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八重結び  作者: KEI
第6話 六十四接続

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(十)毒と基礎

◆ 十一 毒と基礎


少しの間のあと、瀬良は話を続けた。


「術式は原則的に毒だ」


透は思わず聞き返した。


「毒?」


「そうだ」


瀬良は雑に言い切る。


「人間の身体と、そこにくっついてるものに、存在確率だの霊圧だの因果だのを流し込むんだぞ」


「身体にいいわけねぇだろ」


白鳥が言う。


「術式負荷を毒性として扱う、という比喩ですか」


「比喩で済ませたいなら比喩でいい」


瀬良は続ける。


「で、毒だから基礎がある」


「毎日ちょっとずつ毒飲んでると、そのうち慣れるあれだな」


美緒が即座に言う。


「それ、たぶん健康に悪い例えです」


瀬良は笑う。


「だから退魔士はだいたい健康に悪い」


「まあ俺は酒でも中和してんだけどよぉ」


土御門がすぐに否定した。


「しておらん」


「気分の問題だ」


「それを中和とは言わん」


「細けぇな」


白鳥が遮る。


「続けてください」


瀬良は少しだけ白鳥を見て、続けた。


「慣れるってのにも限度がある」


「接続ってのは、数が一つ増えるたびに、同じ幅で難しくなるわけじゃねぇ」


「足し算じゃなくて、掛け算で増える」


白鳥が端末を見ながら補足する。


「難易度の上昇は、ほぼ指数関数的です」


瀬良は白鳥を見る。


「それそれ」


「そういう嫌な増え方だ」


「三から四、四から五は、まあ分かる」


「難しいが、まだ積み上げの延長に見える」


「でも、五を超えたあたりから急に跳ね上がる」


透が聞く。


「急に?」


「急にだ」


瀬良は指を折るのをやめた。


「難しくなれば、当然、使い手は減る」


「使い手が減れば、実績も減る」


「実績が少ねぇ術式は、事故が起きやすい」


「事故が起きれば、ますます使うやつが減る」


「そうやって、まともな経験が残らなくなる」


白鳥が端末に入力する。


「高接続術式における実績不足と事故率上昇」


瀬良は白鳥を見る。


「長ぇが、まあそうだ」


篠宮が静かに言う。


「だから、八接続が安全限界として扱われている」


「今はな」


瀬良はすぐに返した。


篠宮が顔を上げる。


「今は?」


「どこからが禁呪かなんて、実はよく分からん」


場の空気が少しだけ変わる。


「昔は、境目がもっと手前だったかもしれねぇ」


「六で禁呪扱いされた時代もあったかもしれねぇし、七で禁忌に突っ込んだ奴もいたかもしれねぇ」


「ただ、残った記録が少ねぇ」


「少ねぇ記録ほど、綺麗な顔をして残る」


土御門が低く言う。


「事故った記録ほど、失われる」


瀬良は頷いた。


「そういうことだ」


「だから、八接続だから禁呪じゃない、とも言い切れねぇ」


「八を超えたら全部禁呪、とも言い切れねぇ」


「八接続くらいになると、身体が慣れてようが、名前が慣れてようが、普通に持っていかれる」


場の空気が、少しだけ重くなる。


「そこで、対立系統をひとつ足して中和する、という考え方もある」


「観測に同調を接続する」


「固定に偏向を接続する」


「希薄に凝縮を接続する」


瀬良は、指を二本重ねるように動かした。


「単純に、もう一つ術を噛ませる話だ」


「見る力に、合わせる力を添える」


「留める力に、流す力を添える」


「薄める力に、集める力を添える」


「ただ、大体は相殺される」


「よくて、小さく安定化する程度だな」


「まあ、小さく安定化ってのも地味に名人芸だけどな」


「若手でできりゃ、エース級って言われる部類だ」


透がつい反応した。


「確かに、バランスの調整が激ムズです」


瀬良は透を見る。


「よお、自称エースくん」


「自称してないです」


「顔がしてた」


「顔で?」


「顔で」


篠宮が言う。


「三枝さん、調子に乗らない」


「乗ってないです。顔も」


一度、場が軽くなった。


軽くなることで、次の話を聞ける空気になった。



※第6話「六十四接続」は全十四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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