(六)瀬良義景
◆ 七 瀬良義景
白鳥は、禁呪由来の術式について追加資料を求めた。
「禁呪由来の術式について、追加資料はありますか」
土御門はすぐには答えなかった。
明らかに、答えたくない顔をしている。
「あるにはある」
白鳥は身を乗り出す。
「提示してください」
「わしの手元には、使える形では残っとらん」
「では、誰が持っていますか」
土御門は、あからさまに嫌そうな顔をした。
「……瀬良じゃな」
透が聞き返す。
「瀬良さん?」
篠宮が反応する。
「元八重士の瀬良義景ですか」
「元八重士、というだけなら他にもおる」
土御門は、しぶしぶ言う。
「じゃが、禁呪、失伝術式、記録から抜け落ちた退魔士の痕跡を、あそこまで漁っとる奴はそうおらん」
白鳥が言う。
「文献調査者として有用、ということですね」
土御門は顔をしかめる。
「言い方は癪じゃが、そうじゃ」
黒瀬が聞く。
「苦手なのか」
土御門は即座に答えた。
「苦手ではない」
少し間が空いた。
「話が合わんだけじゃ」
黒瀬が言う。
「それを苦手と言うんだ」
土御門は答えない。
土御門清胤は、瀬良義景を評価していた。
評価していたが、会いたくはなかった。
瀬良は感覚で話す。
土御門は理屈で組む。
どちらも古い術式を扱うが、見ている入口が違う。
しかも厄介なことに、相性が悪いと思っているのは、おそらく土御門だけだった。
隠居した元八重士、瀬良義景のもとを訪ねると、第一声からそれは明らかだった。
「おう、清胤。生きてたか」
土御門の顔が固まる。
「勝手に殺すな」
瀬良は悪びれない。
「いや、連絡寄越さねぇからよ。死んだか、拗ねたか、どっちかだと思ってた」
「どちらでもない」
「じゃあ拗ねてた方か」
「話をしに来たんじゃ」
「話してんじゃねぇか」
土御門がわずかに苛立つ。
瀬良はまったく悪気がない。
透は小声で黒瀬に聞く。
「あの二人、仲悪いんですか」
黒瀬は瀬良と土御門を見る。
「土御門さんはそう思ってる」
「瀬良さんは?」
「たぶん何も思ってない」
白鳥が本題に入る。
「禁呪に関する資料を確認したいのですが」
瀬良は、雑に手を振った。
「資料なら半分は嘘だぞ」
白鳥の手が止まる。
「嘘?」
「書いた奴が嘘ついた場合もあるし」
瀬良は軽い口調で続ける。
「書いた奴が消えた場合もある」
美緒が反応した。
瀬良はそれを見て、少しだけ目を細める。
「禁呪まわりの記録は、欠けてること自体が情報なんだよ」
白鳥が言う。
「欠損もデータとして扱うべき、ということですか」
「そういう堅い言い方するなら、そうだな」
土御門が低く言う。
「だから嫌なんじゃ」
瀬良は振り向く。
「何がだよ」
「今ので通じた顔をするところじゃ」
「通じただろ」
「通じたが」
土御門はそれ以上言わなかった。
白鳥は端末を開く。
分からないものを、分からないまま記録する。
前の現場で土御門から言われたことが、ここでも別の形で立ち上がっていた。
※第6話「六十四接続」は全十四回です。
続きます。
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