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八重結び  作者: KEI
第6話 六十四接続

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(四)効いた禁呪

◆ 五 効いた禁呪


鷹宮は資料を閉じなかった。


もう一度、術式の流れを見る。


「これは、単独の怨霊を処理する術式じゃない」


白鳥が反応する。


「累積型を想定している、ということですか」


「そう見える」


鷹宮は、二つに分けられた八接続の境目を見る。


「ただし、綺麗に層を分けて処理しているわけじゃない」


「では」


「むしろ逆だ」


鷹宮は資料を指で叩いた。


「観測で複雑さをほどくのではなく、複雑なものを複雑なまま掴みにいっている」


透は首を傾げる。


「複雑なまま?」


鷹宮は頷く。


「観測で対象を定めれば、術式は整理される」


「何を見て、何を止めて、何を曲げて、何を薄めるのか」


「手順としては正しくなる」


白鳥が続ける。


「ですが、対象が定まった瞬間に、届かない層が出る」


鷹宮は白鳥を見る。


「たぶんね」


「見れば対象は定まる」


「でも、対象が定まった瞬間に、届かない層が出る」


「この術式は、それを避けるために見ていない」


日野原澪が静かに言う。


「対象を決めないから、層全体へ触れられる」


次に、少しだけ声を落とした。


「でも対象を決めないから、術者自身も何に触れているか分からない」


鷹宮は頷く。


「そういう構造だ」


「闇雲だから危うい」


「けれど、闇雲だから全部へ届く」


「その危うさと万能さが、同じ根から出ている」


白鳥は式守の画面を見る。


「対象を固定しないことで、災害、封印、残滓、記録、責任の層を同時に処理対象へ含めている」


「そう言えば聞こえはいい」


鷹宮は冷たく返す。


「でも実際は、見ないまま全部に手を突っ込んでいる」


黒瀬が低く言った。


「まともな術式じゃないな」


鷹宮はすぐに答える。


「まともではない」


そのうえで、資料の末尾を見る。


「ただ、記録上、災害の拡大は止まっている」


誰も、そこを否定できなかった。


「地下道は封鎖されたが、被害は外へ広がらなかった」


白鳥が言う。


「効果はあった可能性が高い」


「高い」


鷹宮は資料を閉じかけて、閉じられなかった。


「だから厄介なんだ」


「危険だから捨てる、で済めば楽だった」


「でも、これは効いている」


「少なくとも、効いた可能性がある」


土御門が、短く言った。


「効いた禁呪ほど、質が悪い」


白鳥は顔を上げる。


「効果があるかどうかも含めて解析します」


土御門は白鳥を見る。


「その言い方も危ない」


「解析しなければ、安全確認もできません」


「安全確認のために禁呪へ近づく」


土御門は静かに言う。


「その入口が、もう禁呪らしい」


鷹宮も白鳥も、使いたいとは言わない。


だが、効果があるなら。

安全確認さえ取れれば。

打開策になるかもしれない。


その発想が、言葉にしないまま場ににじんでいる。


そこに危うさがあった。



※第6話「六十四接続」は全十四回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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