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八重結び  作者: KEI
第6話 六十四接続

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(八)初歩の意味

◆ 九 初歩の意味


瀬良は、少し雑に笑った。


「だから、もしも禁呪まがいを使おうとするやつがいると思ったら」


その笑い方に、軽さはない。


「全員の署名を確認しろ」


美緒が顔を上げる。


「署名を」


「画数が足りない、にじんでいる、かすれている奴は全員はずせ」


瀬良は言う。


「そいつらは供物になりかけてると思った方がいいぜ」


透の顔が強張る。


供物。


その言葉は、少しだけ遠いものに聞こえて、同時に自分の足元まで来ている。


瀬良は、わざと空気をずらすように笑った。


「まあ、たまたま字ぃ汚ぇやつかもしれねぇ」


「と言っても、退魔士は初歩修行で散々字ぃ書かされるから、汚ぇやつなんていねぇんだけどな」


その言葉に、白鳥が止まった。


「……初歩」


透も反応する。


以前、黒瀬にやらされた札写し。

現場入り確認票の署名。

読める字。

同じ手順。

同じ幅。


あれは、現場に入れていいかを見る門だった。


白鳥は画面を見ずに言う。


「不要と判断していた初歩は、予兆判定のための事前条件……?」


瀬良は顔をしかめる。


「長ぇ」


白鳥は言い換える。


「初歩修行は、術式出力のためではなく、筆跡と名前の安定性を揃える訓練だった可能性があります」


瀬良はもっと顔をしかめる。


「もっと長ぇ」


白鳥は少し黙ってから、もう一度言う。


「字を揃える訓練だった、ということです」


瀬良は腕を組む。


「短くはなったが、まだ硬ぇ」


白鳥は黙った。


美緒は、そのやり取りを聞きながら、以前の基礎訓練を思い出していた。


署名が読めるか。

疲れても確認を省かないか。

当たり前を当たり前に残せるか。


あの時は、事務的で地味な確認に見えた。


今は違う。


初歩修行は、強くなるためだけのものではない。


崩れた時に、崩れたと分かるための基準線だった。


白鳥は、式守の評価項目に新しい注記を加える。


> 初歩修行歴。

> 筆跡安定性。

> 現場入りの署名変動幅。

> 禁呪使用時の除外条件候補。


ただし、まだ断定はしない。


候補でしかない。


それでも、ゼロではないものがまた増えた。



※第6話「六十四接続」は全十四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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