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八重結び  作者: KEI
第5話 式守は禁忌を知らない

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(六)遅れて使われる札

◆ 七 遅れて使われる札


しばらくして、異常が出た。


怨霊反応は、基準値以下になったはずだった。


初回術後観測でも、二回目の術後観測でも異常値は出ていない。


だが、共用廊下の外。

階段側の手すりに、薄く反応が戻った。


人影型が消えたのではない。

薄くなったあと、外側へ滲んでいる。


透が最初に気づいた。


「階段側、反応あります」


篠宮がすぐに確認する。


「廊下端ではなく、外側です」


白鳥の端末にも、遅れて数値が上がる。


「処理完了判定後の再反応……」


その時、つづりの手元で札が黒ずんだ。


使われなかったはずの予備札だった。


つづりは札を持ち上げる。


「ほら」


白鳥が見る。


つづりは、黒ずんだ箇所を指で示した。


「今、使った」


白鳥は端末を確認する。


「処理完了後に反応した、ということですか」


「だから、使われなかった札じゃない」


つづりの声が、いつもより低い。


「使われた時間が、あんたの判定より遅かっただけ」


白鳥は黙った。


式守の完了判定は間違っていない。

判定時点では、対象反応は基準値以下だった。


初回術後観測でも、二回目の術後観測でも異常値はない。


ただし、その後に出た。


土御門が言う。


「だから言ったろう、とは言わん」


白鳥が振り向く。


「なぜですか」


「わしも、こう出ると分かっていたわけではない」


土御門は階段側を見る。


「ただ、こういう出方をすることがある」


白鳥はすぐに言葉を探す。


「予測不能な遅延反応」


「そう書くなら、そう書け」


土御門は白鳥を見る。


「だが、それで分かった気になるな」


白鳥は端末を握り直す。


「では、どう記録すれば」


「知らん」


土御門は短く言った。


「だが、記録しろ」


白鳥は止まる。


「分からないものを、分からないまま記録する」


「そうじゃ」


土御門は頷く。


「分かったことにして削るな」


白鳥は、つづりの黒ずんだ札を見た。


未使用だったはずの札。

削減可能だったはずの安全。


それが、判定の後で仕事をした。


式守は、失敗したと判定していない。


だが、拾えていなかった。


それだけは、白鳥にも分かった。


※第5話「式守は禁忌を知らない」は全十回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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