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八重結び  作者: KEI
第4話 見積外の怪異

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(二)軽微調査

◆ 二 軽微調査


黒瀬退魔処理に、元請け経由で商業施設の霊障調査が入った。


契約上は、軽微な残留霊障の確認。


閉店後の館内を調べる。

問題がなければ報告書を上げる。

必要があれば、軽微な希薄化と経過観察。


それだけのはずだった。


現場は、大型商業施設。


閉店後でも、まだ人はいる。


警備員。

清掃員。

設備管理担当。

テナントの残務担当。

搬入口の業者。


昼間ほどの騒がしさはない。

だが、完全な無人でもない。


美緒は、現地の管理室で契約範囲を確認する。


「今回は調査主体です」


透は、支給された入館証を首から下げながら頷いた。


「残留霊障の確認、ですよね」


「はい。軽微な対処までは契約内です」


美緒は端末を見ながら続ける。


「ただし、自律的に動く怨霊、またはそれに準じる反応が確認された場合は、元請け承認が必要です」


透は少し嫌そうな顔をする。


「軽微じゃなくなるから」


「はい」


美緒は契約範囲の項目を指で追う。


「施設封鎖、客導線変更、警備員の増員、保険適用、テナント説明。全部変わります」


黒瀬が横から言う。


「現場で勝手に大きくするな、ってやつだ」


美緒はすぐに返した。


「黒瀬さんにも言っています」


「聞こえてる」


元請け側の立会いとして、篠宮伊織も来ていた。


学校案件以降、透との距離は少しだけ近くなっている。

ただし、信用はまだ条件付きだった。


篠宮は、いつものようにまっすぐ立っている。


「今回は無理に接続数を増やさないでください」


透はすぐに反応した。


「学校案件の時のこと言ってます?」


「はい」


「通ったじゃないですか」


「通ったことと、安定していることは違います」


「それは黒瀬さんにも言われました」


黒瀬が言う。


「もう一回言おうか」


「大丈夫です」


そこへ、宮守つづりが術具箱を抱えてやってきた。


見た目は十五、六歳ほど。

小柄で、年齢の割に妙に商売慣れしている。


宮守家は、古くから術具を作っている。


良い札を安く渡す。

急ぎの道具を後払いで出す。

現場が困っていれば請求を忘れる。


そういう親や祖父のやり方を見て育った反動で、つづりは商売全開だった。


つづりは術具箱を床に置いた。


「軽微な残留霊障の確認って聞いてるから、今日は最低限ね」


箱を開けると、吸い札、予備札、鏡面杭、結界縄、封緘用の薄紙がきれいに並んでいる。


「吸い札も予備札も、開封したら請求」


透が聞く。


「開けなかったら?」


「開けなかった分は請求しない」


「良心的」


つづりは透を見た。


「開けたら請求するって言ってるんだけど」


美緒が即座に言う。


「当然です」


「味方がいない」


つづりは箱の中身を確認しながら続ける。


「安全装置を無料配布する家業は、うちの祖父の代で終わりました」


篠宮が言う。


「術具は、予備も含めて現場構成の一部です」


「そうそう」


つづりは満足そうに頷いた。


「焦げなかった札も、焦げなかったから仕事してないわけじゃない」


透は、ふと学校案件を思い出す。


「学校案件にも置いてありましたね」


篠宮が答える。


「置いていました」


つづりは即座に言う。


「置いたなら請求対象」


美緒が事務的に返す。


「契約内であれば処理します」


透は二人を見る。


「会話が早い」


つづりはにこっと笑った。


「お金の話は早い方が安全」


この時点では、現場は軽い空気で始まった。


契約範囲は狭い。

術具も最低限。

調査して、軽微なら軽微に終わる。


そのはずだった。


※第4話「見積外の怪異」は全七回です。

続きます。

作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

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