


土御門が問う。


「では、枝八は」


「それでも主工程に編入できなかったものです」


白鳥の声は慎重だった。


「一つの接続の前後だけでは説明できず、複数の接続にまたがって影響している可能性があります」


「さらに、瀬良さんのデータだけでは性質を断定できません」


「そのため、主接続として確定せず、枝として監視対象に残しました」


透は、ようやく少し理解した。


「じゃあ、枝が少ないんじゃなくて」


「はい」


白鳥は頷く。


「枝の多くは、もう枝ではなくなっています」


「残った八つは、まだ枝としてしか扱えないものです」


土御門は、しばらく画面を見ていた。


「見えなかった枝を、幹にしたか」


「それでも幹にできんものが、八つ残った」


つづりは腕を組む。


「職人の手癖を工程表にして、それでも説明つかない手癖が残った感じ?」


白鳥が頷く。


「近いです」


つづりは顔をしかめる。


「うわ、気持ち悪いね」


黒瀬が低く言う。


「気持ち悪いまま見える場所に置いたなら、前よりはましだ」


そして続けた。


「短い術式が安全なんじゃない」


「安全を省いてるから短いこともある」


白鳥はうなずく。


「式守は安全を追加したのではありません」


「既存術式の中に埋もれていた安全と危険を、見える形に分解しました」


画面上の数字は変わらない。


主接続、六十四。

枝、八。

合計要素、七十二。


それは解決策というより、現実の形だった。


白鳥は、最後に言う。


「ただし、危険度はまだ許容値まで下がっていません」


空気が沈む。


見えた。


だからこそ、分かった。


このままでは扱えない。


◆ 十六 届かない形


六十四接続は、このままでは扱えない。


人間の安全限界は、八接続。


それは、退魔士の世界ではほとんど常識だった。


篠宮は画面を見たまま言う。


「六十四接続……人間が扱う術式ではありません」


土御門が返す。


「扱う、という言葉がもう軽い」


「これは、持つだけで削れる類のものじゃ」


白鳥は式守の出力を確認する。


「現行の式守出力では、運用条件を満たせません」


黒瀬が言う。


「じゃあ、まだ使えない」


白鳥は頷く。


「はい」


「使えません」


その声に、悔しさはあった。


だが、無理に押し切る危うさはなかった。


透は画面を見る。


主接続、六十四。

枝、八。

合計要素、七十二。


分解はできた。

危険の位置も見えた。

どこに安全が埋もれていたのかも、少しだけ分かった。


だが、それはまだ、誰かが使える形ではなかった。


見えた。


だからこそ、分かった。


このままでは届かない。


透は、画面を見つめたまま、言葉を飲み込む。


この形では無理。

人間には持てない。

使えない。


その言葉だけが、部屋の中に沈んでいく。


第6話 六十四接続 了


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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