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八重結び  作者: KEI
第6話 六十四接続

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(十一)枝

◆ 十二 枝


中和の説明が一区切りついたあと、瀬良は指を一本立てた。


「で、ここからは別の話だ」


透が聞く。


「別?」


「枝だ」


透は聞き返す。


「枝?」


瀬良は頷く。


「さっきの中和は、対立系統をひとつ足す話だ」


「枝は、接続として数えない隙間の話だ」


白鳥が端末を操作する。


「式守上も、枝は未定義です」


「微弱反応、外乱、補助操作、術者癖のいずれにも分類しきれていません」


瀬良は笑う。


「雑に言うぞ」


「なんかスッと入って、ボーンってなるやつだ」


透がすぐに言う。


「雑すぎません?」


「雑に言うって言っただろ」


白鳥が真顔で繰り返す。


「スッと入って、ボーン」


少し間を置く。


「記録不能です」


瀬良は頷く。


「だろうな」


「じゃあ、もうちょい言う」


瀬良は手を動かしながら説明する。


「中和じゃねぇ」


「押し上げる感じだ」


「固定に偏向を噛ませたら、普通は相殺される」


「留める力と流す力だからな」


「でも、ごくたまに、相殺じゃなくて噛み合う」


白鳥の目が動く。


瀬良は続けた。


「固定が強くなるのに、反発が逃げる」


「希薄が強くなるのに、術者側に来る負荷が散る」


「観測が細かくなるのに、見すぎて壊れない」


「そういう、変な噛み合い方をすることがある」


白鳥が入力する。


「対立系統の相殺ではなく、補助方向への干渉」


瀬良は頷く。


「たぶんそれ」


そこで、篠宮が反応した。


「……待ってください」


瀬良が見る。


「あ?」


「固定に偏向を噛ませる、と言いましたね」


「言ったな」


篠宮は透を見る。


「三枝さん」


透は身構える。


「商業施設契約外怪異対応を覚えていますか」


「あ、これ怒られるやつ?」


「めずらしく怒られるところではありません」


「めずらしく?」


「今はそこも重要ではありません」


白鳥が端末を操作する。


「件名、商業施設契約外怪異対応」


「当該ログを再表示します」


画面に、商業施設契約外怪異対応のログが出る。


> 件名。商業施設契約外怪異対応。

> 接続二直前。

> 微弱偏向反応を検出。

> 主術式寄与、不明。

> 外乱ノイズ候補。


篠宮は透を見る。


「あなたはあの時、接続二の固定の直前に、偏向へ逃げそうになったと言っていました」


透は頷く。


「はい。癖で」


「でも、実際には偏向を接続していない」


「してない……はずです」


白鳥が補足する。


「ログ上も、正式な偏向接続は確認されていません」


透は少し安心する。


「ですよね」


それから、自分の手を見る。


「あの時、偏向しようとしたわけじゃないんです」


「逃げそうにはなりました」


「固定が苦手で、いつもの癖で、流したくなった」


「でも、篠宮さんに言われた一拍を思い出して」


「流すな、まず留めろって」


「だから、偏向は止めたんです」


透は言葉を探す。


「止めたはずなんですけど」


「でも、完全に消えた感じじゃなかった」


篠宮が黙って聞いている。


「偏向を入れたんじゃなくて」


「固定の下に、偏向の逃げ道だけ残ったみたいな」


「固定してるのに、反発だけ横に抜けていく感じがあった」


瀬良が、そこで初めて目を細めた。


透は続ける。


「普段の固定は、押さえ込む感じなんです」


「苦手だから、力を入れるとすぐ跳ね返ってくる」


「でもあの時は、跳ね返りが来なかった」


「強く留めてるのに、詰まらない」


「硬いのに、息ができる」


美緒が聞き返す。


「硬いのに、息ができる?」


透は困ったように笑う。


「変な言い方ですけど、そんな感じです」


白鳥が記録する。


「固定出力上昇」


「反発低減」


「正式偏向接続なし」


「術者主観として、固定下層に逃げ道の残存感」


瀬良が言う。


「長ぇ」


白鳥は即答する。


「必要な記録です」


瀬良は透を見た。


「まあ、今のはかなり枝だな」


透が聞き返す。


「かなり枝?」


「かなり枝」


「正式名称みたいに言わないでください」


瀬良は肩をすくめる。


「接続したわけじゃねぇ」


「発動したわけでもねぇ」


「でも、術式の通り道だけ残ってる」


「本人は止めたつもりなのに、止めた跡が仕事してる」


瀬良は指で軽く空中を弾いた。


「それが枝だ」


白鳥が言う。


「先ほどの“スッと入って、ボーン”の具体例ですか」


「そうだ」


「今ので“説明精度”ってやつが爆上げだろ」


土御門が呟く。


「“説明精度”の意味を知っているやつの使い方ではない」


瀬良はまったく気にしない。


「上がっただろ」


白鳥は頷く。


「上がりました」


土御門は不服そうに言う。


「上がったことと、言葉の使い方が正しいことは別じゃ」


透は、自分の手を見たまま言った。


「でも、ちょっと分かりました」


瀬良が笑う。


「ほらな」


土御門は短く言った。


「ほらな、ではない」



※第6話「六十四接続」は全十四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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