表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八重結び  作者: KEI
第3話 噂が棲む校舎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/86

(三)旧視聴覚室

◆ 三 聞き取りと旧視聴覚室


聞き取りは、放課後の相談室で行われた。


対象は、生徒数名。

学校側の教員が一人、少し離れた席にいる。

美緒が同席し、質問の言い方を調整した。


「怪異を見ましたか」とは聞かない。

「最近、校内で気になったことはありますか」と聞く。


それだけで、生徒の表情が少し変わる。

責められている感じが減るのだと、透にも分かった。


一人目の生徒が、制服の袖を指先でいじりながら言う。


「三階の鏡に、知らない制服の子が映るって」


二人目が続ける。


「夜の足音、最初は動画で見たんです」


三人目は、少し眠そうな顔をしていた。


「夢で、誰かが廊下を歩いてる」


「顔は見えますか」


美緒が静かに聞く。


生徒は首を振った。


「見えないです。でも、こっちを探してる感じがして」


四人目は、膝の上で手を握っている。


「黒板に名前があるんです。でも朝になると消えてる」


透は、聞き取りのメモを見た。


「全部バラバラですね」


隣にいた澪が、小さく首を振る。


「バラバラに見えるだけです」


篠宮が整理する。


「鏡、足音、夢、黒板。観測点が違う」


黒瀬が続ける。


「だが、噂は同じ場所を通っている可能性がある」


美緒は生徒に向き直った。


「動画を見た場所は分かりますか」


二人目の生徒が少し考える。


「たぶん、旧視聴覚室です」


透は聞き返す。


「旧視聴覚室?」


教員が説明する。


「今はほとんど授業では使っていません。放送部が機材置き場として使うことがあります。古いスピーカーや録画機材が残っています」


生徒は少し気まずそうに言った。


「友達が、鏡の動画を編集してて。そこで何人かに見せて」


「それから?」


美緒が促す。


「それから、足音の話も増えて……」


澪が小さく言った。


「なるほど」


透はすぐに聞く。


「そこが本体ですか」


「本体というより、噂が一度まとまった場所ですね」


澪は校舎図の旧視聴覚室を指差す。


「映像、音、記録、誰かに見せるための場所。噂が形を持つには、かなり都合がいい」


篠宮は図面を確認する。


「生徒導線からは外れています。閉鎖もしやすい」


美緒はすでに学校側の許可範囲を確認していた。


「学校側の許可が取れれば、一時的な処理室にはできます」


黒瀬が澪を見る。


「受け皿にできるか」


澪は少しだけ考えてから答えた。


「可能性はあります。発生源とは限りません。ただ、噂が一度増幅された場所なら、集まりやすい」


美緒は噂の広がりを、時系列で読み上げる。


「最初に目立ったのは、三階東廊下の鏡です」


端末の画面を一つ送る。


「次に、旧視聴覚室で動画の編集と共有が行われています」


透は校舎図を見る。


「そのあと、二階渡り廊下の足音」


「はい。それから、クラス内で夢の話が出ています。空き教室の黒板に名前が出るという話は、その後です」


美緒は最後に、SNSと校内チャットの項目を指した。


「現在は、校内チャットとSNSで拡散中。順番としては、鏡、旧視聴覚室、足音、夢、黒板、校内チャットです」


澪がそれを聞いて頷く。


「流路がありますね」


透は、少しだけ自分の方へ話が来た気がした。


「流れがあるなら」


黒瀬が言う。


「お前の出番になるかもしれない」


「偏向」


「まだ決めるな」


黒瀬は校舎図を見る。


「生徒が残っている。篠宮の配置も途中だ。まず、動線を整理する」


美緒が学校側へ確認を入れる。


「東側廊下と旧視聴覚室周辺への立ち入りを一時制限します。校内放送は使わず、教員経由で伝えてください」


教員が戸惑う。


「放送は使わない方がいいんですか」


澪が説明する。


「今回は音と映像にも噂が乗っています。全校放送で“怪異”や“噂”を扱うと、余計に広がります」


美緒が続ける。


「体調不良者が出ているため、東側廊下への不要な立ち入りを控える。その程度でお願いします」


「分かりました」


美緒は透を見る。


「聞き取りで噂を増やさないことも処理です」


透は頷く。


「聞き方も、処理」


「はい」


その言葉は、今回の学校案件をかなり正確に表している気がした。


だが、現場はいつも、整理した順番通りには進まない。


三階東廊下側から、短い物音がした。


何かを布で覆うような音。

それに続いて、札が鳴る気配。


篠宮が顔を上げた。


「誰か、処置に入っています」


黒瀬の目が細くなる。


「先に呼ばれていた簡易対応か」


美緒が端末を見る。


「学校側が、別窓口で依頼していた業者です。共有漏れですね」


透は思わず言う。


「ここで共有漏れ」


美緒の声が冷える。


「学校案件では、珍しくありません」


珍しくないことほど、厄介だった。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/yaemusubi_top/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ