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八重結び  作者: KEI
第6話 六十四接続

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(三)二つ目の八接続

◆ 四 二つ目の八接続


八十年前に使用されたとされる術式資料が、鷹宮亮介に渡された。


紙資料は、古かった。


ところどころかすれ、端は傷み、ページの順番も一部補修されている。

ただし、必要な部分は読める。


鷹宮はそれを受け取ると、小さく呟いた。


「やっと来たか」


白鳥が横に立つ。


「式守でも解析します」


「まずは人間が読む」


鷹宮は資料をめくる。


「打開策になり得るのかどうか……」


そこまで言って、手が止まった。


「八接続の術式の使用予定が記載されている」


篠宮が顔を上げる。


「八接続ですか」


「ああ」


鷹宮はページを追う。


「そして、その後ろに別の八接続」


透が口を挟む。


「二つ使ったってことですか」


鷹宮は答えない。


二つ目の術式構成を追っている。


「二種類の八接続を使ったのか?」


その声は、誰かへの質問というより、自分への確認だった。


鷹宮は二つ目の術式構成をさらに読む。


そして、眉を寄せた。


「おかしい」


白鳥が問う。


「構成ですか」


「観測が一度も入っていない」


鷹宮の指が、術式図の線を追う。


「見る工程を抜いている」


土御門清胤が、静かに資料を覗き込む。


「見ない術式か」


鷹宮は続ける。


「対象を定めず、あらゆる方向へ手足を延ばしている」


少しだけ、空気が変わった。


鷹宮は資料を一枚戻す。


「……違う」


透が聞く。


「何がですか」


「これは、二つ目じゃない」


鷹宮は最初の八接続の終端を見る。


そこから、二つ目の八接続へ続く線。


「一つ目が、まだ終わっていない」


白鳥の視線が鋭くなる。


「連続術式ですか」


「八接続を、折らずに伸ばしている」


鷹宮は、はっきりと言った。


「十六接続だ」


誰もすぐには喋らなかった。


十六接続。


それは、単に八の二倍という話ではない。

人間の手足として扱える範囲を越えた数字だった。


そこで、初めて言葉が出る。


鷹宮は資料から目を離さずに言った。


「禁呪だ、これは」


白鳥が小さく息を吸う。


土御門は表情を変えない。


ただ、目だけが細くなっていた。


鷹宮は資料を最初から見直す。


「二つに分けて提出している」


「書類上は別々の八接続だ」


「どちらも単体では禁呪に見えない」


白鳥が言う。


「当時の行政が禁呪記録を抹消しようとした場合、これは検出を逃れます」


鷹宮は頷く。


「人間もそう読む」


そして、紙面を見る。


「だから八十年残った」


ページの端で、鷹宮の視線が止まる。


「……この術式図、変だな」


白鳥が聞く。


「構成ですか」


「いや、書き方だ」


鷹宮は、図の線と注記を見る。


「術式の流れを理解している人間の書き方じゃない」


「写した字、というより……」


少し考える。


「見たものを、または聞いたものを、そのまま残そうとしている」


白鳥が言う。


「転記、または口述筆記ですか」


「そう見える」


鷹宮は資料をそっと置いた。


「意味を理解して組み直した書類じゃない」


「分からないまま、失くさないように残した書類だ」


透は、思わず聞いた。


「分からないまま残せるんですか」


鷹宮は透を見る。


「残せる」


少しだけ声が重くなる。


「ただし、残るのは意味じゃない」


「形だけだ」


土御門が呟く。


「聞いたものを書き取ったのかもしれんな」


鷹宮は頷く。


「術者本人が書いたというより、近くにいた誰かが、見た通りか聞いた通りに残した」


白鳥が候補を挙げる。


「後輩、補助者、記録係」


「そのあたりだろうね」


鷹宮は、もう一度資料を見る。


「ただ、書いた人間は術式の意味を掴んでいない」


「だからこそ、余計な解釈が入っていない」


「そして、そのせいで八十年残った」


分からないまま残した形。

意味は抜けている。

だが、形だけは残っている。


それが今になって、禁呪の輪郭を見せていた。



※第6話「六十四接続」は全十四回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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