(五)使わずに済ませるために
◆ 六 使わずに済ませるために
鷹宮が十六接続を見抜いたことで、白鳥は式守の解析条件を変更した。
書類上の二つの八接続ではなく、連続した十六接続として扱う。
今回は効率ではない。
安全性を最優先する評価関数を与える。
入力する項目は、以前より増えていた。
微弱反応の除外禁止。
術具の遅延反応。
術後観測。
現場入りの署名。
本人確認遅延。
処理後経過評価。
現場違和感。
署名変動幅。
それでも、危険度は下がり切らない。
白鳥は画面を見つめる。
「データ不足による局所最適……」
そこで、止まった。
「違う」
「入力パラメータ不足」
白鳥は、思考を下からではなく、上からに切り替える。
観測が不足していることは分かっている。
けれど、単純に観測を足せばいいわけではない。
この術式は、観測を捨てることで成立している。
見ないことで、あらゆる方向へ手を伸ばしている。
見ないことで、自分がどこまで削れているかを知らずに済んでいる。
見ないことで、消えるその時までそこに存在できた。
見ないことで、最後まで何にでもなれた。
そこへ観測を足せば、術式は自分の欠落を見る。
存在しない部分を、自分で認める。
そして、形を保てなくなる。
十六接続の段階で、すでに常識の外側だった。
白鳥は、まず推定を置いた。
あるべき。
すべき。
だろう。
たぶん。
おそらく。
もしかしたら。
ひょっとしたら。
何一つ、通らない。
だから、次に思考の観測を入れた。
なんで。
どうして。
いつ。
どこ。
なに。
だれが。
だれに。
なんのために。
何一つ、返ってこない。
白鳥は、ようやく声にした。
「……解析不能」
少し間を置く。
「いえ」
「解析対象の定義が間違っている」
禁呪だと分かった以上、現状ではそれを解析し、使うしかないように見える。
だが、黒瀬玄一と土御門清胤は、それを危険視していた。
黒瀬は、旧市営地下道の事故そのものを知っているわけではない。
だが、その後の封印維持作業や、不自然な記録欠落に触れている。
黒瀬は言う。
「あの地下道は、終わった現場じゃない」
白鳥が顔を上げる。
「終わったことにされた現場だ」
土御門が続ける。
「禁呪は、強い術ではない」
その声は、いつもより硬かった。
「術式の勘定を、術者の側に回す術じゃ」
白鳥は式守の出力を見つめる。
危険度は下がらない。
だが、現場は待たない。
「このままでは使えません」
黒瀬は即座に言う。
「使えないなら使うな」
白鳥は顔を上げる。
「しかし、代替案がありません」
土御門が言う。
「代替案がないから禁呪に戻る」
白鳥は黙る。
「その考え方が、もう危ない」
鷹宮は資料を見る。
「それでも、地下道の反応は上がっている」
黒瀬が鷹宮を見る。
「鷹宮」
「再封鎖だけでは保たない可能性がある」
「だから、禁呪を使うのか」
鷹宮は答えなかった。
土御門が言う。
「使うために解析するな」
白鳥は土御門を見る。
「使わずに済ませるために、まず見るんじゃ」
白鳥は止まった。
「使わずに済ませるための解析」
「そうじゃ」
土御門は頷く。
「使える形に直すのではない」
「どこが危ないかを見る」
白鳥は画面へ向き直った。
解析の目的が、少しだけ変わった。
※第6話「六十四接続」は全十四回です。
続きます。
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