(三)削れるもの、削れないもの
◆ 三 削れるもの、削れないもの
式守の短縮案を見て、つづりが最初に噛みついた。
「焦げなかった札を、要らなかった札って数えてる?」
白鳥は式守の出した術具ログを確認する。
「過去類似案件では、該当術具の使用率が低いです」
「使用率?」
「実際に反応した、または損耗した記録がある割合です」
つづりは、腰の術具袋から薄い札を一枚取り出した。
「使わずに済ませるために置いてる札もあるんだけど」
「その効果を示す記録はありますか」
「事故が起きなかった記録ならあるよ」
白鳥は即答する。
「事故が起きなかった理由が、その札であるとは証明できません」
つづりは顔をしかめた。
「うわ、出た」
透が小さく聞く。
「何が出たんですか」
「払わない大人の言い方」
白鳥は眉を動かさない。
「私は支払い担当ではありません」
「責任担当でもなさそうだね」
「責任範囲は元請け側の契約条件に依存します」
つづりは透を見る。
「ほら、逃げ方だけ大人」
白鳥は少しだけ考える。
「年齢は十八で、成人年齢には達していません」
その場の空気が少し止まった。
白鳥は続ける。
「しかし、業務としてここにいる以上、一般的な大人、つまり社会人としての対応が最も妥当と判断します」
つづりは白鳥を見る。
十八。
同い年だと思ったのは、黙っておく。
「……やっぱり逃げ方が大人」
「評価内容が変化していません」
「変える気ないもん」
篠宮は二人のやり取りを聞きながら、式守案を見ていた。
削られているのは、完全な安全確認ではない。
鈴による周期確認。
予備札の余剰配置。
吸い札の一部。
三回目以降の術後観測。
一定時間の待機。
どれも、必ず必要だと証明しにくい。
同時に、全部を削っていいとも言い切りにくい。
つづりは最後に釘を刺した。
「削るなら、削った人の名前を残してね」
白鳥は頷く。
「記録します」
「名前残すって、軽くないんだけど」
「軽く扱うつもりはありません」
つづりは札をしまう。
「軽く扱う人は、だいたいそう言う」
白鳥は少しだけ目を伏せた。
それでも、式守案を取り下げはしない。
つづりは、鷹宮亮介の方を見る。
「うちの札を減らすなら、減らしていい根拠を出して」
鷹宮は、元請け側の立会いとして少し離れた場所にいた。
試験運用の責任範囲と、現場の進行を見ている。
つづりは続ける。
「出せないなら、削減責任者の署名をちょうだい」
白鳥が言う。
「私の署名でよければ」
つづりは首を振る。
「あんた一人に被せたいわけじゃない」
その言葉に、白鳥は少しだけ意外そうな顔をした。
つづりは鷹宮を見る。
「それも嫌なら、古い術式が分かる人を呼んで」
鷹宮は短く考える。
そして端末を取り出した。
「土御門さんに確認する」
黒瀬が少し顔を上げる。
「来るのか、あの人」
「来てもらう」
鷹宮は通話を入れる。
「筋を通さずに削ったことにすると、あとで誰も得をしない」
白鳥はそれを聞いている。
自分の案は、記録上は妥当なはずだった。
だが、妥当な案であっても、通す筋が必要になる。
それもまた、式守にはまだ入力されていない現場だった。
※第5話「式守は禁忌を知らない」は全十回です。
続きます。
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