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八重結び  作者: KEI
第5話 式守は禁忌を知らない

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(七)三接続案

◆ 八 三接続案


遅れて滲んだ反応が、階段側へ移った。


対象は薄い。

自律性は弱い。


ただし、人のいる方向へ流れかけている。


黒瀬が処置方針を出す。


「三枝、四つで組め」


透はすぐに返事をする。


「はい」


「観測、偏向、希薄、凝縮」


白鳥が反応した。


「凝縮ですか」


黒瀬は階段側を見る。


「入れる」


白鳥は式守の再解析を確認する。


「対象反応は低位です。希薄で基準値以下まで落とせます」


黒瀬は答えない。


白鳥は続ける。


「式守上は、観測、偏向、希薄の三接続で処理完了判定が可能です」


「だろうな」


「では、なぜ凝縮を」


黒瀬は少し黙った。


「この手のやつは、希薄のあとに凝縮を噛ませることが多い」


白鳥は即座に聞き返す。


「多い、ですか」


「多い」


「必要条件ですか」


「そう言い切れる記録はない」


白鳥は端末を見た。


「凝縮の寄与が記録上不明確である以上、三接続へ短縮する方が安全です」


透が思わず言う。


「安全なんですか」


白鳥は説明する。


「対象反応は低位。物理破損なし。主要術具反応も基準内。残留値も低位です」


そこで透を見る。


「そのうえで、三枝さんの現在の安定接続数を考えると、四接続より三接続の方が事故率は下がります」


透は黙る。


白鳥の言い方は冷たい。

だが、透の接続安定性を軽く扱っているわけではない。


むしろ、現状に合わせて危険を下げようとしている。


白鳥は続ける。


「とくに今回の対象は低位です。希薄で基準値以下まで落ちるなら、凝縮を入れることで得られる利益より、接続数増加によるリスクの方が大きいと判断します」


篠宮も端末を見る。


「……理屈としては、分かります」


黒瀬が篠宮を見る。


「篠宮」


篠宮は苦しそうに答える。


「黒瀬さんの経験則を否定するつもりはありません」


それでも、言葉を続ける。


「ですが、観測上の反応が低位で、破損もなく、術具反応も基準内なら、三枝さんに四接続を持たせるより、三接続で終える方が安定するようにも見えます」


透は、自分の手を見る。


「俺は……正直、分からないです」


黒瀬は廊下の奥を見る。


やはり、場が軽くない。


「希薄で止めると、嫌な残り方をすることがある」


白鳥が言う。


「主観的評価です」


「そうだな」


「式守には入力できません」


「だろうな」


つづりが、札を持ったまま言う。


「うちも嫌だけど」


少しだけ言い淀む。


「でも、三枝が四つ持つのも怖いって言われると、まあ分かる」


篠宮が言う。


「私には、黒瀬さんほどの経験則はありません。現時点の観測値と術者負荷を優先するなら、三接続の方が妥当だと思います」


黒瀬は短く息を吐く。


「……そうだな」


それは、納得ではない。


理屈で押し返せないことを認めた声だった。


「根拠で勝てる話じゃない」


白鳥が言う。


「式守は、観測可能な危険を優先します。場の空気は、現時点では評価不能です」


黒瀬は目を閉じる。


一瞬だけ、場が静まる。


「分かった」


黒瀬は透を見る。


「三接続で行け。観測、偏向、希薄」


透は返事をした。


「はい」


黒瀬はすぐに付け足す。


「ただし、希薄を強く入れすぎるな」


「はい」


「落とすだけでいい。終わらせに行くな」


透は少しだけ喉を鳴らした。


「……はい」


白鳥は式守へ入力する。


「式守、再対応手順を更新」


画面に、手順が表示される。


「観測、偏向、希薄」


白鳥は続ける。


「凝縮工程は省略。理由、接続数低減による安定化、および対象反応低位」


最後に、一瞬だけ止まる。


「現場違和感。評価保留」


その項目は、処理判定には影響しない。


だが、完全には消されなかった。


※第5話「式守は禁忌を知らない」は全十回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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